今回の退場に弁解の余地はない。ただ、大久保がその強気のキャラクターで"嫌なFW"に成長してきたことも事実だ<br>(photo by Kiminori SAWADA)

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 またか、と思った人もいるだろう。敵地マスカットで行われたオマーン戦で、大久保嘉人が退場処分を受けたのである。

 日本サッカー協会の関係者のひとりは、冷静な物言いのなかにも怒りを込めたという。「いまに始まったことではない」と。

 主審が胸ポケットにしまっている赤と黄色のカードは、大久保にとって確かに身近な存在と言えるかもしれない。03年の東アジア選手権の韓国戦では、前半だけで2枚のイエローカードをもらってしまった。優勝するために勝利が条件だったジーコのチームは、0−0のドローに持ち込むのが精いっぱいだった。大久保のカードコレクターぶりは、Jリーグでも上位にランクされている。

 相手GKを蹴ってしまったのだから、今回の退場に言い訳の余地はない。ただ大久保のやんちゃなキャラクターが、チームにとって貴重なのも事実である。

 ゴール前の競り合いや1対1の攻防は、負けられない気持ちのぶつかりあいである。やられっぱなしではいけないし、相手を削るぐらいの勢いや闘志をぶつけていくべきだ。

 リーガ・エスパニョーラでプレーしたこともある大久保は、Jリーグでも指折りのイヤラシイFWである。彼とマッチアップするブラジル人のセンターバックは、まるで申し合わせたかのように言う。「オオクボはやりにくい選手だ。彼はとにかくズルがしこい。ディフェンダーをイライラさせるようなことをしてくるんだ」

 フェアプレー精神はもちろん大切だが、国際試合ではちょっとズルがしこいくらいでもいい。オマーン戦の退場はひとまず反省してもらうとしても、強気で前向きで尖がったメンタリティは、これからも失ってほしくないのだ。

文/戸塚啓(スポーツライター)

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