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登山事故の体験者が現地を検証し、安全策を考える=雪峰の八ヶ岳・硫黄岳(4)

2008年05月23日08時22分 / 提供:PJ

pj
登山事故の体験者が現地を検証し、安全策を考える=雪峰の八ヶ岳・硫黄岳(4)
硫黄岳の北面で滑落し、ピッケルで停止できた。稜線(写真の地点)に戻るまで、急斜面のトラバース(横の移動)だ。恐怖との戦いだった。(撮影:穂高健一、15日) 写真一覧(2件)
(3)からのつづき。硫黄岳の噴火口跡に転落した。同時に、身体は切り立つ急角度の雪上を滑りだす。加速度のついた滑落は恐怖そのものだ。『冷静になれ』と自分に言い聞かせる。と同時に、反射的に身体をうつぶせにし、ピッケルのピックを打ちこみ、上半身の体重を乗せていく。10代で登山を始めてから、ピッケル制動の練習は、夏の雪渓や冬の雪山で、意識してくり返している。からだが自然に対応してくれる。

 雪面は滑り台と違い、起伏が大きい。全身がバウンドする。飛び跳ねる。ゴア(生地)のヤッケは全身に油を塗ったように滑りやすい。ピッケルがうまく利いてくれない。両脇が開くと、一度ピッケルを抜き、ピックを打ち直す。そのうえ、顔面も、足のつま先も、抵抗になるものはすべて使う。

 12爪(つめ)のアイゼンならば、登山靴の先端に爪が飛びだし、ブレーキになる。しかし、軽アイゼンの靴先は逆にツルツルで役立たない。それすらも恨んだ。雪面から出た草つきが、強い抵抗になってくれた。滑落停止ができた。1年後の検証で、滑落は高度差205メートルだとわかった。

 全身が停止すると、しずかに呼吸を整える。気持ちを落ち着かせる。そして、靴の先端で雪面を蹴(け)って足場を作り、立ち上がる。ここからも難易度が高い。稜線(りょうせん)までは、屹立(きつりつ)する斜面のトラバース(横の移動)だ。軽アイゼンだから、靴先が役立たない。足がすくむ。再度の転倒、という恐怖との戦いだった。その記憶がいまだに生々しい。

 ハイカーでも山歴が増せば、思わぬところで、ツルッと滑ってしまう。ぞっとする瞬間は何度か経験するものだ。それを前提に、悪天候とか、隘路(あいろ)とか、条件の悪い山にも登ってみよう。

 雨の登山道は水が川のように流れる、ヌカるんで滑る。転ぶ。こうしたくり返しの経験が大切だ。アクシデントに対して、とっさの対応につながるからだ。同時に、晴れていた山の天候が急変し、雨になっても、冷静に登山ルートを掌握できる。道に迷わずにすむ。そのうえ寒さにも対応ができるようになる。

 1年後の硫黄岳の検証から、メディアに出てくる評論家たちの『登山者の判断の甘さ、無謀登山だ』という批判は役立たないものだと再認識した。なぜならば、登山者は登山口から下山まで、全知全能の神のように、常に緊張で行動できないからだ。

 登山者は、年に数回は安全を確保した上で、あえて悪天候の山にも登っておくことだろう。それがわが身を守る、安全登山の道につながる。【了】

■関連情報
記者HP:穂高健一ワールド
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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一

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