昭和4年に刊行された、小林多喜二の小説「蟹工船」(新潮文庫)が、最近、再び売れ始めている。

 プロレタリア文学の代表作だけに、これまでも年間5000部ほどは売れていたのだが、今年に入って4月に7000部増刷。それでも品切れ状態になり、急遽5万部を再増刷した。その数、例年の100倍だ。

 この突然のブームは、新聞紙上で発表された作家の高橋源一郎・雨宮処凜両氏の対談といわれている。その紙上で、現在のフリーターと状況と酷似しているという話が持ち上り、結果、若い世代を中心に売れているというのだ。

 新聞で紹介されたことがきっかけで本が売れるということはよくある。確かに、低賃金で過酷な労働を強いられる「蟹工船」の貧しい労働者と、定職に就けずアルバイトで日々の生活を営むフリーターの境遇は重なって見えているのかもしれない。

 しかし、もうひとつ「蟹工船」がブームになった決定的な要素がある。

――それは「マンガ」化されていることだ。

 マンガ版は白樺文学館・多喜二ライブラリーが発行するものと、イーストプレス社発行の文庫サイズの「まんがで読破」シリーズのものがある。どちらも、多少のアレンジはなされているものの、原作にほぼ忠実なストーリー展開となっている。

 活字離れが叫ばされて久しい昨今、80年ほども前の小説が突然大ブームになるには、このマンガ版の功績は大きいのではないだろうか。

 小説というものは、読み始めるとその内容に引き込まれる。しかし、話の内容は得てして重い、まさに「蟹工船」のようなタイプの小説は、読み始めるのに結構な覚悟が必要なことも多い。

 しかし、そんな小説がマンガであったらどうだろうか。おそらく、小説よりは気軽に手にとってページを捲ることができるだろう。

 「蟹工船」は、決して読んで明るい気分になるような小説ではない。しかし、「マンガ」という体裁になるとその重苦しさも多少なりとも軽減される。特に、活字離れが激しいといわれている若い世代には、入り口としてかなりの効果を発揮していることだろう。

 白樺文学館・多喜二ライブラリーが発行する「マンガ蟹工船」は、PDFファイルで公開されており、無料でダウンロードできる。

 また、イーストプレス社の「まんがで読破」シリーズは国内だけでなく海外の作品もマンガ化している。海外の小説は難解なものが多いが、マンガであれば気楽に読み始められるだろう。

 もしかしたら、マンガを通じて第二の「蟹工船」のような再ブームが起こるかもしれない。マンガから名作を知る。そんな読書スタイルもアリだ。

(三浦一紀)

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