今週のお役立ち情報
批評は軽い「MENSURA ZOILI」=ランキング評価をめぐるベローチェvs講談社
【PJ 2008年02月19日】−
芥川龍之介はある日、たまたま同じ船に乗り合わせた男に、「価値測定器」の存在を教えられる。それは、ゾイリア共和国にある世界一の大学「ゾイリア大学」で発明されたばかりだという。
芥川「価値測定器というのは何です?」
男「文字通り、価値を測定する機械です。主として小説とか絵とかの、芸術的な価値を測定するのです」
芥川「それは、便利な物ですね」
男はさらに説明を続ける。ゾイリア共和国の税関では、外国から輸入される書物や絵を、すべてこの測定器にかけている。無価値な物が国内に出回ることを防ぐためだ。だが、日本製の物は、どれも「成績」はよくないという。芥川の作品も、「常識以外に何もない。期待したようなものは何もない。悪い意味の才気の表れだ」などと酷評されているとのこと。
芥川「その測定器の評価が確かだということは、どうしてわかるのです? ゾイリアの芸術家が作った物も、その測定器にかけてみてはいかがですか?」
男「それは、ゾイリアの法律が禁じています。彼らの作品を測定器に載せたら、針が最低値を指すかもしれませんからね。彼らはジレンマ(板挟み)にあっているわけです、測定器の正確さを否定するか、彼らの作品の価値を否定するか……」
以上が、芥川著作『MENSURA ZOILI』のあらすじである。自分の作品を激しく非難していた、当時の新聞や雑誌の「批評家」たちを、ゾイリア共和国という架空の国家に重ねることで痛快に皮肉っている。まだ彼が文壇デビューして間もないころ発表された短編であり、いわゆる代表作とは呼べないものの、筆者は個人的に、この作品にこそ彼の、自分の作品に対する揺るぎない自信と信念、そして、既存の「批評家」らに対する挑戦と非追従の姿勢を見いだすことができると考える。
報道によると、講談社の月刊誌「おとなの週末」に掲載されたコーヒーチェーンのランキングで最下位になった「カフェ ベローチェ」を運営するシャノアールが、講談社を相手取り損害賠償と出版差し止めなどを求める訴訟を東京地裁に起こした。
この作品を、「カフェ・ベローチェ」の関係者らにぜひ読んでほしいと思う。この場合、彼らが芥川、講談社が「価値測定器」だと考えれば、少なくとも訴訟だ賠償だ、なんて話にはならないはずである。
講談社の肩を持つつもりは全くないが、はっきりいって、ベローチェが「抗議する」ことをどうしても支持できない。
飲んだコーヒーが美味(おい)しかったか、不味(まず)かったか、店内の雰囲気が良かったか悪かったか、また来たいと感じたか、逆に2度と来るものかと心に誓ったか……当然ながらそれらはすべて、客という「他者」が判断すべきことである。この場合、講談社は間違いなく「客」である。記者個人が何を感じたか、それを「素直」に書いたことがなぜ問題になるのだろう。
よほどの捏造(ねつぞう)や悪意が込められた文章でもない限り、出版差し止めになるのはおかしい。ある種の言論封殺だ。もしこれでベローチェ側が「勝訴」したら、今後、他のグルメ雑誌やTV番組も、言いたいことが何も言えなくなってしまうだろう。いやグルメに限らず、素直な「意見」を述べる場がどこにもなくなってしまうのでは。
ひょっとしたら、問題の記事を書いた記者の味覚が人よりちょっと変わっているとか、寝不足か何かで正確な判断ができなかったとか、あるいは接客した店員が当日入ったばかりのアルバイトだったとか、ベローチェの方に不運もあったのかもしれない。しかし、講談社に対し、いかにも「勝手に取材するんじゃねぇ。俺たちに都合悪い事は絶対書くんじゃねぇよ」という態度はどうだろうか。
筆者自身もこれまで、多くの企業・団体・個人・TV局・番組・学校・役所などの批評・批判を行ってきた。いろいろなことを「正直に」、辛辣(しんらつ)に書きまくったことにより、当事者らの気を悪くすることも多々あったろう。全く無関係な人たちを含めクレームが来たことも一度や二度ではない。幸いなことに訴訟云々はかろうじてないが、そういうことを「恐れて」いては、何も書けなくなってしまう。
取材をする側・受ける側、両者の関係は良いに越したことはないが、決して「なれ合って」はならないと思う。ただの「広告」「宣伝」、時に「自慢」だけになり、大衆が知るべき真実に蓋(ふた)がされてしまう。「あれは書くな、それも書くな」「これだけを書け」……このようなことを言ってくる取材対象がいたら、それが個人情報や何らかの機密などでない限り、たいてい何か後ろめたいことを隠している。先日の横峯良郎やW中の一件で、筆者はそういう考えをさらに強めた。
「ブランドイメージを傷つけられた」とベローチェは主張しているそうだが、そんなもの、もともとあったのだろうか。仮にあるとしても、そういうことを決める立場にあるのは、繰り返すがあくまで「客」だけだ。自分で言い出すことではなかろう。少なくとも、講談社の記者は「イメージ」を知らなかった。つまり、「イメージを客の1人1人に植え付けるべき」ベローチェ側の営業努力の欠如なのでは。
ベローチェを運営するシャノアールの企業理念、「誠意…どんなことにも耳を傾け、どんなことでも学ぼうとする心」には少々笑ってしまう。名古屋近辺には店舗展開していないこともあり、筆者は今回の件でこのコーヒーショップの名を初めて耳にした。もちろん、ブランドイメージどうこうなんて知ったことではなかった。
そうだ、今度東京に行った時はちょっくらい覗(のぞ)いてみよう。雑誌より何より一番信頼できる自分の目を、耳を、鼻を、舌をフル活用してベローチェの全てを把握し、真実のみをあくまで主観的に、徹底的に「評価」してみよう。
芥川は21世紀に突入した今もなお、小・中・高等学校の国語教科書の多くにその著作が掲載されている、押しも押されもせぬ文豪の中の文豪だ。それというのも、彼があの時の「批評」を見事に吹き飛ばせたからだ。同じ事をベローチェに望むのは、それほど酷ではないだろう。【了】
■関連情報
芥川龍之介「MENSURA ZOILI」……1917(明治6)年1月1日発行「新思潮」第2年第1号に収録。本記事の参照にしたのは『芥川龍之介全集 第2巻』(岩波書店 1995年発行)
MENSURA(メンスラ)はラテン語で尺度、計量、計量器、測定器。ZOILIA(ゾイリア)は前4世紀、古代ギリシアの酷評家、嫉妬深い批評家を踏まえた架空の国。ZOILIは「ゾイリアの、」の意。
株式会社シャノアール
株式会社講談社 月刊誌「おとなの週末」
拙稿
公開質問状 前略、横峯良郎「議員」様
名古屋市・越境入学騒動 (上)・(中)・(下)
佐々木隆公式ブログ 「ストロボは人の弱さを笑いながら照らす」
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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 佐々木 隆【 愛知県 】
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芥川「価値測定器というのは何です?」
男「文字通り、価値を測定する機械です。主として小説とか絵とかの、芸術的な価値を測定するのです」
芥川「それは、便利な物ですね」
男はさらに説明を続ける。ゾイリア共和国の税関では、外国から輸入される書物や絵を、すべてこの測定器にかけている。無価値な物が国内に出回ることを防ぐためだ。だが、日本製の物は、どれも「成績」はよくないという。芥川の作品も、「常識以外に何もない。期待したようなものは何もない。悪い意味の才気の表れだ」などと酷評されているとのこと。
芥川「その測定器の評価が確かだということは、どうしてわかるのです? ゾイリアの芸術家が作った物も、その測定器にかけてみてはいかがですか?」
男「それは、ゾイリアの法律が禁じています。彼らの作品を測定器に載せたら、針が最低値を指すかもしれませんからね。彼らはジレンマ(板挟み)にあっているわけです、測定器の正確さを否定するか、彼らの作品の価値を否定するか……」
以上が、芥川著作『MENSURA ZOILI』のあらすじである。自分の作品を激しく非難していた、当時の新聞や雑誌の「批評家」たちを、ゾイリア共和国という架空の国家に重ねることで痛快に皮肉っている。まだ彼が文壇デビューして間もないころ発表された短編であり、いわゆる代表作とは呼べないものの、筆者は個人的に、この作品にこそ彼の、自分の作品に対する揺るぎない自信と信念、そして、既存の「批評家」らに対する挑戦と非追従の姿勢を見いだすことができると考える。
報道によると、講談社の月刊誌「おとなの週末」に掲載されたコーヒーチェーンのランキングで最下位になった「カフェ ベローチェ」を運営するシャノアールが、講談社を相手取り損害賠償と出版差し止めなどを求める訴訟を東京地裁に起こした。
この作品を、「カフェ・ベローチェ」の関係者らにぜひ読んでほしいと思う。この場合、彼らが芥川、講談社が「価値測定器」だと考えれば、少なくとも訴訟だ賠償だ、なんて話にはならないはずである。
講談社の肩を持つつもりは全くないが、はっきりいって、ベローチェが「抗議する」ことをどうしても支持できない。
飲んだコーヒーが美味(おい)しかったか、不味(まず)かったか、店内の雰囲気が良かったか悪かったか、また来たいと感じたか、逆に2度と来るものかと心に誓ったか……当然ながらそれらはすべて、客という「他者」が判断すべきことである。この場合、講談社は間違いなく「客」である。記者個人が何を感じたか、それを「素直」に書いたことがなぜ問題になるのだろう。
よほどの捏造(ねつぞう)や悪意が込められた文章でもない限り、出版差し止めになるのはおかしい。ある種の言論封殺だ。もしこれでベローチェ側が「勝訴」したら、今後、他のグルメ雑誌やTV番組も、言いたいことが何も言えなくなってしまうだろう。いやグルメに限らず、素直な「意見」を述べる場がどこにもなくなってしまうのでは。
ひょっとしたら、問題の記事を書いた記者の味覚が人よりちょっと変わっているとか、寝不足か何かで正確な判断ができなかったとか、あるいは接客した店員が当日入ったばかりのアルバイトだったとか、ベローチェの方に不運もあったのかもしれない。しかし、講談社に対し、いかにも「勝手に取材するんじゃねぇ。俺たちに都合悪い事は絶対書くんじゃねぇよ」という態度はどうだろうか。
筆者自身もこれまで、多くの企業・団体・個人・TV局・番組・学校・役所などの批評・批判を行ってきた。いろいろなことを「正直に」、辛辣(しんらつ)に書きまくったことにより、当事者らの気を悪くすることも多々あったろう。全く無関係な人たちを含めクレームが来たことも一度や二度ではない。幸いなことに訴訟云々はかろうじてないが、そういうことを「恐れて」いては、何も書けなくなってしまう。
取材をする側・受ける側、両者の関係は良いに越したことはないが、決して「なれ合って」はならないと思う。ただの「広告」「宣伝」、時に「自慢」だけになり、大衆が知るべき真実に蓋(ふた)がされてしまう。「あれは書くな、それも書くな」「これだけを書け」……このようなことを言ってくる取材対象がいたら、それが個人情報や何らかの機密などでない限り、たいてい何か後ろめたいことを隠している。先日の横峯良郎やW中の一件で、筆者はそういう考えをさらに強めた。
「ブランドイメージを傷つけられた」とベローチェは主張しているそうだが、そんなもの、もともとあったのだろうか。仮にあるとしても、そういうことを決める立場にあるのは、繰り返すがあくまで「客」だけだ。自分で言い出すことではなかろう。少なくとも、講談社の記者は「イメージ」を知らなかった。つまり、「イメージを客の1人1人に植え付けるべき」ベローチェ側の営業努力の欠如なのでは。
ベローチェを運営するシャノアールの企業理念、「誠意…どんなことにも耳を傾け、どんなことでも学ぼうとする心」には少々笑ってしまう。名古屋近辺には店舗展開していないこともあり、筆者は今回の件でこのコーヒーショップの名を初めて耳にした。もちろん、ブランドイメージどうこうなんて知ったことではなかった。
そうだ、今度東京に行った時はちょっくらい覗(のぞ)いてみよう。雑誌より何より一番信頼できる自分の目を、耳を、鼻を、舌をフル活用してベローチェの全てを把握し、真実のみをあくまで主観的に、徹底的に「評価」してみよう。
芥川は21世紀に突入した今もなお、小・中・高等学校の国語教科書の多くにその著作が掲載されている、押しも押されもせぬ文豪の中の文豪だ。それというのも、彼があの時の「批評」を見事に吹き飛ばせたからだ。同じ事をベローチェに望むのは、それほど酷ではないだろう。【了】
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芥川龍之介「MENSURA ZOILI」……1917(明治6)年1月1日発行「新思潮」第2年第1号に収録。本記事の参照にしたのは『芥川龍之介全集 第2巻』(岩波書店 1995年発行)
MENSURA(メンスラ)はラテン語で尺度、計量、計量器、測定器。ZOILIA(ゾイリア)は前4世紀、古代ギリシアの酷評家、嫉妬深い批評家を踏まえた架空の国。ZOILIは「ゾイリアの、」の意。
株式会社シャノアール
株式会社講談社 月刊誌「おとなの週末」
拙稿
公開質問状 前略、横峯良郎「議員」様
名古屋市・越境入学騒動 (上)・(中)・(下)
佐々木隆公式ブログ 「ストロボは人の弱さを笑いながら照らす」
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