今週のお役立ち情報
激変する国際石油事情=迫られる消費者の認識と対応(下)
大手T社は、全国各都道府県に74GSを有する企業だが、社歴は30年とこの業界にあっては新興勢力と見られている。近隣で最安値のこのGSでは、リッター144円の安値につられて、この日8基の軽量機がすべて満車であった。(17日午後6時、茨城県桜川市にて撮影:今藤泰資) 写真一覧(2)
ところがビジネスマガジンの「ドライブの勧め」と「エコドライブ」は、厳密にいえば必ずしも一致する話題でない。環境保全に配慮する立場と、もっと出掛けてほしいという企業の本音は、二律相反するテーマだからだ。そこには石油業界人としての悲しい現実と苦悩がにじみ出ている。似たような例がある。04年11月、日本たばこ産業株式会社(JT)は、「ハイライト」など11銘柄について、たばこの及ぼす健康被害の注意表示を強化した新包装デザインを発表。包装表裏のそれぞれ30%のスペースを使って、喫煙による健康被害を喚起したものだった。
実のところ、健康第一とするならば、喫煙の全面禁止が最大の決め手だ。同様に、CO2の排気量低減には、石油系燃料の使用禁止が最大の決め手ということになる。もちろん、JTでも石油販売会社でも、タバコを売らず、ガソリン給油を断るワケにはゆかない。企業本来の目的と、社会的責任は相反するテーゼであり、事業性と社会性の整合をどう組む込むかが今後の課題となっているのだ。例にあげた大手S社は、地域社会に根を下ろす伝統的な石油販売業者。石油業の将来を見据えて、20数年前から「多角化に成功した企業」としての認知度も高いが、販売増と「エコ」の矛盾から抜け出す方法を見いだすのは、苦労が多かろう。
S社のような地域社会依存型の販売業者と異なり、最近とみに勢力を拡大してきたのが全国規模のGS運営業者群だ。例えば、四国で起業したT石油は、原油の開発、輸入、精製、販売に至る「一貫操業」を目指し、事業を拡充してきた。本体の社員数は542名(2008/3月末現在)。少規模企業ながら、サウジアラビアの「サウジアラム」、マレーシアの「ペトロナス」、ブルネイの「ブルネイシェル」、韓国の「SKグループ」など多元的ソースを誇っている。国際石油業界は、開発・掘削・輸入・精製・販売の5部門に分類されているが、同社は掘削以外の全部門を自前で行っていることが特徴だ。
似たような社名のT鉱油は、全国に74GSを展開する企業だ。社歴は30年とこの業界にあっては新興勢力と見られているが、販売に徹(てっ)しきった方針で急成長を遂げてきた。同様に全国展開をするU鉱油は昭和25年の創業。全国に400の直営GSを持ち、複数の元売り会社と契約。GSの立地によってブランドが異なるが、いずれもイニシャルUの看板も掲げ、バイパスや高速道路のインターチェンジなどを中心に営業を展開。創業者がトラック輸送の将来を察知し、事業を拡大したというエピソードがあり、営業の主力は運送会社だ。ちなみに、写真のT社と100メートルほど離れたU社は同じ全国チェーンのGSグループ。片やレギュラー144円、一方は151円。数キロ離れた地元大手のS社では158円。国道50号線上で競い合っているが、共倒れはしないという、まかフシギな業界だ。
これらの全国規模の大手販売各社は、いずれも沖縄県に販売拠点を持たないのが特徴だ。沖縄石油精製や南西石油に代表される小規模精製工場が、沖縄県には存在する。1967年、米系石油会社4社が外資導入免許を申請。これらの進出が認可された場合、本土復帰後100%外資系石油企業が進出する事になるため、通産省(当時)はこれら4社に対し、「両角二原則」とする報復措置を通告。本土への外資進出を防ぎ、本土からの沖縄進出も抑制する措置を講じたのだ。さらに沖縄県は、税制特区としてガソリン税の優遇措置も講じられており、元売最大手の新日本石油の牙城とされていることが、他社の積極進出を阻害しているのかもしれない。
だが、これら全国規模の「安売り大手販売業者」の台頭にもかかわらず、なぜ「末端の小規模事業者」らが生き延びられるのか。家庭用の主要エネルギーは、ガス、灯油、電気で、熱量構成比率は各々3分の1。ガス約30%のうち、LPガスと都市ガスは半分ずつのシェアだ。つまり全体の15%がLPGということになる。都市部でのLPガス販売業者は、灯油店や酒屋の兼業が多いが、地方はおおむねGSとの兼業が主体だ。ここにローカル小規模GSが生き延びる秘訣(ひけつ)が隠されている。LPガスの販売はある種の利権である。爆発物としての法規制によって保護された業界であり、販売価格は安定し、異業種からの参入は阻害されている。
だからこそ零細GS運営者は、「ガスがあってのアブラ。アブラだけじゃあ食ってゆけない」ということになる。日本全国、一見同じように見えるGSだが、詳細に観察すれば、こうした複雑怪奇な流通形態があってこそ成り立つビジネスなのだ。「一物百価」と揶揄(やゆ)され理由が、多少は理解されるだろう。ガソリン価格の高騰、省エネ車の著しい増加、厳しいGSの職場環境、代替燃料の普及、隣接同業者との熾烈(しれつ)な販売競争…。世界でも国内でも、石油業界の抱える課題は多く、将来は多難なのである。
激変する国際石油事情の中、消費者の業界への認識と対応が、いま迫られている。わが国の政治のありようも、「油上の楼閣」であることを確認し、暫定税率などという枝葉末節の次元で、政党で言い争っている場合ではないのだ。ついでに言えば、マスメディアは、値上げや値下げの混乱だけを、針小棒大に取り上げるのではなく、石油業界の実態を充分に把握し、事の本質を報道すべきであろう。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 今藤 泰資【 茨城県 】
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