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【眼光紙背】中国の貿易黒字が縮小している本当の理由

【眼光紙背】中国の貿易黒字が縮小している本当の理由
門倉貴史氏

門倉貴史の眼光紙背:第27回

07年末以降、輸出の伸びの鈍化によって、中国の貿易黒字が縮小している。中国の貿易黒字の縮小については、「米国のサブプライムローン(低所得層向けの住宅融資)の焦げ付き問題が深刻化したことによって中国の輸出にもその影響が出てきた」と見る向きもあるが、これは誤解と考えられる。

もちろん、米国経済減速の影響が全くないとは言えないが、中国の輸出の伸びが鈍化している本当の理由はもっと他のところにある。中国はわざと貿易黒字を減らそうとしているのだ。海外需要が低迷した結果として輸出が伸び悩んでいるというよりは、そもそも政策的に輸出を抑制しているということだ。

現在、中国は、貿易収支の不均衡を、通貨人民元のレートの調整によってではなく、税制度の改定によって調整しようとしている。税制度を臨機応変に変更することによって、輸出の伸びの抑制を図っているのである。
中国の政策当局が行っている税制度の変更には2つの方法がある。1つが「輸出増値税」の還付引き下げと撤廃で、もうひとつが輸出税の増税である。

まず、1つめの「輸出増値税」の還付引き下げと撤廃の政策からみていこう。「増値税」というのは、いわゆる「付加価値税」のことで、94年から導入された。中国でモノを販売したり輸出したりする業者は、販売額から仕入れ額を差し引いた付加価値額に一定の税金がかけられる。「増値税」の税率は、原則17%となっている。

しかし、中国政府は、輸出業者に限っては、原材料の仕入れ分について、「増値税」の還付を受けることができるようにしていた。なぜ、輸出業者だけがこのような恩恵を受けられたのかといえば、当時の中国では、原材料を輸入したうえ、それを加工して製品を輸出する加工貿易を奨励する政策がとられていたからだ。

しかし、その後、貿易黒字が大幅に拡大して、米国を中心とした先進諸国との間で貿易摩擦が起きるようになったため、中国政府は加工貿易の奨励を取りやめるようになった。その一環として、WTO(世界貿易機関)に加盟した2001年末以降、「輸出増値税」の還付引き下げや、一部の品目についての「輸出増値税」の撤廃を行うようになったのだ。そして、07年以降は、「輸出増値税」の還付引き下げと撤廃の対象となる品目数を大幅に増やした。その効果が浸透してきたために、最近になって中国の輸出の伸びが鈍化してきていると考えられる。

中国が加工貿易の奨励を取りやめたもう1つの理由は、急激な経済発展に伴い原油をはじめとする国内のエネルギー事情が逼迫するようになったため、大量にエネルギーを消費する加工貿易は望ましくないという考え方が強まっていることがある。

さらに「輸出増値税」については、その還付をめぐって輸出業者の間で不正が横行しているといわれ、こうした不正が中国の貿易統計そのものの信頼性を低下させている。

07年1月には国家統計局の職員が06年の中国の貿易黒字1775億ドルのうち、70%近くは虚偽によるものだと発表して世間を騒がせた。虚偽というのは「輸出増値税」還付の不正申告のことをさす。輸出業者の多くが税関に提出する書類で、輸出額を水増し記載して、「輸出増値税」の還付額を増やそうとしている。その結果、統計上、輸出金額が巨額なものになってしまうというカラクリだ。

こうした不正をなくすという目的からも「輸出増値税」の還付引き下げと撤廃が強化されている。
貿易収支の不均衡を是正するために、「輸出増値税」と並んで強化されているのが「輸出税」の増税である。これまで輸出税は、個別品目ごとに段階的に引き上げられてきており、とくに07年以降は大幅に強化された。08年以降もそうした動きは続いており、たとえば08年1月からは一部の希土類の輸出税の税率が10%から25%へと、15%も引き上げられた。これだけ税率を引き上げれば、輸出の伸びが鈍化するのは当然の流れといえよう。

最近の中国の貿易黒字の縮小は、サブプライム問題による米国経済減速の影響というよりは、一連の貿易黒字の拡大を防ぐ税制調整の効果が少しずつ現れてくるようになったためと見るのが正しい解釈ではないだろうか。


プロフィール:
門倉貴史(かどくら・たかし) 1971年生まれ。エコノミスト。BRICs経済研究所代表。専門は、日米経済、アジア経済、BRICs経済、地下経済と多岐にわたる。オフィシャルサイト:門倉貴史のBRICs経済研究所


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧
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