【赤木智弘の眼光紙背】企業には替わりがあるが、人間には替わりなどない
2008年05月01日11時00分 / 提供:眼光紙背
赤木智弘の眼光紙背:第31回
アサヒ・コムによると、日本電産の永守重信社長が4月23日に開かれた記者会見で、「休みたいならやめればいい」「社員全員が休日返上で働く企業だから成長できるし給料も上がる。たっぷり休んで、結果的に会社が傾いて人員整理するのでは意味がない」などと発言したという。(*1)これは、日本電産がサッカーチームだとして、「ルールを守ってチームが負けるのでは意味がない」と、チームメンバーに覚せい剤を投与したり、サイボーグ化して闘わせているという、ルール違反を宣言しているのに等しい。そして当然そのようなチームは、技術力があろうが、得点を取ろうが、サッカー界から徹底的に追放されるべきなのだ。
サッカーの世界で尊敬される監督とは、選手を物としか考えず使い潰しながら勝ち星を挙げる監督ではなく、選手を育て、サッカー界の今後の発展に寄与しながら、同時に勝ち星を挙げることができる監督なのである。
それと同じように、産業界では労働法を遵守しながら利益をあげることのできる経営者こそが名経営者として尊ばれるべきであり、一時の利益のために法を守らないことを明言する経営者など、単なる俗物でしかない。こうした経営者をのさばらせることは、日本の産業界における「恥」である。
かつて、アメリカの文化人類学者ベネディクトは、著書『菊と刀』で「日本は恥の文化である」と称したが、いつから日本はこのような恥を恥とも思わぬ国になってしまったのだろうか。
ルールを守ることのできないダメな経営者をどんどん追放し、ルールを守って利益をあげることができる能力のある経営者をより分けるのが、本来の「市場原理主義」のはずだ。
ところが昨今の経営者は市場原理主義という言葉を平気で口にしながら、その一方で「自分の会社はつぶれるべきではない」と、会社に市場原理主義が適用されることを拒否し、労働者に対してばかり市場原理主義を適用しているように私は思う。
この手の経営者達がよく口にする、「会社がつぶれれば、社員が路頭に迷うぞ」というのは、脱法のための詭弁であると同時に、労働者に対する恫喝でもある。
私は「じゃあ、路頭に迷えば?」と思う。
会社など、いくらつぶれてもいい。社員は一時的に路頭に迷うが、それなりのスキルを持つ人であれば、必ず受け皿になる会社があるのが、本来の市場原理主義であるはずだ。
しかし現状そうもいかないのは、新卒一括採用、年功序列、終身雇用という、流動性無き日本的経営の弊害である。ならば弊害を改正することこそが必要なのであり、一時的に正社員が路頭に迷うという痛みを受け入れるべきなのだ。
だいたい、現状では派遣やフリーターといった非正規労働者が、なぜか一身に「痛み」を引き受けており、正社員だけがこれを否定できると考えるのは自分勝手が過ぎる。そうした意味で、不況時に正社員の権利のみを守り、非正規労働者を足蹴にしてきた「連合」に、この永守発言を批判(*2)する資格はないと、私は考えている。
要は、経営者も正社員も非正規労働者(すでに路頭に迷っている)も、みんなが路頭に迷えばいいのだ。それが「市場原理主義によってもたらされる流動性」である。
特に、「ルールを守らない」宣言をした永守に経営者たる資格はないのだから、すぐにでも業務停止になり、経営者社員一同、路頭に迷えばいい。本当にこの日本が市場原理に則っている社会であればそうなるはずだ。そしてその分、別のちゃんとルールを守っている会社が収益を挙げればいいのだ。
しかし、少なくともこうした発言をした永守が多分確信しているであるように、永守は路頭に迷うことはない。当然、この国では市場原理主義など、まともに機能していないからだ。この日本電産という企業が決して小さな泡沫会社でないこと自体が、この国の歪みを象徴している。
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