【眼光紙背】ソシエテジェネラルのリスク管理体制はどうなっていたのか
2008年02月01日11時00分 / 提供:眼光紙背
保田隆明の眼光紙背:第16回
欧州の代表的金融機関であるソシエテジェネラルにて、一人のトレーダーが多額の損失を発生させ、同社が他社に救済買収されるのではないかという話まで出てくる状況になっている。過去のトレーダーによる多額損失発生事件では、日本でも大和銀行のニューヨーク支店での米国債への投資失敗や銅の取引で多額の損失を出した住友商事の例などがある。大和銀行の場合は米国からの事業撤退につながり、住友商事の場合も経営に大きなダメージを与えたが、今回のソシエテジェネラルの件は損失額が50億ユーロと過去最大規模であり、会社の行く末に大きな影響を与えることは間違いない。50億ユーロという規模は資生堂の売上高に匹敵する。資生堂のグループ従業員数は27,000人以上おり、これら従業員が一生懸命汗水たらして働いて稼いだ売上高に匹敵する金額を、ソシエテジェネラルのトレーダーはたった一人で吹き飛ばしたことになる。いかに大きな金額かを実感していただけることかと思う。ここで沸き起こる疑問は、どうやって一人の従業員がそれほどの多額の損失を会社に発生させうることができるのだということある。
金融機関には様々な職種が存在するが、会社に直接実損を与えうるのはトレーダー以外には存在しない。トレーダーとは、会社のお金で証券や商品の売買を行う存在である。損をすればそれはそのまま会社の損失となる。これがもしファンドの場合だと、同じように損失が発生しても損失負担は出資者間で分散される。たとえば100人が1億円ずつ出資して組成した100億円のファンドで10億円の損失が出た場合、その10億円の損失は100人の出資者で分担することになるので、一人当たりの損失額は1,000万円となりインパクトは小さくなる。しかし、金融機関のトレーダーのように、自社のお金で売買を行っていると、ファンドの場合のように損失を分担負担する存在がいないので、自らが100%損失を被ることになる。特に、自己資金を元にレバレッジをかけて保有資金よりも大きな金額のトレードを行うことも多々あるので、その場合は、損失額もその分大きくなる。
このように、トレーダーの売買行為が会社に与える影響度合いは大きいので、どの金融機関でもトレーダーの売買内容にはある一定の制限がかけられている。一人のトレーダーが取引できる金額に上限を設けておけば、おのずと損失もその上限の範囲内ということになるので安全である。したがって、通常はいくらトレーダーが取引に失敗して損失を出そうとも、その金額にはおのずと限界が存在する。しかし、今回のソシエテジェネラルの場合は、そういう上限の機能が働かなかったことを意味し、社内のリスク管理体制の不備が追及されることになろう。
また、トレーダーは、売買の注文は行うものの、その注文の処理をすることはない。これは一般の会社でも商品を売ってくる営業マンが一人で伝票や請求書の処理までするわけではなく、そのようなペーパー作業は別の部隊に任せていることと同じである。トレーダーの注文を社内で記録し、処理するチームが別途存在するので、トレーダーの注文内容が、全く社内のほかの人に知れずに行われるということはなかなか想像しづらい。今回のソシエテジェネラルのトレーダーの場合は、そういう業務処理サイドでも不正を働き、自らの売買を完全に隠ぺいしようとしていたと報じられているが、これも社内の管理体制から発生する問題ということになる。
今回のソシエテジェネラルの件は、トレーダーという社のお金を直接扱う社員の存在と、その社員の取引内容に制限をきちんとかけきれていなかった会社側の体制の不備、という二つが存在してこそ50億ユーロという多額の損失につながった。会社が一人一人の従業員の行動内容を把握し、コントロールすることはほぼ不可能であり、損失を最小化するためには、企業は事前にリスクを管理、コントロールする必要がある。リスク管理体制への注目が高まっている昨今であるが、今回のソシエテジェネラルの件は、その重要さを改めて認識させる出来事である。
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