中小企業の公的支援と「新銀行東京」の失敗
2008年03月11日06時49分 / 提供:PJ
新銀行東京のロゴマーク。二つの長方形がすれ違ってるように見える・・・かも。都知事と都民?
個人事業主や中小企業への融資は、リスクの高い融資業務である。このことは、バブル崩壊後の不良債権処理で、銀行が真っ先に中小企業への貸し出しを縮小したことからもわかる。このような「貸し渋り」で窮地に陥った中小企業を支えてきたのは、国民生活金融公庫や中小企業金融公庫などの政府系金融機関だった。2007年3月末の貸付残高は、国民生活金融公庫で約8兆3500億円、中小企業金融公庫で約6兆4500億円、商工組合中央金庫で約13兆3500億円であり、3つの合計は28兆円を超える。
これらの政府系金融機関がリスクの高い融資を行っているのは不良債権比率からも明らかで、民間銀行の不良債権比率が2007年9月で1.5%なのに対して、中小企業金融公庫では15.1%、国民生活金融公庫では9.8%、商工組合中央金庫で25.3%となっている。(いずれも2007年3月における金融再生法に基づく開示債権の割合)
このような多額の不良債権を抱える金融機関が民営化するとどうなるか。先行した例が、石原慎太郎・東京都知事の肝いりで発足した新銀行東京だろう。国と東京都という運営母体や資本規模の違い、新銀行東京が設立時から民間組織という位置づけであったことなどの違いはあっても、公的資金を中小企業に貸し付けて運営するという理念は共通している。新銀行東京の2007年9月の不良債権比率は10.17%で、前述の政府系金融機関に匹敵する比率になっており、民間金融機関が融資に踏み切れないリスクの高い債権を引き受けるという目的は、ほぼ達成できたように見える。
新銀行東京の累積損失が、2008年3月に1016億円に達することが報道され、経営陣や石原都知事の責任を問う声が高まっている。設立準備段階での見通しの甘さや放漫な経営など、批判されるべき点は多々ある。経営上のさまざまな問題もこれから明らかになってくるだろう。だが、中小企業支援を目的としてスタートした金融機関が10%程度の不良債権を抱えることは当たり前で、今になって経営陣や都知事の責任を声高に追及するのは滑稽(こっけい)に見える。また、都知事が経営陣に責任を転嫁するような発言をすることなど、笑止千万だ。「中小企業支援のための公金投入は必要だ」と、堂々と都民に訴えるべき性質の問題である。
不景気にあえぐ中小企業を公金で救済するという理念で新銀行東京を設立したことは、地方自治体の新たな活動として画期的であったことは間違いない。地方分権が進めば、これまで国が行ってきた中小企業支援を誰が行うか、という問題が必ず浮上する。残念ながら、その先べんを付けた新銀行東京は、遅かれ早かれ破たんするだろう。しかし、誰かがやらなければならない中小企業支援をこれからどうするのか、という問題は、経済ニュースの枠を超えて、極めて重要な政治問題だ。
民営化した政府系金融機関は、民間金融機関を大幅に超える不良債権比率でスタートする。株式会社になれば、当然、不良債権比率を下げることを目標とするだろう。そうすれば、中小企業の支援・育成や、ベンチャー企業などの起業などへの、高リスク融資は真っ先に削られるに違いない。これでは、既存の民間金融機関と全く同じになってしまう。それでいいのか。
2002年、「金融システムの破たんによる混乱を回避するため」と、民間金融機関に巨額の公的資金が投入されたとき、"混乱"とは"融資引き上げによる中小企業の破たん"だとわたしは思っていた。だが、実際には、銀行そのものの救済が行われただけで、公的資金で救ってもらった銀行は、中小企業を窮地に追い込んだ。その窮地から多くの中小企業を救ってきた政府系金融機関が実質的に消滅すれば、中小企業は雲散霧消するだろう。
大企業が日本経済を支えているように見えるかも知れない。だが、実際に日本を支えているのは、企業数の99.7%、従業員の66.4%を抱える中小企業だ。華々しい大企業をじっと支えている中小企業を支援しなければ、産業は成り立たない。IT産業を例に出すまでもなく、新しい産業は、常にベンチャーや中小・零細企業から生まれてくる。融資がムダになるかも知れないことを承知で支援しなければ、誰が新しい産業に挑戦しようとするのか。
市場原理というのは、明確で厳格だ。事業に失敗すれば即、退場である。リスクの高い融資先には高い金利で融資するし、経営が怪しくなればすぐに債権を回収する。だが、そういう市場原理に基づく金融システムは、民間企業に任せておけばよく、国は政策として中小企業支援をしなくてはならない、とわたしは思っている。政策とは、税金を使うことである。中小企業支援を目的とした新銀行東京が破たんしそうな今だからこそ、公の中小企業支援はどうあるべきなのかを議論すべきだろう。税金をムダ使いすることを覚悟しないとできない支援がある。産業を育成するということは、そういう支援の一つだとわたしは思う。
公金を投入する必要性を都民に訴えていれば、新銀行東京は中小企業支援の本拠地になり得た。産業の空洞化や、技術立国の危機を感じている市民は多いはずだ。きっと、強力な支援が得られただろう。赤字黒字よりも、どこにどれだけの資金を投入したのかに関心が集まっただろう。そう思うと、なんともやりきれない、もったいないような気持ちになる。新銀行東京の失敗におびえて、株式会社日本政策金融公庫が萎縮(いしゅく)することを危ぐしている。誰もリスクに手を伸ばさない社会には、停滞か後退かしかない。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 小林 亮一
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