オマーンの致命傷となった中村のファインゴールは、松井の泥臭いワンプレーを引き金にして生まれた<br>(写真:山崎康司/フォート・キシモト)

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 オマーン戦の勝因は、後半開始早々に3点目を決めたことにある。

 サッカーにおける2−0は、セーフティーリードではない。実はもっとも危険なスコアである。2−0から2−1になると、失点したチームには焦りが生じる。得点したチームには勢いが生まれる。追い詰められた者と、追いかける者のどちらが強みを発揮できるのかは、改めて言うまでもないだろう。

 それだけに、中村俊輔のファインゴールは価値あるものだった。0−3となったあとのオマーンは攻撃性を失い、それ以上の失点を避けることだけに専念していた。

 功労者は松井大輔である。3点目の流れを巻き戻すと、フランスでプレーする背番号9がクローズアップされてくる。

 左サイドバックの長友がタテにフィードしたボールは、オマーンのアルムシャイヒが支配下に収めた。一度は確かに収まった。

 だが、渋滞の列に割り込むように身体を入れた松井は、強引にボールを奪い返す。慌てたアルムシャイヒはファウルで止めようとしたが、主審はアドバンテージをみた。バランスを崩しかけた松井は、それでも持ちこたえてドリブルをしていったのである。

 アルムシャイヒがキープしてボールはタッチラインを割り、自分たちのスローインから試合は再開される──オマーンの選手はそう思ったはずである。ほんのわずかだが、彼らは足を止めてしまっていたのだ。松井のドリブルをケアしながら、中村(俊)にスペースと時間を与えないための準備は、わずかだが致命的な遅れを取ることになった。勝負あり、である。

 サッカーでは、国際試合では、「一瞬の油断」が命取りになると言われる。マッチレポートのアシスト欄に小さく記された「9」という数字が、とても頼もしく思えた。

文/戸塚啓(スポーツライター)