ピエル・カルラ・ロッセッティさんは、当年62歳になる。毎週日曜になると、試合のために紅茶とアメをたっぷり用意して出かけていく。夫との観戦に付き合うためでも7歳になる孫のためでもない。自分がプレーするために、所属するイタリア女子サッカー・セリエCチーム「USDサマゴル」のゴールを守るためにだ。チームメイトからは、カルレッタおばあちゃんの愛称で呼ばれている。彼女は伊協会に正式登録されている現役選手であり、しかもレギュラーGKなのだ。

「小さい頃から男の子に混じってボールを蹴るのが好きで好きでたまらなかったの。当時は女子の組織なんてなかったわねえ。何度かの試みの後、ようやく私たち女性の時代がやってきたのよ」

 若い頃、ASローマの女子部門のトライアウトも受け入団寸前までいったという。娘も夫もサッカーにはさしたる興味を示さないが、陰で応援してくれているのだという。長く続ける秘訣は、と問われ「私のポジション、GKはね、ちょっとばかり変わってる方がいいわ。常識から外れてるくらいでちょうどいいのよ。私は今でも情熱を感じるもの」と答えた。161cmと小柄なカルレッタおばあちゃんの好きな選手は、“伝説”ゾフでも“ひよっ子”ブッフォンでもなく、やはり低身長だったが好セーブを見せた80年代のベルギー代表GKプリュドームなのだという。実に渋い。

 そして彼女は、先週末のリーグ戦でレッドカードを受けた。長いキャリアにあって生涯初の退場処分だった。相手チームのカウンターにぺナルティエリアを飛び出したカルレッタおばあちゃんは、思わず手でボールを処理してしまった。
「あと1分で前半が終わるところだったのよ!ものすごく後悔してるわ」
 やむをえずチームは“経験の浅い”控えGKを投入。カルレッタおばあちゃんが出場していた前半、2対0で勝っていた試合は、後半に2点を奪われ引き分けに終わった。

「引退は避けられないでしょうけど、私自身サッカーを楽しめるかぎり現役をつづけるわ」
 いやはや、それにしても62歳。おばあちゃんパワーにまったくもって頭が下がります。