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【眼光紙背】「わいせつ」と「芸術」の間

【眼光紙背】「わいせつ」と「芸術」の間
門倉貴史氏

門倉貴史の眼光紙背:第22回

08年2月19日に、メイプルソープの写真集がわいせつ物にあたるかどうかについて、最高裁判所の判決が出た。
芸術性や表現手法などを総合してみれば、(男性器の写真が掲載されている)メイプルソープの写真集は、輸入禁止となっているわいせつ物にはあたらないという判決であった。

今回の判決は、わいせつ物に関する社会的な通念が大きく変化していることを考慮したものといえるが、通常の「わいせつ物」、すなわち「ポルノ」についてはどのように考えればいいのか。ここでいうポルノとは、芸術性とは関係のないハードコア・ビデオ、猥褻な雑誌など性的な行為の視覚的画像・描写・表現のことである。

欧米諸国では、ポルノに対する規制はかなり早い段階で撤廃されている。最初にポルノ解禁を実施したのは北欧諸国である。最も早くポルノを解禁したのはデンマークで1967年のことだ。スウェーデンはその2年後の1969年にポルノを解禁した。

北欧諸国で巻き起こった「フリーセックス(セックスに対して開放的であること)」の波は、次第に西欧諸国にも波及し、相次いでポルノを解禁する国が出てくるようになった。米国ではニクソン政権下の1970年にポルノが解禁されている。

翻って、日本では刑法第175条の規定により、ポルノを販売することはできない。また、税関で運用される関税法69条の11の規定により、外国からポルノ雑誌やビデオなどを国内に持ち込むことも禁止されている。欧米出張などの際、帰国時にポルノ雑誌を持ち込もうとして、税関で没収されるビジネスマンは結構な数に上る。

ポルノ解禁論については、憲法で保障された「言論・出版・表現の自由」を守るという観点から、どのような内容であれ、社会に悪影響を及ぼさない限りは、道徳に関わる言論・出版・表現の領域に国家が介入すべきではないという意見がある。
筆者は、それに加えていわゆる「地下経済」(犯罪など法律で禁止された経済活動)を抑制するという観点からも、ポルノを解禁したほうが望ましいのではないかと考えている。

ポルノが規制の対象となっているために、ポルノの流通・販売は暴力団などの闇勢力が一手に担うことになり、それらが闇勢力の重要な資金源のひとつになっているというのが現状である。ポルノに対する需要は必ず存在するので、それが国家によって規制されても、地下に潜行して供給は行われる。

地下にもぐった存在なので、表現も必然、暴力描写などどぎつい内容が多くなる。そして当然のことながら、課税対象にもならない。最近では、東京都内を中心に裏ビデオを販売する店の摘発が相次いでいるが、インターネットが十分に発達した現在では、こうした画像・映像はネットで簡単に入手できる。実務上、ネットを介して行われるポルノの売買を取り締まることは非常に難しい。いくら裏ビデオ・DVD販売店を摘発しても、ネット上でこれだけポルノが大量に氾濫していては、どうにもならない。

つまり、実態としてみれば、いまの日本においてポルノ規制はあってないようなものなのである。だから、有名無実化しているポルノ規制はなくして、北欧諸国のように「見たい人の権利」と「見たくない人の権利」を同時に守るようにしたほうがいいのではないか。
北欧諸国のポルノ解禁で特徴的なのは、ポルノを見たい人の権利を守ると同時に、ポルノを見たくない人の権利、また青少年や児童の生活環境を守るという点だ。

このため、北欧ではポルノを解禁した後も、一般の人の目につくような街頭でのポルノの宣伝、ショーウィンドウでのポルノの展示などは厳しく規制されている。ポルノ出版物は、社会でも家庭でも厳重に管理されているのである。ポルノを見たい人の権利は守る、その一方でポルノを見たくない人の自由も守るというスタンスは理想的なものといえるのではないか。 


プロフィール:
門倉貴史(かどくら・たかし) 1971年生まれ。エコノミスト。BRICs経済研究所代表。専門は、日米経済、アジア経済、BRICs経済、地下経済と多岐にわたる。オフィシャルサイト:門倉貴史のBRICs経済研究所


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧

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