東京の和平協議は決裂、帰国後の一斉弾圧、そして刑務所が消えた
2008年02月29日11時57分 / 提供:PJ
スマトラ島で暮らす女性作家・リンダ・クリスタンティさんは小説『スルタンの杖』の歴史的根拠を語る。スペース・ゼロ(東京・渋谷)で。(撮影:穂高健一、24日) 写真一覧(4件)
日本はそのアチェと無縁ではない。スマトラ沖大地震の1年半前になる、03年5月に東京で、インドネシア政府と、アチェ独立をもとめる『自由アチェ運動』の代表とが和平協議をおこなったのだ。決裂した。その後はどうなったのか。
日本ペンクラブ主催の世界P.E.N.フォーラム「災害と文化」の3日目、24日には、スマトラ島で暮らす女性作家・リンダ・クリスタンティさんの小説『スルタンの杖』が朗読された。作者の口から、この物語の歴史的根拠が語られた。
インドネシア政府は、東京和平協議から帰国してきた、『自由アチェ運動』の活動家たちをその場で逮捕した。同時に、アチェに戒厳令を敷いたのだ。
国軍や警察による、アチェ独立を叫ぶ活動家たちの強制連行や逮捕が相次いだ。刑務所に収監されたり、見せしめに遺体が路上に投げ出されたり。その遺体には拷問の跡があったという。
日本人の感情からすれば、東京で和平協議が決裂したからといい、「インドネシア政府はここまで弾圧をやるのか」と驚きと怒りを覚えてしまう。だから、アチェ独立派が自国でテロ活動をやるのだ、自業自得だ、と言いたくなる。
国際世論は、東京和平協議の決裂後、アチェ独立運動にだんだん理解を示すようになってきた。だから、なおさらかもしれない。
日本のメディアはインドネシア国内で爆破事件があると、テロだと言い、大々的に報道する。反面で、インドネシア政府によるアチェ独立運動家への過酷な弾圧は報じていない。 爆破事件がテロ活動か、独立運動か。となると、歴史的根拠から書かれる、文学の世界も判断材料のひとつ。
マラッカ海峡に面したアチェは、スマトラ島の一部だが、別国家だった。16世紀には「スルタン」(王国)として絶頂期にあった。アチェの独立心は強く、ポルトガル、イギリス、オランダなどにも屈せず、植民地にもならなかった。みずからの文化と独立を守ろうと、(欧州列強に)激しく抵抗し、20世紀まで独立を貫いてきた。
しかし、第二次世界大戦後、インドネシア共和国に組み込まれてしまったのだ。スカルノ大統領、スハルト軍事政権、メガワティ大統領の時代、いずれもアチェ独立を叫び続けてきた。
1971年にはアチェで天然ガスが発見されると、資源確保を狙うインドネシア政府はますますアチェ分離独立派に対して強圧的な弾圧をおこなった。1976年、アチェが独立宣言すると、対立はさらに激化したのだ。
「アチェ独立宣言から、04年12月26日の大地震までの約30年間は、『政治的緊張』と、暴力的な波がアチェの各地で普通に暮らす、普通の人にも押し寄せてきました。小説『スルタンの杖』はそれら歴史を前提にした物語です」とリング・クリスタンティさんはつけ加えた。
主人公は50歳で、自由奔放に生きる、簡易ホテルの女将さんである。独立運動には無関心だった。女将さんはいつも面白おかしく、世間話に花を咲かせる、大声で笑う。彼女にかかると、悲惨な事件も喜劇になってしまう。
そんな彼女が、宿泊客である、武装ゲリラ闘争を進める『自由アチェ運動』幹部たちとの付き合いをはじめた。ごく自然に、アチェの歴史と独立運動に関心を向けてきた。
東京和平協議が決裂した直後、女将さんは簡易ホテルにアチェ独立を主張するビラがあったことから、「テロ」を煽る証拠品だといい、逮捕された。10年の禁固刑を言い渡された。インド洋に面した、ロクンガ刑務所に収監された。
女将さんが控訴すると、14年に延長された。刑務所生活に入っても、女将さんは自由奔放な性格が出てくる。刑務所内の独立活動家の精神的な支えになっていた。
1年半後、04年12月26日に大津波で、同刑務所は跡形もなくなってしまったのだ。
独立派の活動家は、大津波に襲われた刑務所から、一人として逃げ出せず、全員が死んだ。だから、アチェは自然災害で、独立運動の『将来を失った』のだ。
作家のリンダ・クリスタンティさんは、現地取材などを通して、いまなお長編小説『スルタンの杖』を執筆している。未完だが、今回のフォーラムでその一部が発表されたのだ。
彼女が東京からインドネシアに帰国した後、獄中作家にならないことを願うばかりである。
引用文献
翻訳構成:上野太郎、野上彰
朗読脚本:吉岡忍(日本ペンクラブ編:災害と文化)
【了】
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記者HP:穂高健一ワールド
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パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一
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