疑惑の影、その視線=名古屋市・越境入学騒動(上)
2008年01月30日13時47分 / 提供:PJ
名古屋市千種スポーツセンター。 小学生から大学生まで、愛知県内のバスケやバレーの大会はここがメイン会場の1つになる場合が多い。 昨年11月には女子バスケ全日本学生選手権(インカレ)も行われた。 (※撮影;佐々木隆、07年11月10日)
不正越境 別の市立中学も
名古屋市の市立中学校が、転居を伴わない住民票の移動だけで生徒を越境入学させていた問題で、同市のW中学校(目次清和校長)も生徒21人を同様に入学させていたことがわかった。うち20人は、女子バスケットボール部に所属。女子バスケ部は昨夏の全国大会に出場に、8強入りしている。(中略)
同校によると、市が認める基準に該当しない理由で越境入学しているのは、1年生6人、2年生9人、3年生6人の計21人。1人を除いて女子バスケ部員で、レギュラー選手もいる。いずれも愛知県内の自宅から通学しており、住民票の移転先で生活はしていないという。
06年8月には、一度に9人が越境入学を始めた。うち6人は、女子バスケ部の顧問を務める男性教諭(57)の前任校である同市立中学校で指導を受けていた。(中略)
指導者として全国大会出場経験もある教諭を慕ってきたといい、教諭側からの勧誘はなかったとしている。保護者に対し、文書で住民票移転先からの通学を促す勧告を繰り返したが、これまでに応じた例はないという。(中略)
名古屋市では身体的な理由やいじめ被害など定められた基準に該当しない場合、校区外からの越境入学を認めていない。部活動がらみを含め、 正当な理由なく越境入学している可能性のある児童・生徒の数は06年8月の調査時点で275人を確認され、学校に改善を指導したという。住民票の移動が受理され、入学を希望してきた場合、越境入学に気付くのが難しいのが現状だという。 (長谷川潤) ※「W中」は記事中では実名 その他、一部変更
この記事を読みながら、筆者がまず思ったのは、「あぁ、やっぱり…」「あの時にもっとしっかり確認して、その時点で何か言っておけばよかったかな…」。この「あの時」とは、昨年11月、第6回名古屋市内中学校バスケットボール新人大会会場にて、筆者が少なからず、W中のバスケ部員や保護者らに「接触」した時の事だ。
同大会、W中はトーナメント1回戦は免除で2回戦から登場。ここで142対3という圧倒的なスコアをたたき出し、以降、3回戦69対31、4回戦79対18、準決勝96対17、決勝53対48と、ほぼ楽勝続きで「軽く」優勝した。そして12月末の県大会も、こちらは余裕とまでは行かなかったが、それでも堂々準優勝している。
この時点でというより、その前の夏の全国大会(全中=ぜんちゅう)から「怪しい」とは思っていた。顧問教諭(57)が赴任してきたのは07年4月、そのわずか4ヶ月後に全中ベスト8…。いくら彼が有能にせよ、そんな短期間でここまで成果を出せるものだろうか。高校や大学と違い、中学はいわゆるスポーツ推薦はあり得ないはずなのに。バスケはまったく素人の筆者ですら、「これは絶対、何か裏がある…」と感じた。
11月の新人大会、筆者が試合会場に出向いた理由は、大会そのものを純粋に取材・観戦する以外にも、W中を「観察」するというのが3割は含まれていた。「観察」という表現が不適当なら、「確認」といってもいいだろうか。応えてくれないかもという無駄は覚悟ながら、当の本人たちから話を聞くのが一番確実だ、その時はそう思っていた。
そして、試合の合間、会場内スタンド席一角に、W中の女子バスケ部員、おそらくほぼ全員がそろっていたところ、うち数人に話を聞いた。他にもW中の男子バスケ部員、そして保護者それぞれ数名ずつに話を聞いた…。本来ならばその会話の詳細をこの記事に載せるべきなのだろうが、後述するある理由により断念する。
今思うと…。質問に答えてくれた女子部員がそうだったかはわからないが、少なくともその時周りにいて話を聞いていた彼女らの大半が「越境生」だったのだ。保護者も同じだろう。そう思うと、色んな意味で背筋が凍り、そして震える。「あぁ、やっぱり、俺は間違ってなかったんだ……」。
あの時点で筆者がもっと深く突っ込んでいれば、つまり真相をより早く明らかにしておけば、騒動には変わらなかったろうが、少なくとも2カ月早く「十字架」を下ろしてあげることができたかもしれない。これは誇張としても、12月末の県大会で「W中に負けた」チームの中から優勝チームが出ていたかもしれないのに……。自分の優柔不断さをちょっとのろう。
さて、「部員や保護者との会話を記事にするのを断念した」理由だが、保護者らの「対応」があまりにも不自然だったことにある。「子供たちには話しかけるな」「写真は撮るな、記事も消せ」…。その時点で部員たちと話しており、また前週までの試合結果記事も更新済み。激しく抗議され、筆者は泣く泣く、記事を削除せざるを得なかったのだ。
「取材の手順を半ば無視した」筆者に非がなかったわけではない。その時の口頭での謝罪の気持ちに偽りはない。しかし、この場合は「越境入学」というタブーを掘り下げる取材であり、いちいち「顧問や保護者の許可を先に取る」わけにはいかなかったのだ。まさか、当の親たちに面と向かって「越境」の語を出すわけにもいかない(今思えば、そうすべきだったとも言えるが)。
筆者が「話しかけた」のは、小学生ならまだしも、中学生のそれも集団でいた運動部部員だ。まぁ、最近の世相、特に中学・高校生を狙った犯罪・背徳行為が増加していることを考えれば、理解できない行動ではない。この点だけを見れば、むしろ筆者の方に非があるだろう。
が、しかし。いくつか他中学の部員や保護者らにも多数話を聞いたが、W中のような「過剰」反応はまったくなかった。差し入れとして(?)お菓子をくれるなど、むしろかなり「友好的」であったと自分でも思う。この「差」は、単なる偶然なのだろうか。
筆者は独身、もちろん子供はいない。だからW中の保護者らが、「写真撮影を禁止したりするのは、子を守る親として当然の責務だ。あんたに子を持つ親の気持ちがわかるのか?」と言われれば否定しようがない。実際、そのような事は言われた。もっともっと、過激なことを言われた記憶もある。
では、今回の騒動はどうだろう。彼ら保護者は女子部員らを「守れて」いるのだろうか。越境入学に限らず、転校というものは生徒(子供)だけでできるものではない。必ず親の「判断」「許可」「捺印」が必要だったはずだ。どんな事情・心情があったにせよ、今回の騒動を「引き起こした」のはほかならぬ保護者たちだったと断言しても、そう差し支えないだろう。
あまりこのようなことは言いたくないが、W中の部員・保護者らの筆者に対する反応が異様だったのは、自らに「越境入学」という後ろめたいところがあったからではないだろうか。筆者は結局彼女らの前で直接「越境」という単語は使わなかったが、今思うと、やはりその質問を「警戒」していたのだと思う。
そういえば、気のせいかもしれないが、W中の保護者ら「応援団」は、やたら「色めきだち」、試合会場の中でもかなり「浮いていた」。越境までしてやらせているバスケだけに、やはり応援にも気合が入る。そこまではわかる。だが確証はないものの、他中学の応援を制限するなど、それこそ中学生たちが「あの人たちは…」と、筆者にも不満を漏らしてきた。もっともこれはあくまで主観的なもので、W中に言わせればその「他中学」の方が非常識な応援だったのかもしれないが…。
そう、部員や保護者らとの詳細な会話を掲載するのを断念した理由は、また前のように、暗にでも「警察に訴え出る」などと言われるのを防ぐためだ。同じ理由により、朝日・中日・毎日など各主要新聞で堂々と掲載されている「W中」の実名や所在地、校長名を、ここでは表記しない。2つめの理由としては、「まだ中学生」である部員らの将来を案じての処置だ。ここで余計なことまでいちいち掘り下げても、少なくとも彼女ら自身に何のプラスにもならない。喜ぶ人がいるとも思えない。
今月11日(金)、越境入学が発覚した2日後、筆者はW中に取材を申し入れた。この記事を掲載するにあたって「当事者たち」特に顧問教諭の意見をあらためて聞く必要があると考えたからだ。「1週間以内に返答がなければ、こちらの都合(のみ)で記事にする」と添えておいたのだが、2週間以上経過した29日(火)現在に至るまで、まったく音沙汰(さた)がない。まぁ、これはある程度予想していたことだが…。【つづく】
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パブリック・ジャーナリスト 佐々木 隆
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