「チームの一つのピースに」と語る長谷部<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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 岡田ジャパンでのデビュー戦となった、5月24日コートジボアール戦。玉田圭二によってもたらせれた唯一得点は、この日、ボランチとして出場した長谷部誠の質のいい動きが生んだと言っても過言ではない。

 「僕も前からプレッシャーをかけ、チームとしていい形でボールを奪えた」と長谷部は得点の場面を振り返る。

 マイボールにした直後、長谷部は右サイド前方のスペースを見つけて、そこへ走り出す。相手選手も追いつけず、フリーの状態で長谷部は今野からのパスを受ける。ゴール前のスペースには玉田が走りこんでいた。大久保が相手DF二人を玉田から引き離すように動いている出す。

 「中の選手もフリーだったので、いい形でゴールを生むことができた」

 長谷部は、浦和時代にはあまり見せることのなかった良質なクロスボールを蹴り、玉田がそれを決めたのだ。

 「ヴォルスブルグでは、右アウトサイドでプレーすることも多いから、結構クロスボールの練習をやっているんですよ」と笑った。

 08年1月、ドイツへ渡った長谷部は、ほぼすべての試合でピッチに立っている。ダイヤモンド型のシステムで中盤のあらゆる場所でプレーしていると言っても過言ではない。長谷部の多様性、バランスが取れるプレーをフェリクス・マガト監督は買っているようだ。

 「最初は練習がハードで毎日、筋肉痛になるくらいだった。きちんと食べないと身体が持たないと感じるくらいだから」

 初めての欧州舞台。不安や戸惑いもあったに違いないが、2月に現地で見た先発デビュー戦での長谷部は、チームメイトとコミュニケーションを取ろうと積極的に働きかけているのが印象的だった。もちろんドイツ語ができるわけでもない。しかし、知っている言葉を駆使してチームメイトの輪へと飛び込んでいた。そういう彼の姿勢があったからこそ、試合出場という結果へつながった。彼の活躍と並行するように、チームも勝ち星を重ね、来シーズンのUEFAカップへの出場権を手に入れた。

 ドイツでのシーズンを終えて、合流した日本代表。長谷部が最も気遣っていたのは「このチームのサッカーを理解すること」だった。“欧州でプレーしている”長谷部の新しい力を、誰もが見たいと期待する。しかし、長谷部が記者から問われて最も窮するのが「ドイツでの経験をいかして」というような質問である。「日本とドイツとの違い」などを問われても、「よくはわからない。今はドイツのことよりも、ここ、代表でやることが大事だから」と応える。

 また、「欧州でプレーしているということで、世間が長谷部選手に大きな期待を寄せているが」という質問に対しても「行って4ヶ月だし、海外に行っているからすごいとか、そういうことでもないと思う。そういう風な目で見られるというのは、僕にとっては仕方のないこと。プレッシャーになる部分もあるとは思う。強いてあげるなら、ドイツへ行って球際の厳しさというのをすごく感じて帰ってきたので、そういう部分を意識したプレーをしたいと思った。相手がボールを持ったときのプレッシャーのかけ方とかは上手く行ったのかなと思う」と話している。

 ドイツでの経験などを考えるよりも、現在の長谷部にとって重要なのは、代表でのポジション争いだ。アシストしたコートジボアール戦も「ボールを持ってからのミスが多かった」と反省ばかりを口にしている。

 6月2日のワールドカップオマーン戦でも先発、勝利に貢献できたことに手ごたえも感じているに違いない。しかし、今もなお、長谷部は挑戦者という気持ちを抱き続けている。「僕には失うものは何もない」という思いは、ドイツへ旅立ったときと同じだろう。

 「あの形でのボランチは運動量が求められるから、いかに90分で力を使い切るかを考えなくちゃいけないと思う。とにかくこのチームでメンバーとして勝ち残るためにも。毎日の練習でアピールしなくちゃいけない。早くチームのサッカーを理解し、チームの一つのピースになれるように頑張りたい」

 “一つのピース”という言葉が彼の姿勢をあらわしている。

 例えば、ヨーロッパや南米、アフリカの選手と個人技で対峙したときに、打ち勝つことは簡単ではない。そこは日本人ということがデメリットになるポイントである。では日本人が欧州でプレーする場合のストロングポイントは何かと考えたとき、それは平均的に様々なプレーがこなせることや、勤勉性や規則への忠実さという点にある。それは組織の一員としての力だ。きっと長谷部もそれをドイツで再確認したに違いない。