生き残った男と女、歳が近いもの同士で、新しい夫婦が再構築された
2008年02月29日09時51分 / 提供:PJ
立松和平さんは『浅間』をみずから朗読する。スペース・ゼロ(東京・渋谷区)で。(撮影:穂高健一、24日) 写真一覧(4件)
日本ペンクラブ主催の世界P.E.N.フォーラム「災害と文化」は、23日からスペース・ゼロ(東京・渋谷区)ではじまった。サブテーマは『叫ぶ、生きる、生きなおす』だ。その『生きなおす』が強く前面にでた作品が、25日の立松和平さんの『浅間』だった。
1783(天明3)年5月、浅間山の大噴火で、山ろくの鎌原村は溶岩流に埋まり、大勢の村人が犠牲となった。死者は474人、生存者は93人で、8割強の死者が出た。木材運搬の馬は200頭のうち、170頭が死んだ。草木もない不毛の地となったのだ。それでも、村人は鎌原村に戻っていった。
立松和平さんは『浅間』を自ら朗読する。16歳の「ゆい」という少女の視点から物語が進められた。噴火よりも七年前、中仙道板鼻宿に、「ゆい」は3年間の年季奉公に出ていた。鎌原村の困窮した家族のために、少女は自ら19歳まで宿場女となっていたのだ。客引き、旅籠の労働、旅の男にはからだの提供、という辛い生活だった。なおかつ3年間は宿場から一歩も外に出られない。
宿場女の「ゆい」は、老婆から蚕(かいこ)を育てる技術を教わり、会得した。3年後の年季明けとともに、彼女は浅間山の噴煙がなつかしい鎌原村に帰っていった。村人たちは、「ゆい」は宿場で見知らぬ男に肌を任せた女だといい、蔑視の目でみていた。
「ゆい」は念願だった蚕を飼うしごとをはじめた。浅間が小噴火でも、桑の葉に灰が降り、決して楽なものではなかった。執念で、根気よく蚕を育てた。延命寺の和尚はやさしかった。蚕の餌である桑の木の提供とか、馬子(まご)の万次郎を婿として世話するとか、「ゆい」にはなにかと親切だった。
祝言を挙げた「ゆい」には女児が授かった。他方で、彼女は村人に蚕から収入を得る方法を教えたことからの信頼を得た。小高い丘にある鎌原観音堂が、村人の信仰の場だった。50段の石段を登りつめた先にはお堂が建つ。「ゆい」はお堂で村人たちと観音経を唱(とな)えるのが常だった。
「ゆい」が23歳、娘が3歳だった。夫の万次郎が延命寺の裏山にある桑木の葉を見にいっていた。予兆のあった浅間山が、鳴動とともに大噴火を起こしたのだ。真っ赤な溶岩流が鎌原村を襲った。「ゆい」は娘と老母を連れて50段の石段を登り、鎌原観音堂に逃げ込んだ。石段は十数段を残し、すべて溶岩で埋まった。危機一髪だった。しかし、夫の万次郎はお堂にやってこなかった。
村人たちは隣の千俣村に避難した。名主の屋敷では、炊き出しが毎日続いていた。近在の沓掛村も全滅していた。浅間山の噴火が収まると、鎌原村の衆は話し合った。まわりの村から土地提供の申し出があった。鎌原村をそっちに移す意見もでた。かれらは不毛の地と知りながらも、おなじ場所に帰っていった。そこには灰だらけの野っ原しかなかったのだ。
立松和平さんの朗読がつづく。
村の長老が村おこしの提案をする。「村を立て直すにも、家族がなければ、何をどう立て直すのかわからなず、力もわいてきめえ。夫婦そろって生き残っている者は一組もねえ。夫を失い、妻を流された者どうし、娶(め)わせたらどうだべ」という。
男と女の好き嫌いで、結婚相手を選択せず、歳が近いものを夫婦として組み合わせる。そして、子どもや姑や舅をつける、という提案だった。何もかも失った村人が、災害後の生きる力の原点を「夫婦」「家族」に求めたのだ。むろん、長老の提案には、村人たちの戸惑いがあった。
「(子ども、姑、舅)押し付けるんじゃない。自分の力だけじゃ生きていけない。弱い者どうし、助け合うんさ。新しい家族をつくらねば、溶岩や岩や小石を取り除いて、田畑を作り、作物を植えることはできめえ。頭数も必要なんさ」と長老は話す。共同体として、まず家族を作り、夫婦が子どもを生めば、村の人口も増える。それでこそ村は復興できるというのだ。
村人の合意の下に、七組の夫婦が生まれた。そのなかには「ゆい」がいた。馬子だった亡夫の同僚が選ばれ、婚礼の儀が観音堂でおこなわれた。
新築された7軒の家に、7つの家族が出来上がったのだ。近郷の名主から、7本の桑の木が贈られた。桑は小石があっても、荒れた地でも育つ。桑が育てば、村人には収入の道が開けるのだ。
大災害が起きて村が壊滅状態に陥っても、おなじ場所に戻り、再起できた。そこには「夫婦」、「家族」という人間生活の原点があったから、可能だったのだ。浅間山の山ろくにある鎌原村の資料と史実から、立松和平さんは『浅間』を書き上げたと補足した。【了】
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記者HP:穂高健一ワールド
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パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一
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