古来、東京湾は海の要衝であった。湾内をフェリー、タンカー、大型客船、小型プレジャーボート、漁船、自衛隊艦船などが行き交う。船舶にとっては自然の良港をたくさん持つ内海であるだけではなく、漁師にとっても豊富な漁場でもあるのだ。

 筆者も何度か、その東京湾に小型船舶を浮かべたことがある。湾内奥から羽田沖、海ほたる付近まで船を走らせれば、その混雑振りを実感できる。さらに、三浦半島と房総半島によって狭まる浦賀水道界隈に差し掛かれば、そこがいかに危険な海の交差点かに気づくだろう。

 実際、88年の潜水艦「なだしお」の事故もその周辺海域で起きている。今回のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故は、浦賀水道からさらに沖合い、潮の流れの複雑で激しい危険な野島崎沖の海域で発生したものだ。

 発生から1週間が過ぎるが、行方不明者の捜索はなおも続いている。客観状況は極めて絶望的ではあるが、一縷の望みを失わず、厳しい気象条件の中、捜索を続ける関係者の苦労には頭の下がる思いだ。

 さて、本コラムでは、事故そのものについて論じるつもりはない。海上という現場の状況からしても分析は困難であり、今後の海難審判や海上保安庁の調査報告を待つ以外に方法はないからだ。

 それよりも問題としたい点は、事故発生後の防衛省、および福田内閣の危機管理対応の拙さである。

 事故発生からの1週間に限ってみても、ダメージコントロールという観点から、福田内閣のそれは最低レベルに分類せざるを得ないお粗末なものである。

「あー、そうだってね。大変ですね」

 19日朝、記者団から最初の質問を投げかけられた福田首相はこう言い放っている。

 清徳丸の乗組員の家族や漁協関係者が安否を案じている最中だ。そうしたデリケートな時間帯に、このような他人事を言ってしまえる政治家とは一体なんなのであろうか。


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