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ほとんどのメンズファッションはミリタリーに通ず?

ほとんどのメンズファッションはミリタリーに通ず?
スーツ=軍服!?―スーツ・ファッションはミリタリー・ファッションの末裔だった!!
スーツ=軍服!?―スーツ・ファッションはミリタリー・ファッションの末裔だった!!

 同じ服飾史本でも『スーツの神話』が「思想」という視点なら、本書『スーツ=軍服!?―スーツ・ファッションはミリタリー・ファッションの末裔だった!!』は「軍服」という切り口で、スーツをはじめとした、クラシックなアイテム、例えば、トレンチコート、ブレザー、ネクタイなどについて言及しています。「スーツ=軍服!?」というキャッチーな題名ですが、内容は非常に硬派。落合正勝氏の著作からの引用もあり、話も細かい(よく調べている)ので、読むと落合イズムを感じるうんちく本です。

 では具体的にどんなことが書いてあるのか。序章の「我々の身近にあるミリタリーファッションの影響」から一部、抜粋してみます。

以下のような事実をどれだけの人が理解しているでしょうか。例えば、

・スーツ型衣服の原型はルイ14世時代の軍服である
・トレンチ・コートは本来「塹壕用のコート」の意味である
・カーディガン、ラグラン袖はクリミア戦争で生まれた
・腕時計は軍隊で携帯用の時計として、第一次大戦で一般に普及した
・女性が短いスカートを穿くようになったのも戦争の影響である
・フロックコートはプロシャの軍服から、タキシードは英海軍の礼装から生まれた
・ダブルのブレザーの語源は英海軍の軍艦「ブレザー」である
・ブルゾンやパーカーは米軍の戦闘服が原型。それまで軍隊に戦闘服などなかった
・Tシャツはもともと米軍の衣料として普及した
・ダブルのスーツの襟の形は騎兵の正装から、シングルはアウトドア用のコートから生まれたが、その源流もすべてナポレオン時代の軍服にある
・英国人にとってレジメンタル・タイが特別な意味を持つのは、陸軍においてレジメント(連帯)が別格な組織だからである
・軍隊の敬礼の由来は、汚れた手を隠し帽子を汚さないための英軍の習慣である


ファッション関係の書籍を読み漁っている人や、漫画『王様の仕立て屋―サルト・フィニート』を読み込んでいる人は、このあたりのお話はご存知だと思います。しかし。本章を読み進めると、さらにマニアックなことが書いてあるので、服オタクの人でも楽しめること間違いなしです。

 私もタキシードが英国海軍生まれだとは知りませんでした。英国海軍のメス(食事用)ジャケットがタキシードの原型で、そのメスジャケットのネックウェアが黒の蝶ネクタイなんだそうです。タキシードの代名詞「ブラックタイ」はこんなところにルーツがあるのですね。他にも「スーツのボタンの一番下のボタンを留めないのはなぜか」「シングルにはセンターベント、ダブルにはセンターベンツというルール」「007がブリオーニを採用した理由」など、興味深い話が多数収録されています。

 こんな感じで、スーツの章、ブレザーの章、コートの章、ネクタイの章、ブルゾンの章、勲章の章、靴の章、鞄の章、帽子の章、腕時計の章、その他こぼれ話、とうんちく話が続くのですが、なぜか、ボトムス(パンツ)の章がないのです。ぱっと思いつくだけで、カーゴパンツ、チノパン、グルカショーツ、ベルトなど、パンツ関連もミリタリーに由来しているアイテムが多いのですが・・・。鞄の章の「ヴィトンの小話(ドンペリ、トランク、日本の家紋)」や「ヴァルカナイズド製法」なんてどうでもいいのです。「靴の手入れは自分でするに限る」「10足の靴を交互に履いたほうが長持ち」とか、ありきたりなハウツーの話ではないですか。その他こぼれ話の章なんて蛇足もいいところです。ミリタリーに特化した一冊にすればいいものの、余計な話も多いんですね。

 私も含め、服オタク(ファッション好き)というのはうんちくだけではもの足りず、ついつい余計な一言を述べてしまうのですが、この著者にもそれを感じました。「クールビズは深い考えのない人たちの押し付けである」「現代日本の虚弱な若者がエディ・スリマン的スタイルをするのは、ますます頼りなくて仕事ができないように見えるだけ」「日本人はいまだに海外の風俗を単なる流行として、一過性のものとして受け入れる発想しかない」「若者は、彼らは、○○を知っているのだろうか?」など、ところどころで話の本筋から脱線し、「日本のファッションは軽薄でだらしない(着崩しすぎ)」と苦言を呈しているのです。本書はうんちく本なので、「ルーツを知ろう」「着こなしとは教養だ」「洋服・洋装の文化を理解しよう」「正しき服装とは」という保守的なスタンスにならざるを得ないのはわかりますが、余計な一言が多いと言いますか、やや説教くさく感じました(それだけ著者の服に対する思いが熱いのかもしれません)。それでも、歴史やうんちくが好きな人には楽しめる一冊だと思います。


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