上田桃子=どこか余裕の感じられるプレーぶり(写真/田辺安啓=JJ)

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2年前。宮里藍が米ツアー開幕戦を迎えたときだった。宮里を囲んだ日本人メディアの一人が「今日はバレンタインデーですけど、誰かにチョコレートをあげましたか?」と質問し、「そんな暇はありません!」と宮里は不愉快そうにピシャリ。下らないことを聞く記者もいるもんだと呆れたが、そんなやり取りでも後になって役立つことがあるもんだと苦笑してしまった。

今季の米LPGA開幕戦SBSオープンにルーキーとして挑んだ上田桃子。バレンタインデーだった2月14日に初日のラウンドを終えると、日本の報道陣一人一人に「Happy Valentine's Day」と赤い文字を入れた"桃子ボール"を手渡した。「これ、結構、重かったんですよ〜」。この日のために、上田がわざわざ用意してきたもの。初試合に挑む前から周囲へこんな配慮をしていた上田には、ある意味、宮里より心に余裕があったのかなと、そう思えた瞬間だった。

大会2日目の記者会見に呼ばれた上田に、たった6名しか来ていなかった米メディアの一人が尋ねた。「アイ・ミヤザトとアナタを比較してください」。彼らの質問は、いつだって、こんなふうにストレート。上田は「藍ちゃんは人して尊敬できる人。ゾーンへの入り方が上手で、アプローチとパターがうまい。私はどちらかと言うとショットメーカーで飛距離はそんなに問題ない。止めるショットも問題ない」と答えた。

緒戦でいきなり優勝争いを演じた末、元女王アニカ・ソレンスタムに敗れたものの5位タイと大健闘した上田。彼女の強さを支えている技術は、自身の言葉通り、飛距離の優位性と正確なショットだ。宮里がどんなに必死にドライバーを振っても決して届くことはなかったフェアウエイサイドの大木まで上田は軽々とアクセスできる。2人の飛距離差は歴然としている。上田のショットの正確性は、好調だった初年度の宮里といい勝負だと感じた。

だが、一番興味深いのは、やっぱりスコアリングの決め手となるショートゲーム。日本では「グリーン周りがうまい」と評されていた宮里は米ツアーで半年も経たないうちに自分のショートゲームのバリエーション不足を感じ取り、「その向上こそが課題だ」という言葉を繰り返すようになった。上田が言った「藍ちゃんはアプローチとパターがうまい」という評価は、おそらく上田が日本で見ていた宮里の姿だ。

米ツアーにやってきた上田にとって好条件なのは、彼女自身が自分のショートゲームの技術に現時点で不足を感じていること。昨年の全英女子オープン出場時点では「スピンで止めるのがいいと思っていたし、それしかないと思っていた」と言っていた上田だが、あれからわずか半年後しか経っていないSBSオープンでは、すでに上げたり転がしたりと明らかにバリエーションを増やしていた。しかし、優勝争いが万事休すとなった17番は第3打の寄せの失敗が命取りになった。プレッシャーの下でも狂わないショートゲームを身につけるまでには、どうしたって時間がかかる。「まだまだ不足です」と本人もきっぱり。弱点の克服、課題のクリアに要する時間をどのぐらい短くできるか――それが、上田にとっても宮里にとっても、初優勝までの道のりということになる。(舩越園子/在米ゴルフジャーナリスト)