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お兄系の台頭
先週末、 Hankyu Men’sがついに開店し、3日間で来客数は180,000人にのぼった。『繊研新聞』によると、テナントの中で一番の売上を誇ったのはルイ・ヴィトン初の男性ブティックだったという(このことは、日本ではLVは女性だけのものではないことを証明している)。しかし意外だったのは、2番目に売上の高かったブランドである。そのブランドとは、サブカルチャーの中でも比較的新しい“お兄系”ファッションブランドの中でリーダー的存在のBuffalo Bobs 。前途有望な“ワイルドでセクシー”なカジュアルブランドは、3日間で990万円も売り上げた。数多くのヨーロッパ高級ブランドやデザイナーブランド、スタンダードなアイビーリーグのブランド、その他の超有名ブランド名を連ねているにもかかわらずだ。トップブランドが直接競合するなかで、これは日本のファッション市場の中で消費者の心をつかむ戦いになっているとも考えられる。お兄系は “ギャル男の男らしさ”を市場に適したかたちで追求したカルチャーとして、ここ数年で形になってきた。ギャル男とは、かつて渋谷の“ギャル”サブカルチャーの中でも極端な“ガングロ”の女の子たちと一緒に遊んでいた若者たちだ。彼らも大人になって、凝ったフェイスペイントや派手に飾り立てた服はやめて、アビエイターのサングラスにファーのついたナイロンパーカー、海賊ブーツにふんわり盛り上げた茶髪、体中につけられるだけのシルバーを身につけている(ホストを思い浮かべるとわかりやすい)。お兄系の中心といえば渋谷だが(もっと詳しく言えば、渋谷109−2の5,6階)、そのスタイルは列島全土に広がっている。
ファッション市場がゆっくりと崩壊していく中、日本の若者の間で流行する次の大きな波を模索する、海外の“ジャパンクール”ハンター達が存在していることを考えると、日本とグローバルなメディアのオブザーバーたちが“お兄系”にこぞって注目していると思われがちだ。巨大なアパレルメーカーや『Men’s Egg』や『Men’s Knuckle』といった独立したファッションブランドに頼っているメディアからのサポートがほとんどない中で“お兄系”は内側から起こったファッションの動きであり、きちんとした販売市場もできあがっている。
しかし、真っ黒に日焼けした“お兄系”の若者たちは、『Men’s Non-no』の表紙を飾ることはない。“ワイルドでセクシー”なスタイルは、ファッション業界では受け入れがたいものとしてとらえられていると言ってもいい。基本的に“お兄系”は、1970年代から不良の美学のお手本ともなってきた“ヤンキー”サブカルチャーの最新形である。全体的なカルチャーにおいて代わる代わる美化され、悪者扱いされてきたヤンキーだが、常にファッション業界や“きちんとした”消費者主義の枠の外へとのけ者にされてきた。“お兄系” の位置づけも本質的に同じだ。“真面目”な男性ファッション誌は“ストリート”スタイルを少しだけ取り入れることはあっても、大体において“不潔っぽい” と考えられているお兄系に触れることはない。
ここに、クール業界で浮き彫りとなっている典型的な問題点をみることができる:実際に売上、成長、盛り上がりという意味では“勝ち組”とされる若者サブカルチャーも、そのスタイルがトップにいる人たちが個人的に認めていないためにゲットー化している点だ。今までは、ボトムアップによるカルチャーの高まりを考慮し、雑誌は消費者志向の変化に対応するため、仕方なくファッションセンスの変更をおこなってきた。しかし、多くの場合、その“新しいスタイル” (80年代後半の渋カジ、90年代中頃の裏原宿など)は中・上流の若者の間で起こった動きであった。言い換えれば、彼らは雑誌のメインな読者層である。しかし、お兄系は、下層階級が好むカルチャーとしての認識が強いために、『Popeye』や『Men’s Nonno』といったファッション市場の“リーダー”たちはお兄系を語り、市場の中でも上位のカルチャーや広告主(最も大事なターゲット層も)からの信頼を壊すようなことは到底できない。そうはいっても、お兄系を主流とした雑誌のご機嫌をとるようなことは、もはや重要ではなくなってきているのかもしれない。Buffalo BobsやVanquishは、今の地位まで登りつめるまでにファッションプレスの力を借りる事はなかったわけで、何も今わざわざ始めることもないだろう。
しかし、今はもっと大きな疑問が持ち上がっている:トレンドスポッターやクールハンターたちは、この10年間ファッショントレンドはクールなものの最先端をわかっている“スタイルエリート” (それもクールハンター自身のテイストと似たものを持っている人たち)から沸き起こってきたものだと言っていた。今、必ずしもこれが当てはまるとは言えない。社会資本や文化資本が減って市場には活気がなくなり、ニッチな志向に偏った数多くのカルチャーが平行に動いている。その底辺とされるニッチなカルチャーこそが、大金をもたらす経済力の集結する場所となっているからだ。アキバ系と同様、お兄系は単に自分達の“型にはまらない”市場において存在する消費者を指すものではなくなった。彼らだけが、意味のある消費をする消費者なのだ!
■著者プロフィール:W・デーヴィッド・マークス
米国出身。ハーバード大学東洋学部、慶應義塾大学大学院商学研究科卒業。
在学中よりGQ, Harper's, Nylonなどの米国の雑誌に寄稿し、
2006年から東京の広告代理店ダイヤモンドエージェンシーでプランナーとして活躍中。
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