「接見」という体験を通して犯罪の愚かさを痛感した
2008年05月11日09時17分 / 提供:PJ
警察に拘置されている容疑者、すなわち「被拘置者」に面会することを「接見」という。ふつうに生活している身にはそうめったに訪れることのない機会だろう。被拘置者のプライバシー保護のため詳しい事情は伏せるが、40数年間生きてきて初めて、その機会が訪れた。
都道府県によって若干の違いがあると思うが、大阪府警某警察署の接見時間は、平日の午前9時30分から午後4時まで。しかも当日の受け付け順で電話予約はできない。接見室がひとつしかないので、接見の申し込みが多ければ、あとになるほど待ち時間が長くなる。
私がA君の逮捕を知ったのは5月4日のお昼過ぎ、本人が警察署から差し出した速達郵便を受け取ったからだった。事情を確かめるべく警察署へ電話をかけ、担当の刑事と話すことができた。詳しい状況は教えてもらえなかったが、接見は可能だという。
「平日の午前9時30分から午後4時まで面会できます」という話が出たのはその電話のやり取りの中でのことだった。
そして仕事の日程をやりくりして、9日(金)の午前9時ちょうどに警察署を訪ねた。エレベーターで3階へ上がり、刑事課へ通じる通路の片隅に設けられた「面会受付」でA君と接見したい旨を告げた。
受付に座っていたのは50歳代ぐらいと思(おぼ)しい男性だが、私服を着ているので警察官なのか一般職員なのかは分からない。ただ面会の申込者に対してやけに横柄な態度で応対しているから、警察官だろうと思われる。
「A君に接見したいのですが」。すると受付の男性は「火曜日と金曜日は入浴日やから、面会は午後からになるねん。だから今日の面会は昼からになるで」と言う。
こちらは敬語で対しているのに、向こうは一段上からモノを言う態度だ。
「先日、担当の刑事とのお話では、平日の午前9時から面会できると聞きましたが?」。相手が警察官であろうと、矛盾はただしておく必要がある。おくすることなく言い返した。するとそれが面白くなかったのか、受付の男性は少し気色ばんで「今日は平日やがな!」と返してきた。
私は「それでは今この場で申請して、午後一番で面会できますか」と問い返した。
受付の男性はしばらく私の顔を見て、「面会は初めて?」と、さっきまでの横柄な態度をやや緩めて聞いてきた。
初めてであることを告げると、「それじゃ、これに住所と名前と電話番号を書いて」と面会の申請用紙を私の前に広げた。そして「面会できるかどうか、担当の刑事に確認してくるから待っててや」と言って刑事課へ入って行った。
今から接見できるように計らってくれるのかと期待したが、それは甘かった。接見の時間が取り調べの予定とかち合わないかを確認しに行っただけだった。申請用紙を書き終えると「接見に応じるかどうか、本人に確認してくるから待っててや」と言って、今度は刑事課とは逆方向にある通路の奥へ消えていった。先ほどから様子を窺っていると、どうやらその通路の向こうが、いわゆる留置場なのだった。そこから時折、手錠と腰縄でつながれた人間が出入りしているのだ。
A君は接見に応じる意思ありというので、午後の一番で接見室へ通されることになった。午後まで時間をつぶして再び警察署を訪ねると、約束どおり一番に接見室へ案内された。重い鉄製の扉は、音声が外部へ漏れるのを防ぐためか、あるいは安全確保のためか。とにかく金庫なみの分厚い扉が付いていた。
室内は刑事ドラマでよく見るおなじみの「殺風景」そのもので、ガラスで仕切られた向こうの部屋に被拘置者が座り、こちら側に接見者が座る。接見者のいすは3つ用意されていた。
A君は番号で呼ばれ、立ち会いの警察官と共にガラスの向こうに現れた。細かい穴の開けられた丸窓は音声の通りがすこぶる悪く、お互いに何度も聞きなおさねばならなかった。
立ち会いの警察官は被拘置者の後ろに横向きに座り、接見中はわれわれのほうに視線を向けることはない。私が書いた接見の申請書を見たり、A君に届いたと思(おぼ)しき手紙の類に目を通している。だが申請書は別として、手紙の類は事前に検閲しているはずだから、接見の立ち会いであらためて目を通す必要はないはずだ。こちらに視線を向けないで聞き耳を立てるポーズであろうと思量された。また部屋のどこかに両者の音声を拾うマイクが存在するであろうことも常識で判断できる。
接見時間はわずか20分と制限され、弁護人を除いては1人につき1日1回と回数も制限される。食べ物の差し入れは原則認められず、差し入れが認められるのは事実上、衣服と3万円以内の現金、そして2冊までの本だという。
今回は望んでいたわけではないが、警察署に拘置されている被拘置者との接見にいたる一連の手続きと実際の現場をまったく偶発的に体験する機会を得た。番号で呼ばれる知人とガラス越しに面会するという状況は、なんとも情けなく悲しい体験であった。
罪を犯した人はよく「魔が差した」というが、一時の気の迷いであっても犯罪は犯罪。そこには被害者がいる。この体験を通してことさらに強く、罪を犯すことの愚かさを痛感した次第である。【了】
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都道府県によって若干の違いがあると思うが、大阪府警某警察署の接見時間は、平日の午前9時30分から午後4時まで。しかも当日の受け付け順で電話予約はできない。接見室がひとつしかないので、接見の申し込みが多ければ、あとになるほど待ち時間が長くなる。
私がA君の逮捕を知ったのは5月4日のお昼過ぎ、本人が警察署から差し出した速達郵便を受け取ったからだった。事情を確かめるべく警察署へ電話をかけ、担当の刑事と話すことができた。詳しい状況は教えてもらえなかったが、接見は可能だという。
「平日の午前9時30分から午後4時まで面会できます」という話が出たのはその電話のやり取りの中でのことだった。
そして仕事の日程をやりくりして、9日(金)の午前9時ちょうどに警察署を訪ねた。エレベーターで3階へ上がり、刑事課へ通じる通路の片隅に設けられた「面会受付」でA君と接見したい旨を告げた。
受付に座っていたのは50歳代ぐらいと思(おぼ)しい男性だが、私服を着ているので警察官なのか一般職員なのかは分からない。ただ面会の申込者に対してやけに横柄な態度で応対しているから、警察官だろうと思われる。
「A君に接見したいのですが」。すると受付の男性は「火曜日と金曜日は入浴日やから、面会は午後からになるねん。だから今日の面会は昼からになるで」と言う。
こちらは敬語で対しているのに、向こうは一段上からモノを言う態度だ。
「先日、担当の刑事とのお話では、平日の午前9時から面会できると聞きましたが?」。相手が警察官であろうと、矛盾はただしておく必要がある。おくすることなく言い返した。するとそれが面白くなかったのか、受付の男性は少し気色ばんで「今日は平日やがな!」と返してきた。
私は「それでは今この場で申請して、午後一番で面会できますか」と問い返した。
受付の男性はしばらく私の顔を見て、「面会は初めて?」と、さっきまでの横柄な態度をやや緩めて聞いてきた。
初めてであることを告げると、「それじゃ、これに住所と名前と電話番号を書いて」と面会の申請用紙を私の前に広げた。そして「面会できるかどうか、担当の刑事に確認してくるから待っててや」と言って刑事課へ入って行った。
今から接見できるように計らってくれるのかと期待したが、それは甘かった。接見の時間が取り調べの予定とかち合わないかを確認しに行っただけだった。申請用紙を書き終えると「接見に応じるかどうか、本人に確認してくるから待っててや」と言って、今度は刑事課とは逆方向にある通路の奥へ消えていった。先ほどから様子を窺っていると、どうやらその通路の向こうが、いわゆる留置場なのだった。そこから時折、手錠と腰縄でつながれた人間が出入りしているのだ。
A君は接見に応じる意思ありというので、午後の一番で接見室へ通されることになった。午後まで時間をつぶして再び警察署を訪ねると、約束どおり一番に接見室へ案内された。重い鉄製の扉は、音声が外部へ漏れるのを防ぐためか、あるいは安全確保のためか。とにかく金庫なみの分厚い扉が付いていた。
室内は刑事ドラマでよく見るおなじみの「殺風景」そのもので、ガラスで仕切られた向こうの部屋に被拘置者が座り、こちら側に接見者が座る。接見者のいすは3つ用意されていた。
A君は番号で呼ばれ、立ち会いの警察官と共にガラスの向こうに現れた。細かい穴の開けられた丸窓は音声の通りがすこぶる悪く、お互いに何度も聞きなおさねばならなかった。
立ち会いの警察官は被拘置者の後ろに横向きに座り、接見中はわれわれのほうに視線を向けることはない。私が書いた接見の申請書を見たり、A君に届いたと思(おぼ)しき手紙の類に目を通している。だが申請書は別として、手紙の類は事前に検閲しているはずだから、接見の立ち会いであらためて目を通す必要はないはずだ。こちらに視線を向けないで聞き耳を立てるポーズであろうと思量された。また部屋のどこかに両者の音声を拾うマイクが存在するであろうことも常識で判断できる。
接見時間はわずか20分と制限され、弁護人を除いては1人につき1日1回と回数も制限される。食べ物の差し入れは原則認められず、差し入れが認められるのは事実上、衣服と3万円以内の現金、そして2冊までの本だという。
今回は望んでいたわけではないが、警察署に拘置されている被拘置者との接見にいたる一連の手続きと実際の現場をまったく偶発的に体験する機会を得た。番号で呼ばれる知人とガラス越しに面会するという状況は、なんとも情けなく悲しい体験であった。
罪を犯した人はよく「魔が差した」というが、一時の気の迷いであっても犯罪は犯罪。そこには被害者がいる。この体験を通してことさらに強く、罪を犯すことの愚かさを痛感した次第である。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 平藤 清刀
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