【慎武宏コラム】Kリーグから見たJリーグ
2008年02月05日14時48分 / 提供:FOOTBALL WEEKLY
韓国が寒い。新たに指揮官に就任したホ・ジョンム監督率いる新生韓国代表のデビュー戦を取材するためにソウルに来ているが、日中の気温は0度前後。1月30日のチリ代表との親善試合は、マイナス2度の寒さの中で行なわれたほどだ。
そのせいか、スタジアムに足を運ぶ人々は少なく、その数はわずか15,012人。代表Aマッチとしては歴代最低観客数で、肝心の試合のほうも岡田ジャパンとも戦ったチリ代表相手に0−1の敗北。外国人監督の招聘に失敗した妥協策として代表監督に7年ぶりに復帰したホ・ジョンムだが、その船出を華々しく飾ることはできなかったどころか、その前途は多難だと懐疑の目を向けられている始末だ。寒さしのぎにプレスルームに集まる記者たちも、「韓国代表は7年前に逆戻りしてしまった」と、不満をこぼしていた。
そんなスタジアムの一角で懐かしい顔にあった。元韓国代表のコ・ジョンウン。2001年に現役を引退し、現在は指導者となった“赤兎馬(現役時代の愛称)”と韓国代表や近況について語るうちに、日本で発信されたひとつのニュースが話題になった。
「Jリーグが日韓中の“アジア枠”の創設を提案」(読売新聞1月1日付け)。このニュースに、かつてセレッソ大阪でもプレーした元Jリーガーの見解は慎重だった。
「アジア枠というアイディアには大賛成だが、韓国人選手のJ進出が即座に激増することはないと思う。数年前ならともかく、韓国人選手にとって、もはやJリーグは以前ほどに魅力的なリーグではなくなかったからなぁ」
そもそも韓国人選手にとって、Jリーグは人気の海外進出先だった。日本は地理的にも文化的にも「身近な海外」であり、韓国で稼げる年俸以上の富も手にできる。コ・ジョンウンやホン・ミョンボを筆頭とする現役バリバリの代表選手のJ進出が相次いだ90年代後半から2000年代にかけては、「韓国人選手にとってJリーグはエル・ドラド(黄金郷)だ」と報じられたほどである。
コ・ジョンウンも、「JではKリーグ7年分の年俸が1年で稼げた」そうだが、昨今の韓国人選手にとってJリーグは決して“エル・ドラド”ではないらしい。
というのも、Kリーグは昨今、選手たちの年棒が急騰している。07年度Kリーガー平均年俸は9500万ウォン(約1100万円)。95年にホン・ミョンボがKリーグ初の1億ウォンプレーヤーになったときには大きな話題になったものだが、いまや1億ウォンは平均年俸レベルであり、代表クラスになると推定5億ウォン以上は当たり前。ワールドカップにも出場した人気選手になると、推定10億ウォン以上になると言われているバブル時代なのだ。
それゆえに「韓国でも大金が稼げるのに、日本にあえて行く必要があるのか」。そんな声がメディアやサポーターの両方から聞こえてくる。
ましてここ数年で韓国でも、ヨーロッパ進出が定着。なかでもパク・チソン、イ・ヨンピョ、ソル・ギヒョン、イ・ドングッがプレーするイングランドが、韓国人選手たちの目標であり、憧れの的になりつつある。一時はJリーグ進出も希望していたキム・ドゥヒョンも、イングランド1部リーグのウェストブロミッチへ移籍した。韓国人選手たちの目は、東ではなく西に向いているのだ。
ただ、そのヨーロッパ進出へのステップボードとしてJリーグを位置づける視点があるのも事実だろう。モデルは、京都パープルサンガからオランダのPSV、そしてマンチェスター・ユナイテッドへとステップアップしたパク・チソンだ。そのサクセスストーリーを再現したいと夢見る若手選手たちにとって、Jリーグは格好の武者修行の場でもあるのだ。
実際、昨季Jリーグでプレーした韓国人選手6名のうち、4名の選手が10代で日本に渡ってきた。それもほとんどがC契約である。
低年俸でも彼らがあえて日本を選んだ背景には、Kリーグ・ドラフト制度の復活も少なからず影響しているとも言えるだろう。職業選択の自由を奪われ、クラブに縛られるよりも、環境が整った日本で己の技量を磨きたい。そんな思いが強いからこそ、C契約でも日本に乗り込んでくる。『スポーツ・ソウル』紙のウィ・ウォンソク記者も言っていた。
「何かとしがらみがある韓国よりも、自由で環境も整った日本で力をつけたいとする若手選手も多い。パク・チソンのように、日本経由欧州行きの大志を抱く者もいる。Jでアジア枠が創設されたら、若手選手のJ進出にますます拍車がかかるのではないか」
もっとも、日本行きがすべての韓国人選手に成功を約束してくれるものではない。オ・ジャンウン、イム・ユファン、キム・ドンヒョンら過去に日本へやってきた若手たちの中には、失意の帰国を強いられた選手もいるし、キム・ジンギュやイ・カンジンのように日本経由欧州行きの夢をあきらめ、Kリーグに戻った選手もいる。だからこそ、コ・ジョンウンは強調した。
「気軽な気持ちで成功できるほど、Jリーグは甘くない。むしろ外国人助っ人である以上、常に結果が求められ、結果を残すことが義務でもある。そういう強い傭兵意識がなければ、“アジア枠”が創設されたとしても、韓国人選手はJリーグで生き残れないだろう」
確かにその通りだ。アジア枠が創設され、韓国選手がJリーグに大挙することになったとしても、彼らが日本人選手以上の働きができなければ、当然のごくと戦力外通告を受けることになる。アジア枠が機能するには、韓国人選手が強い輝きを放つことが大前提なのだ。
「アジア枠を生かすも殺すも韓国人選手次第だ」
現役時代を彷彿とさせる強いカリスマ性を放ちながら語ったコ・ジョンウンのこの言葉には、Jリーグ経験者としてのプライドと後輩たちへの叱咤激励が込められていた。震えるような寒さと先行き不安な韓国代表に少なからず苛立ちも覚えたが、コ・ジョンウンの熱き想いを聞けただけでも収穫だったような気持ちになれる、ソウルの夜だった。
・岡田ジャパン?大木コーチ・ジャパン?
・指導者の適性カテゴリー
・拝啓 岡田武史様
・応援と観戦の乖離
そのせいか、スタジアムに足を運ぶ人々は少なく、その数はわずか15,012人。代表Aマッチとしては歴代最低観客数で、肝心の試合のほうも岡田ジャパンとも戦ったチリ代表相手に0−1の敗北。外国人監督の招聘に失敗した妥協策として代表監督に7年ぶりに復帰したホ・ジョンムだが、その船出を華々しく飾ることはできなかったどころか、その前途は多難だと懐疑の目を向けられている始末だ。寒さしのぎにプレスルームに集まる記者たちも、「韓国代表は7年前に逆戻りしてしまった」と、不満をこぼしていた。
そんなスタジアムの一角で懐かしい顔にあった。元韓国代表のコ・ジョンウン。2001年に現役を引退し、現在は指導者となった“赤兎馬(現役時代の愛称)”と韓国代表や近況について語るうちに、日本で発信されたひとつのニュースが話題になった。
「Jリーグが日韓中の“アジア枠”の創設を提案」(読売新聞1月1日付け)。このニュースに、かつてセレッソ大阪でもプレーした元Jリーガーの見解は慎重だった。
「アジア枠というアイディアには大賛成だが、韓国人選手のJ進出が即座に激増することはないと思う。数年前ならともかく、韓国人選手にとって、もはやJリーグは以前ほどに魅力的なリーグではなくなかったからなぁ」
そもそも韓国人選手にとって、Jリーグは人気の海外進出先だった。日本は地理的にも文化的にも「身近な海外」であり、韓国で稼げる年俸以上の富も手にできる。コ・ジョンウンやホン・ミョンボを筆頭とする現役バリバリの代表選手のJ進出が相次いだ90年代後半から2000年代にかけては、「韓国人選手にとってJリーグはエル・ドラド(黄金郷)だ」と報じられたほどである。
コ・ジョンウンも、「JではKリーグ7年分の年俸が1年で稼げた」そうだが、昨今の韓国人選手にとってJリーグは決して“エル・ドラド”ではないらしい。
というのも、Kリーグは昨今、選手たちの年棒が急騰している。07年度Kリーガー平均年俸は9500万ウォン(約1100万円)。95年にホン・ミョンボがKリーグ初の1億ウォンプレーヤーになったときには大きな話題になったものだが、いまや1億ウォンは平均年俸レベルであり、代表クラスになると推定5億ウォン以上は当たり前。ワールドカップにも出場した人気選手になると、推定10億ウォン以上になると言われているバブル時代なのだ。
それゆえに「韓国でも大金が稼げるのに、日本にあえて行く必要があるのか」。そんな声がメディアやサポーターの両方から聞こえてくる。
ましてここ数年で韓国でも、ヨーロッパ進出が定着。なかでもパク・チソン、イ・ヨンピョ、ソル・ギヒョン、イ・ドングッがプレーするイングランドが、韓国人選手たちの目標であり、憧れの的になりつつある。一時はJリーグ進出も希望していたキム・ドゥヒョンも、イングランド1部リーグのウェストブロミッチへ移籍した。韓国人選手たちの目は、東ではなく西に向いているのだ。
ただ、そのヨーロッパ進出へのステップボードとしてJリーグを位置づける視点があるのも事実だろう。モデルは、京都パープルサンガからオランダのPSV、そしてマンチェスター・ユナイテッドへとステップアップしたパク・チソンだ。そのサクセスストーリーを再現したいと夢見る若手選手たちにとって、Jリーグは格好の武者修行の場でもあるのだ。
実際、昨季Jリーグでプレーした韓国人選手6名のうち、4名の選手が10代で日本に渡ってきた。それもほとんどがC契約である。
低年俸でも彼らがあえて日本を選んだ背景には、Kリーグ・ドラフト制度の復活も少なからず影響しているとも言えるだろう。職業選択の自由を奪われ、クラブに縛られるよりも、環境が整った日本で己の技量を磨きたい。そんな思いが強いからこそ、C契約でも日本に乗り込んでくる。『スポーツ・ソウル』紙のウィ・ウォンソク記者も言っていた。
「何かとしがらみがある韓国よりも、自由で環境も整った日本で力をつけたいとする若手選手も多い。パク・チソンのように、日本経由欧州行きの大志を抱く者もいる。Jでアジア枠が創設されたら、若手選手のJ進出にますます拍車がかかるのではないか」
もっとも、日本行きがすべての韓国人選手に成功を約束してくれるものではない。オ・ジャンウン、イム・ユファン、キム・ドンヒョンら過去に日本へやってきた若手たちの中には、失意の帰国を強いられた選手もいるし、キム・ジンギュやイ・カンジンのように日本経由欧州行きの夢をあきらめ、Kリーグに戻った選手もいる。だからこそ、コ・ジョンウンは強調した。
「気軽な気持ちで成功できるほど、Jリーグは甘くない。むしろ外国人助っ人である以上、常に結果が求められ、結果を残すことが義務でもある。そういう強い傭兵意識がなければ、“アジア枠”が創設されたとしても、韓国人選手はJリーグで生き残れないだろう」
確かにその通りだ。アジア枠が創設され、韓国選手がJリーグに大挙することになったとしても、彼らが日本人選手以上の働きができなければ、当然のごくと戦力外通告を受けることになる。アジア枠が機能するには、韓国人選手が強い輝きを放つことが大前提なのだ。
「アジア枠を生かすも殺すも韓国人選手次第だ」
現役時代を彷彿とさせる強いカリスマ性を放ちながら語ったコ・ジョンウンのこの言葉には、Jリーグ経験者としてのプライドと後輩たちへの叱咤激励が込められていた。震えるような寒さと先行き不安な韓国代表に少なからず苛立ちも覚えたが、コ・ジョンウンの熱き想いを聞けただけでも収穫だったような気持ちになれる、ソウルの夜だった。
慎武宏(Shin. Mu Koeng)
1971年4月16日、東京都・浅草生まれの在日コリアン3世。
主にサッカーを中心とした韓国スポーツに関連する記事を各種メディアに寄稿中。
著書に『ヒディンク・コリアの真実』など。大韓サッカー協会公式サイト日本語版
(http://www.kfa.or.kr/japan_kfa/main/main.asp)も手がけている。
厳選サッカーコラム1971年4月16日、東京都・浅草生まれの在日コリアン3世。
主にサッカーを中心とした韓国スポーツに関連する記事を各種メディアに寄稿中。
著書に『ヒディンク・コリアの真実』など。大韓サッカー協会公式サイト日本語版
(http://www.kfa.or.kr/japan_kfa/main/main.asp)も手がけている。
・岡田ジャパン?大木コーチ・ジャパン?
・指導者の適性カテゴリー
・拝啓 岡田武史様
・応援と観戦の乖離
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