大津波を体験したタイの小説家は、『何を見たか? 何を書いたか?』
2008年02月28日07時33分 / 提供:PJ
タイ作家・ワンユーン・ルークジャンさん(右)は、原語で『黄金の女たちの石』を朗読する。日本語朗読は五味陸仁さん。スペース・ゼロ(東京)で。(撮影:穂高健一、23日) 写真一覧(4件)
タイ作家のワンユーン・ルークジャンさんは、プーケット(タイ最大の島)で大津波を体験した。それを作品にしたもの。舞台で、『黄金の女たちの石』を自ら朗読した。日本語朗読は五味陸仁さん(元TBSアナウンサー)。音楽は、黒坂黒太郎さん(コカリナ)、矢口周美さん(オートハープ、歌)。
「小説家は目のまえで、珍しいことがおきると、内心、小説のいい材料になると思うものだ。しかし、12月26日の早朝に起きた大津波は、そういう類の出来事ではなかった」と語りはじめた。
かれの家は海岸から2キロの高台だ。それでも、突然、アンダマン海の海水が、陸に向かってどっとあふれ出し、すさまじい洪水が襲いかかってきたのだ。「バイクやトラックが猛烈な勢いで、山に向かっていくのが見えた。『もう、波がそこまで来ているぞ』という叫び声が聞こえた」。だれもが『津波』という言葉すら聞いたこともなかったのだ。
かれは妻と娘を呼んで、トラックに飼犬をも乗せて逃げた。山頂に大勢のひとが避難していた。
「津波が来た日、地球最後の日がきたと思った。ぼくがコントロールできるものは何もなかった。電気は止まり、電話は通じず、商店はパニックに便乗した値上げ、ガソリンスタンドでは、人々が奪い合ってガソリンを詰め込んだ」。災害で、日常生活が失われ、社会秩序とか資本主義の形態とかがあっという間に崩れてしまったのだ。
時間が過ぎると、かれは自ら車を運転し、津波がもたらした死と破壊の現場に向かった。「この足で歩き、この目と耳で見聞した惨状と、人々の様子とがきっと自分になにができるか、それを教えてくれるだろう」。文学にたずさわる者として、じっと傍観していられない衝動があったのだ。
アンダマン海に面した被災地は400−500キロに広がり、6県にまたがっていた。警備艇が山すそに打ち上げられ、橋の下には何百体の死体が集まり、死臭を放つ。寺は急場の遺体安置所になっていた。
かれの呼びかけで小説家、詩人、アーティストが集まり、『アンダマン海岸を復活する作家チーム』が立ち上がった。お金を出し合い、寄付を募り、それで米や水を買い、被災地に直接届けた。医療チームと被災者とのあいだをつないだ。さらには仮設建設の現場を手伝った。
救援活動から2週間たった。偶然の見聞から、モーケン(海洋漂白民)たちの村を知ることになった。何千年前の昔、中国大陸の南東の奥地から川を下り、少しずつ散らばりながら、現在のマレーシア、タイ、ミャンマーの海岸部に住み着いた民族である。いまなお一般社会から隔絶し、海洋生活で暮らしている。タイで最も貧しい村で、だれからも見落とされてしまう存在だった。
粗末な家に住む、祖父、青年、2歳くらいの娘に出会う。青年の妻が、『黄金の女たちの石』(岬の地名)に貝を採りに出掛けた、8人の女が津波にさらわれ、村に戻ってこないのだという。妻は妊娠3カ月だった。幼い娘は、母の名を呼び、夜鳴きする。
大津波はかれらの村から漁具、養殖の竹囲い、漁船すらも奪い取っていった。だれも収入がない。郡役所に被災届けを出したが、『モーケンの援助は後回し』といわれた。青年は幼い子に粉ミルクを買う金もない状態だった。
大津波が残した青年の無気力さ、祖父との葛藤(かっとう)などが物語風に描かれていく。他方で、災害は、援助すらも差別されてしまう、という実態をえぐり出す。
作家チームは米とか粉ミルクとかを運びはじめた。チームが働きかけた新聞、TVがそれぞれ取り上げると、国内外から援助が差し伸べられてきたのだ。
作家のワンユーン・ルークジャンさんは、3ヵ月後、村を訪ねた。妻を失った青年の顔はいまなお暗く、心は傷ついたまま。酒におぼれていた。
この作品では、『災害』とは瞬間の死の恐怖だけでなく、精神的な後遺症を残し、家庭生活、人生までも変えてしまうものだと教えてくれた。
引用文献
翻訳:金子真己「黄金色の女たちの石」
朗読脚本:吉岡忍(日本ペンクラブ編:災害と文化)
【了】
■関連情報
記者HP:穂高健一ワールド
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パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一
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