今週のお役立ち情報
「自然災害」は、真実とはちがうヒーローを作り出した
2008年02月29日08時07分 / 提供:PJ
【PJ 2008年02月29日】−
ユーモア小説『サラブレットに乗った小悪魔』(1985年発表)は、南太平洋ではかなり話題になった作品。作者のアルバート・ウェントさんは太平洋の島・サモアの作家だ。
日本ペンクラブ主催の世界P.E.N.フォーラム「災害と文化」では、3日目の24日に取上げられた。約90枚の同小説を朗読するのは、30歳の活動写真弁士・片岡一郎さん、ピアノは柳下美恵さん。スクリーンに映し出される絵は、里中満智子さんだった。
主人公のピリーは元旗手だった。サラブレットに乗っていたころ、ルール違反は日常的だった。かれは行く手を邪魔するものをけ散らす。ピリーはだれからも『サラブレットに乗った小悪魔』と怖(おそ)れられていた。あるとき一番人気の馬をインコースのフェンスに追い込み、転倒させた。馬はあごの骨を折り、その場で射殺。ピリーは競馬界から永久追放されたのだ。
その後のピリーは悪事を働き、あっちこっちで小犯罪を起こしてきた。イノシシを盗んだ窃盗罪、売春あっ旋、船乗りの所持品強奪、百ポンドの小切手の偽造、暴動を煽(あお)った罪、教会の積立金を持ち逃げした罪で、刑務所に入ったり、出たりの人生だ。当然ながら、ピリーは家族や親戚から、迷惑がられ、嫌われ者だった。厄介な小悪魔である。
サモア・タファイガタ刑務所には、農園を貫いて流れる川がある。嵐の日、2人の看守が濁流に押し流された。職員のなかでも、囚人に対して最も残虐な態度をとっていた看守たちだ。それにもかかわらず、囚人ピリーは荒れ狂う川に入り、2人を救おうとした。
一人の看守の命は救えた。しかし、もう一人の看守とピリーはともに濁流に押し流されてしまった。命を絶った。ピリーはなぜ荒れ狂う川から、残虐な看守を助ける気になったのか。それは永遠の謎だ。
親戚筋はピリーが死んでくれたことで、ほっと胸をなでおろした。他方で、サモアの作詞作曲家が、ピリーの行為は美しく、英雄的なバラードとして、ポピュラーソングにしたのだ。曲名は『ピリー・ザ・キッドのバラード』で、あちらこちらで大人や子どもまでもが歌う。サモアでは大ヒットした。
♪ われら英雄、ピリーは濁流に流された悪玉看守を救おうと、川に飛び込んだ。
逆巻く川は、ピリーを飲み込み、彼の姿は見えなくなった。
若者ピリーは勇敢だった。われらみんなのお手本だ。
だけど 彼のために涙は無用 ピリーは天国に行ったのだから
こうした歌詞が10章も続く。面白くないのは家族だ。生前はさんざん迷惑をかけてきたピリーが英雄になった。そんな歌を苦々しく聴くのだ。『若者ピリーだって、あいつは50歳を過ぎていた。みんなに好かれていただって? 誰からも好かれていなかった、あいつは嫌われ者だった』。ことごとく声高に反論するのだ。
嵐の洪水という自然災害のなかで、ピリーはヒーローとして生まれ変わった。事実とはあまりにも相違するといっても、偶像は変わらない。ピリーの死後から一年経っても、そのことは変わらない。いつまでもヒーローと歌い続けられているのだ。
「災害」が生み出した、人間社会の一つの断面として象徴的な作品だ。
引用文献
翻訳:河野至恩
朗読脚本:吉岡忍(日本ペンクラブ編:災害と文化)
【了】
■関連情報
記者HP:穂高健一ワールド
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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一【 東京都 】
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日本ペンクラブ主催の世界P.E.N.フォーラム「災害と文化」では、3日目の24日に取上げられた。約90枚の同小説を朗読するのは、30歳の活動写真弁士・片岡一郎さん、ピアノは柳下美恵さん。スクリーンに映し出される絵は、里中満智子さんだった。
主人公のピリーは元旗手だった。サラブレットに乗っていたころ、ルール違反は日常的だった。かれは行く手を邪魔するものをけ散らす。ピリーはだれからも『サラブレットに乗った小悪魔』と怖(おそ)れられていた。あるとき一番人気の馬をインコースのフェンスに追い込み、転倒させた。馬はあごの骨を折り、その場で射殺。ピリーは競馬界から永久追放されたのだ。
その後のピリーは悪事を働き、あっちこっちで小犯罪を起こしてきた。イノシシを盗んだ窃盗罪、売春あっ旋、船乗りの所持品強奪、百ポンドの小切手の偽造、暴動を煽(あお)った罪、教会の積立金を持ち逃げした罪で、刑務所に入ったり、出たりの人生だ。当然ながら、ピリーは家族や親戚から、迷惑がられ、嫌われ者だった。厄介な小悪魔である。
サモア・タファイガタ刑務所には、農園を貫いて流れる川がある。嵐の日、2人の看守が濁流に押し流された。職員のなかでも、囚人に対して最も残虐な態度をとっていた看守たちだ。それにもかかわらず、囚人ピリーは荒れ狂う川に入り、2人を救おうとした。
一人の看守の命は救えた。しかし、もう一人の看守とピリーはともに濁流に押し流されてしまった。命を絶った。ピリーはなぜ荒れ狂う川から、残虐な看守を助ける気になったのか。それは永遠の謎だ。
親戚筋はピリーが死んでくれたことで、ほっと胸をなでおろした。他方で、サモアの作詞作曲家が、ピリーの行為は美しく、英雄的なバラードとして、ポピュラーソングにしたのだ。曲名は『ピリー・ザ・キッドのバラード』で、あちらこちらで大人や子どもまでもが歌う。サモアでは大ヒットした。
♪ われら英雄、ピリーは濁流に流された悪玉看守を救おうと、川に飛び込んだ。
逆巻く川は、ピリーを飲み込み、彼の姿は見えなくなった。
若者ピリーは勇敢だった。われらみんなのお手本だ。
だけど 彼のために涙は無用 ピリーは天国に行ったのだから
こうした歌詞が10章も続く。面白くないのは家族だ。生前はさんざん迷惑をかけてきたピリーが英雄になった。そんな歌を苦々しく聴くのだ。『若者ピリーだって、あいつは50歳を過ぎていた。みんなに好かれていただって? 誰からも好かれていなかった、あいつは嫌われ者だった』。ことごとく声高に反論するのだ。
嵐の洪水という自然災害のなかで、ピリーはヒーローとして生まれ変わった。事実とはあまりにも相違するといっても、偶像は変わらない。ピリーの死後から一年経っても、そのことは変わらない。いつまでもヒーローと歌い続けられているのだ。
「災害」が生み出した、人間社会の一つの断面として象徴的な作品だ。
引用文献
翻訳:河野至恩
朗読脚本:吉岡忍(日本ペンクラブ編:災害と文化)
【了】
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