【赤木智弘の眼光紙背】巻き込む 巻き込まれる
2008年05月08日11時00分 / 提供:眼光紙背
赤木智弘の眼光紙背:第32回
このところ、硫化水素での自殺が流行っているらしい。日刊ゲンダイが報じるところによると、4月だけでも59人が硫化水素を発生させての自殺をしているそうだ。(*1)
ニュースサイトに「硫化水素」という文字を入れて検索すると、なるほど、ゴールデンウィーク期間内だけでも、多くの記事を発見することができる。
そして新聞もテレビも連日のように「あっちで硫化水素での自殺があった、こっちであった」と、相変わらずの馬鹿騒ぎをしている。
いいかげんに、こういう大声を出すだけの報道はやめにしてもらえないものだろうか。
そもそも、自殺の件数自体が1998年以降、3万人を超えており、警察庁による「平成18年中における自殺の概要」(*2)によれば2006年の自殺者数は32,155人。これを単純に12で割れば1月頭2,680人が自殺している。そのような状況で、たかだか月60人程度の硫化水素自殺をこれほどまでに大事のように扱う必然性はないはずだ。
確かに今は硫化水素による自殺が流行っているが、それは今に始まったことではない。少し前までは練炭による自殺が流行っていた。
練炭自殺はなぜかネットで見知らぬ他人と一緒に決行される事が多かった。当時には「他人と一緒であれば、ためらいそうになったときに自分勝手にやめることができなくなるからという理由が囁かれていた気がするが、硫化水素自殺の多くが自室にひとりで決行されている事を考えると、決してそんな合理的な理由があったわけではなさそうだ。
さらに言えば、硫化水素での自殺だって別に自室でやらなくても、どこかの山の中で車に目張りをしてやってもいいはずで、なぜか自室が多いのは、やはり単なる流行り廃りなのだろう。
「自殺が流行りになるなんて、今の時代はとんでもない!」という声が聞こえて来そうだが、自殺の方法が流行するなんて事は別に現在特有の病理でもなんでもない。
管賀江留郎による『戦前の少年犯罪』(築地書館)によれば、1933年の1月と2月に三原山の火口に女学生が投身自殺をする事件があったが、この両方の自殺に同じ同級生が立ち合っていたことがセンセーショナルを呼び、この年だけで1,000人弱が三原山の火口に身を投げたという。
戦後にしても、1980年代に高島平団地での自殺ブームがあり、これは他人の迷惑を顧みないという点では、硫化水素と似たようなものであろう。
そしてなにより、ブームのあるなしに関係なく、現在は年間3万人が自殺をしているのであり、自殺方法のブームに眉をしかめても、なんの意味もないのである。
ただ、確実に問題があるとすれば、硫化水素という強い毒性を持つ気体を使っての自殺は、他人を巻き込む可能性があるということだ。同じ気体を使っての自殺でも、練炭自殺の場合は火を使うためか、車に乗って遠くの山や森へ行って決行する事例が多く、あまり他人を巻き込むという問題はなかったように思う。
私は自殺も個人の自由の一種であると考えており、自殺そのものに強く反対はしないのだが、他人を巻き込む自殺は殺人そのものであると考えており、無理心中などはいかなる理由があろうと、決して肯定しない。そうした意味で、自室で行う硫化水素自殺は悪質な自殺といえよう。
こうした悪質な自殺を無くすためには、どうすればいいのか。
1つはもちろん、適切なフォローをすることである。
先にも挙げた「平成18年中における自殺の概要」によれば、自殺者のうち15,402人が健康問題で、6,969人が経済生活問題を苦に自殺を選択している。特に経済生活問題のカテゴリーは、1988年には1,396人であったものが、自殺者が3万人を超えた1998年以降は常に6,000人を大きく超えている。これが平成不況や中途半端な構造改革の結果であることは言うまでもない。
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