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「たけし」は、時代の「ピエロ」だ

「たけし」は、時代の「ピエロ」だ
"Singer Takeshi" (撮影:池野 徹)2002年
【PJ 2008年06月25日】− 楽屋の椅子(いす)に座っている男がいた。身じろぎもせず1人静かに座している。少し離れた手前に、安岡力也の声が響く。ジョー山中や桑名正博、宇崎竜堂、白竜、パンダらが談笑している。そこへ内田裕也があらわれた。椅子の男は、軽くあいさつをした。その人は、北野武こと「たけし」だった。その日は2002年12月31日、30周年を迎えた「ニュー・イヤー・ロック・フェスティバル」の年の瀬の楽屋、ゲストに来ていたのである。私は、このバッドボーイズのロックン・ローラーズの写真を撮った。その奥にひっそりと座っている、たけしがすごく気になったのを覚えている。その後、一緒に写真を撮った。握手した手に、「もの静かで、まじめなヒトだな」の印象だけが残った。

 1977年、西銀座のお店で、ピンクレディのまねっこコンテストが行われていて、私も審査員で出席していた。そこへ前座で現れたのがツービートだった。審査員の某ベテラン女性歌手を捕まえて、いきなり痛烈にその体形をなじったのである。たけしである。歌手は怒り、即座に席を外してしまった。強烈な毒舌だった。「気をつけよう、ブスが痴漢を待っている」「寝る前にきちんと絞めよう親のクビ」とか、残酷ネタで毒舌ギャグで、のし上がっていったのである。それはどこから発想したのだろう。

 東京足立区の下町で、ペンキ職人の家に生まれた。おばあちゃん子で、野球、ボクシング、落語好きで、世の常識と正義は、身につけていた普通の子供であったようだ。大学の時に飛び出し新宿でジャズ喫茶等に入り浸り、多くの人との出会いがあり影響を受けたようだ。アルバイトで転々として、1972年、浅草のストリップ劇場、「フランス座」でエレベーターボーイのかたわら、芸人としてコントを始める。そこで世の中の裏表、男と女の欲望の葛藤(かっとう)の中で、まじめで本来、頭の良い正義の少年が、社会のほんとうの姿を垣間みたことが、強烈なコントから、尖鋭(せんえい)的で戦略的な毒舌にまでなったと思われる。

 つまり、人間を斜めから見る事で、真っ正面から毒舌斬り、それが、社会の流れとマッチングして来たのだ。本来なら避難中傷され消されるのが当たり前だが、笑いと言うベールは、たけしを人気者にしてしまう。そして、今度はそれを逆手に取り揶揄(やゆ)する。メディアを通じて、民衆をいくらバカにしても、芸になるバカバカしさに気がついている、たけしがいた。軍団を組んでますますこけおどしをする。その笑いの裏に見える真実の人間の姿をたけしは意識していたに違いない。

 モスクワ国際映画祭で「特別功労賞」をもらい、大歓迎されて、たけしは、「日本では映画評価されてないし、あのトルストイを生み出したロシア人は、オレを褒め過ぎで恥ずかしい」と本音を言っていた。たけしの芸人としての領域から出る部分で、映画創(づく)りがある。今までの日本映画への不満もあるが、人間の本質をエンターテインして、表現したいと思っているのだろう。1989年の「その男、凶暴につき」から14作目の2008年公開予定の「アキレスと亀」までの監督作品があり、ヴェネチア、カンヌ、カタロニアと外国映画祭で授賞して、日本というより海外で評価されている。

 確かに、「キタノブルー」と言われるイメージ作品から、ヴァイオレンス、キッズものまで、たけしがトライしているものは、日本人にピッタリ来ないのかも知れないが、外国には受けるというジレンマは、ギャグととらえられるだろう。お笑い芸人がまじめな映画を創るというギャップは、外国人には関係なく受け入れられている。むしろお笑いパフォームするたけしに、人間的魅力を感じているようだ。「座頭市」は日本でも受けたが、これは、オリジナルの勝新太郎の「座頭市」の個性には勝てないが、外人受けを狙った創りが見える。たけしの映画は、いままでは、たけしの、その反応ぶりを試して、笑いと人生の「ピエロ」を演じているのだ。モスクワの市民が言っていた「キタノは道化師だからね」と。【了】

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パブリック・ジャーナリスト 池野 徹【 千葉県 】
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