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「総ての責任は司令官たる自分にある」=新銀行東京

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「総ての責任は司令官たる自分にある」=新銀行東京
石原慎太郎都知事。(PJニュース資料写真) 写真は都内ホテルで開催された「東京ビッグトーク 石原知事と議論する会」で撮影 (撮影:山本宏樹、2007年11月21日)
【PJ 2008年03月14日】− つい先日、藤田まこと主演の東映映画「明日への遺言」を観た。東海軍管区司令官であった岡田資(たすく)陸軍中将が名古屋空襲の際に撃ち落とされた米軍飛行兵を処刑した責でB級戦犯として裁かれる法廷ドラマである。タイトルの言葉はその岡田中将が横浜第一号法廷の審理において自分自身の助命嘆願を一切行うことなく自分と同じ罪に問われた19名の部下をかばい、また法理に基づく信念から何度となく繰り返し発された言葉である。

 「名古屋空襲は無差別爆撃であった。それは(戦争のルールを定めた)ハーグ協定違反であり、従って捕らえられた米兵は俘虜(ふりょ)ではなく非戦闘員を大量殺戮(さつりく)した犯罪者として、処罰を行った」という理屈である。しかし、判決は「ハング(絞首刑)」であった。その判決が下された場面で傍聴席の妻に対し「本望である」とだけ声をかけた中将の姿は、トップにある人間の責任のとり方、身の処し方としてまさにその品格、人の上に立つ人間の高潔な品性を感じさせるものであり、深い感銘を受けた。

 翻って、400億円もの巨額増資要請で目下、都議会で紛糾している新銀行東京にかかる石原慎太郎都知事の一連の発言をみると、トップたる人物の覚悟のあり方において天と地ほどの違いがあると言わざるをえない。都議会の野党の責任追及に「最初からわたしが社長だったらもっと大きな銀行にしていますよ」(朝日新聞3月12日朝刊)とうそぶく姿は、新銀行の発案者でもあるトップたる人物の品格の欠片(かけら)も感じられず、責任逃れに汲々(きゅうきゅう)としているように見える。

 また、この2月29日の都の定例記者会見で番記者の「今現在の経営陣について(都知事は)リリーフだというふうにおっしゃったんですけども、これを刷新するタイミングというのはどのあたりをお考えになっているんでしょうか」(東京都HPより。以下同)との質問に対して、石原知事は「さあ、これは銀行の当事者とも話しましてね、その後のセカンドステージの展開が、具体的に決まった段階だと思います。それはできるだけ急がなくちゃいかんと思っています」と、当然だが84%の実質オーナー株主である東京都の首長として、自分が発案し設立した銀行の人事権に大きな影響力を持つことを心ならずも口にした。

 しかし、その直後の「知事は先だって、責任については、ご自身に諸々(もろもろ)の責任があったというふうにおっしゃっているんですが、『諸々』というのは、もう少し、どのあたりに責任があったとお考えでしょうか」との質問に対しては、「まあ世の中は、この銀行を石原銀行と言われるからね、頭取の石原に責任があると言われればそれっきりかもしらんが、これは非常に皮相なものの括(くく)り方でね。私はとるべき責任はとるつもりでいますよ。しかしですね、どういう形でとるか、那辺(なへん)に問題があって、それがどういうふうに構成されて、こういう事態になったかということを詳細に、要するに皆さんにわかっていただき、私も承知しなければ、今後の処理だってでき切れないでしょう」と答弁した。

 知事に責任があるという見方は皮相な考えであると、どこか第三者といった口ぶりで至って歯切れが悪いのである。「公が民業」に進出することへの批判をものともせず、新銀行プロジェクトの言い出しっぺであり一番の推進者でもあった自治体のトップとして、この言い逃れとも見える様は冒頭の岡田中将をひきあいに出すまでもなく、いかにも見苦しい。

 今回の400億円の増資要請と併せ、新銀行は2月20日付けで本文わずか5ページの「再建計画」を公表した。この再建計画を読み込むのにものの数分も必要としない。この数ページの再建計画を一瞥(いちべつ)しただけで400億円という多額の増資に踏み切る経済人がいるとすれば、それは狂気の沙汰(さた)と言うしかない。内容の具体性のなさや計画の実効性に対する説得性のなさには正直あきれて物が言えない。

 ひとつ数字をあげてこの再建計画の実現性に具体的疑問を呈してみる。新銀行東京の公表された直近期の決算数字(平成19年9月中間決算)のなかに利回・利鞘という項目があるが、そのなかに資金運用調達利回差という数字がある。これはいわば銀行が有する総資産の運用収益率である。19年9月期(中間)の数字は0.34%と公表されている。

 今回発表の再建計画のなかで平年度ベース(つまり巡航速度の平常年度)の運用資産は700億円と計画されている。また単年度黒字化を達成する平成23年度の総資産は1360億円となっている。上記の資金運用調達利回差0.34%を仮に適用して試算すれば、平年度の運用資産から産み出される利益は、700億円×0.34%の2億3800万円となる。また仮に総資産1360億円全部が運用できたとしてもそこから生まれる利益はわずかに4億6240億円という計算になる。

 また、同再建計画のなかに今後の経費カット後の業務経費として7億円、営業経費として26億円(平成23年度)という数字が示されている。現状の運用利回差0.34%を前提とすれば、縮小均衡の再建計画の総資産からでる利益は2億円から5億円程度と考えるのが、常識的な算盤勘定である。それしか利益が出ないのに対し経費総額は33億円(平成23年度)となれば30億円弱の大赤字になるというのが、単純な算数の世界の答えである。

 しかし、提出された再建計画では平成23年度の当期純利益は8億円と計上されている。その計画を利回りという別の観点から検証すれば、8億円の利益計上に必要な資金運用調達利回差は、最も利益が出るケースの総資産1360億円をすべて運用できたと仮定すると3.01%という計算結果となる。現在の新銀行東京の実績利回差(0.34%)の約9倍という利ざやまで今後の営業努力で引き上げねばならぬことになる。

 巷間(こうかん)、収益力があると言われる三井住友銀行の平成19年9月期(中間)の資金運用調達利回差ですら、その水準は0.57%でしかない。その約5倍の収益力を今後の4年間で達成するというのである。絶対的金利水準が極めて低位にある現状の金融環境のなかで、そもそも通常の銀行業において3%もの総運用利回差を前提としていることこそ、この再建計画の実現性に大きな疑問があるのだと指摘せざるを得ないのである。

 民間会社の取締役会でこうした杜撰(ずさん)な再建計画を鵜呑(うの)みにし増資決議を行ったとすれば、仮に将来、この新銀行が破たんした場合、増資に賛成した取締役は全員、特別背任の罪に問われても不思議はない。今回のケースで言えば、万が一そうした事態に陥ったときにその責めを負うべきは、大株主の東京都、就中(なかんずく)、そのトップたる都知事であり、また増資要請に賛成の一票を投じる都議会議員である。特別背任という提訴はできぬが、行政訴訟を起こすべき事案であることは論をまたない。ちなみに2005年6月に成立した新会社法の第960条は、「取締役等の特別背任罪」について「次に掲げる者が、自己もしくは第三者の利益を図りまたは株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役もしくは千万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」と定めている。

 言うまでもなく増資に当てられる400億円は都民の税金である。都知事がたった5ページの再建計画でフィージビリティー(事業可能性)ありと確信をもつのであれば、この増資断行に際し、何も迷うことなくその信念の証しとして税金投入につき債務の「個人保証」を行ったらよい。都知事の言う通り再建が果たされるのであれば、400億円という税金が紙くずになることはない。要すれば、都知事が400億円という債務の保証履行を迫られる事態などありえないのだから、信念と税金投入の妥当性への確信に基づき堂々と個人保証を行うと宣言したらよい。そこまでやれば、「総(すべ)ての責任は司令官たる自分にある」という都知事のトップたる覚悟のほどに都民も敬意を表し、400億円もの税金投入にも一応の納得を示すのではないだろうか。【了】

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パブリック・ジャーナリスト 野田 博明【 東京都 】
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