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苦境を乗り越えて 

苦境を乗り越えて 

文●ヴォルフガング・ベッカー
構成・翻訳●安藤正純
写真●兼子愼一郎、足立雅史

高原直泰がドイツでつかんだもの

「浦和レッズマガジン3月号(2月12日発売)より」

 高原直泰は1月11日の新加入会見でこう述べた。「自分では分からないが、日本と違う環境で5シーズン過ごし何かしら身に付いたものがあると思う」ドイツ・ブンデスリーガで歩んだ道のりは決して平坦ではなかった。激しいポジション争いに不可解な起用方法、そして安定しないパフォーマンス。日本を代表する点取り屋は異国の地で幾多の壁にぶつかりながら、そのたびにその困難を克服してきた。果たして高原は5年の歳月で何を得たのか。現地記者の視点からドイツで過ごした5年間を振り返る。

チームへの献身的なプレーがFWのポジションから遠ざけた

 2003年1月、Jリーグ得点王(27試合/26得点)とMVPのタイトルを引っ提げて、高原直泰がブンデスリーガにデビューした。当時の熱狂を振り返るたびに私は妙なあだ名と彼の献身的なプレーを思い出す。

 高原を「スシボンバー」と名づけたのは、サッカーの知識がほとんどない地元ハンブルクの大衆紙の記者であった。あまりに出来過ぎたネーミングのため、あっと言う間に広まったが、何とばかげた発想だったのか。

 練習場は異様な風景だった。それは日本からやってきた記者の数があまりに多かったからである。40、50人が一塊になって高原を追い回していた。中にはドイツ語が話せるというだけで現地採用された留学生も混じっていたが彼らは例の記者同様、全くサッカーを理解していなかった。

 そんな《無学》な彼らも、デビュー戦(1月25日、第18節ハノーファー戦)では平凡なプレーしかできず90分を過ごした高原が、2月9日の第20節でゴールを決めたときには、さすがに事の重大性を十分に認識できたはずだ。アウェー、相手はバイエルン・ミュンヘン、GKはそれまで802分間無失点を続けていたオリヴァー・カーン、そしてロスタイムの同点弾。衝撃的であった。

 シーズン後期からの加入だったため02−03シーズンは全34試合のうち16試合(3得点)に出場。2年目は出場回数がグッと増えて29試合(2得点)。04−05シーズン開幕前まで45試合に出場したことになる。だが、得点がわずか5ではFWとしては非常に物足りない。クラブのGMは「タカはチームの第一線から退いてしまった。FWには(エミール)ムペンザや(ベルナルド)ロメーオ、また(セルゲイ)バルバレズだっている。(クリスティアン)ラーンが交代する際にはタカに出番が回り、彼が左サイドを任されるが、これは絶対にタカハラでなければならないという仕事でもない」と語った。直接、口には出さないものの「得点力がない」と言っていたのだ。そして《余り物》だと思っていたのである。

 当時、「なぜタカは定着できないのか」と話題になったものだ。その原因を探っていくと、彼の無意識のプレーに行き着く。とっさの場面で強引に勝負せず、敵を払いのけることがあるのだ。そのため、わずか10分の1秒ではあるがプレーが遅くなる。たかが10分の1秒ではない。FWの世界だと、相手DFからの激しいプレッシャーに順応するタイミングがとっくに過ぎてしまう長さなのである。

 イエローカードをもらうのもいとわぬ屈強なプレーと精神力、そして鍛えられた肉体。溢れ出る闘争心をもってすればレギュラーを取れる――と結論付けたかったが、高原の欠点はこれだけではなかった。

 それは何と言っても彼が優し過ぎ、冷淡さに欠けているということである。FWは決してチームメート思いになってはいけない。あくまでもエゴイストであるべきだ。それが高原の場合はチームのためを思ってか、しばしば自陣ペナルティーエリアまで戻って戦い、そのため前線に攻めていく際にはエネルギーも集中力もベストの状態ではなくなっていた。だからゴールも決められなかった。

 こうした戦い方の何割かは、監督の戦術やら指示が影響していたのかもしれない。最初の監督であったクルト・ヤラは凡庸な実績しかなく、具体的な試合の進め方やチームコンセプトといったものが見えてこなかった。03年10月、解任されたヤラの後を継いだクラウス・トップメラーは高原をセンターではなく、左のポジションに起用した。新加入のロメーオが彼のポジションを奪ったため2つのFWの指定席を4人で争うようになった。高原は4番手だった。

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