もうひとつの報道被害・・・医療崩壊を推進するマスコミ報道
2007年12月26日10時46分 / 提供:PJ
医療裁判に巻き込まれたことを主な理由として外科部長が病院を辞めた。彼は肝臓手術の専門家で、肝臓に転移したがんの新しい治療法に取り組んでいた。ガンが転移して他の治療法がない患者に、死亡率は20%くらいと説明し、本人とその妻に同意を得た上で新しい治療法を実施したが、不眠不休の治療のかいなく患者は亡くなった。同意を知らなかった患者の娘が納得せず、訴訟になった。医師は訴訟には勝ったが、多大の心労を負い、「もう、いやになった」と漏らした。
以上は産経のコラム【断 久坂部羊】07/12/23付を要約したものです。
コラムの著者は最後に「何とか患者と医療者の敵対する状況は避けられないものか」と結んでいます。
小松秀樹氏は著書「医療の限界」の中で「産科医は訴訟をきっかけにしばしば参加医療から離れます。私の直接知っている医師にも、訴訟を機に産科をやめた医師が複数います」と述べています。
ある大病院の勤務医は週80〜90時間働いていますが、例外的なケースではないそうです。プライベートの時間はほとんどありません。これに訴訟が加われば心身ともに耐えられず、仕事への意欲を失いかねません。
一方、救急患者の受け入れ拒否の増加が問題になっています。「救急搬送された患者が医療機関から受け入れを拒否されるケースが、この数年間で都市部を中心に激増していることがわかった。堺市周辺や兵庫県の尼崎、西宮両市などで数倍にのぼっている。堺市高石市消防組合の場合、5回以上の拒否件数は04年に65件だったが、06年は476件と7倍以上、川崎市でも04年に5回以上の拒否が679件だったが、06年は1269件に増えた」(9/21朝日大阪夕刊から1部を抜粋)
医師不足が背景にあると説明されますが、この2年間の急増ぶりは十分な説明になりません。大きい理由は病院が訴訟リスクの高い救急患者を敬遠しているためだと言われています。
医療訴訟が増加した第一の原因は医療に対する不信感の増大でしょう。NPO法人「ささえあい医療人権センター・コムル」によると、年ごとの医療事故に関する関する新聞記事の件数と医療不信の相談件数が強い相関関係にあったされています。
やや図式的になりますが、医療事故の報道が医療不信を招いて、訴訟が増加した結果を受けて、医療側が、救急患者の受け入れに消極的になる、またリスクのある積極的な治療を避ける、医師がリスクの高い診療科を避けるという「自衛策」をとった、と見てよいでしょう。
医療事故の報道自体は必要です。中には訴訟されて当然というケースもあるでしょう。しかし、報道が過大であったり、医療を理解する能力もないまま医療側の責任を過度に問うような報道の結果、信頼関係で結ばれるべき医師と患者が敵対意識をもってしまうことはとても不幸なことです(弁護士は喜びますが)。ごく一部の事故が過大に報道されれば、不信は全体に広がるでしょう。
医療はそもそも不完全なものであり、当然リスクが伴います。マスメディアは事故があるたびに責任者を指弾しますが、そのとき完全無欠があたりまえという立場をとりがちです。その方が激しく責められるし、それが被害者への同情を集め、メディア自身の正義(本当は偽善?)を印象づけるからです。コントラストが強く、サプライズのある記事が見世(みせ)物としては重宝されます。
記事にコントラストを作るための便宜的な厳しい正義は読者・視聴者を徐々に不寛容にし、不信感の強い人間を生み出します。安全であっても、消費期限を延ばす行為はこの1年でひどい悪事とみなされるようになりました。
医療側は正当な理由なく診療を拒否できません。不特定多数の患者の中に少しでも敵対しそうな者がいれば、対策をとらざるを得ません。訴訟を避けるために事前の説明に多くの時間を割かざるを得なくなりましたが、それが医師不足をさらに激化させていると言われています。
過大な報道は医療に大きな負担を強いるだけでなく、受け入れ拒否や、防衛的な治療しかやらないなど、患者にも大きな不利益をもたらします。既に産科と小児科の医師が減少していますが、将来は内科や外科など生命にかかわる医師の減少の可能性もあります。
患者に比して強い立場の医療者を強く指弾する記事は、記者や読者にカタルシスをもたらす反面、大きい代償を払っているという事実にメディアはもっと気づくべきです。
記者やマスコミ幹部が救急患者となって、受け入れ拒否に遭えば、記事の書き方が少しは改まるかもしれません。それを期待することにしますか。【了】
■関連情報
噛みつき評論(記者のHP)
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以上は産経のコラム【断 久坂部羊】07/12/23付を要約したものです。
コラムの著者は最後に「何とか患者と医療者の敵対する状況は避けられないものか」と結んでいます。
小松秀樹氏は著書「医療の限界」の中で「産科医は訴訟をきっかけにしばしば参加医療から離れます。私の直接知っている医師にも、訴訟を機に産科をやめた医師が複数います」と述べています。
ある大病院の勤務医は週80〜90時間働いていますが、例外的なケースではないそうです。プライベートの時間はほとんどありません。これに訴訟が加われば心身ともに耐えられず、仕事への意欲を失いかねません。
一方、救急患者の受け入れ拒否の増加が問題になっています。「救急搬送された患者が医療機関から受け入れを拒否されるケースが、この数年間で都市部を中心に激増していることがわかった。堺市周辺や兵庫県の尼崎、西宮両市などで数倍にのぼっている。堺市高石市消防組合の場合、5回以上の拒否件数は04年に65件だったが、06年は476件と7倍以上、川崎市でも04年に5回以上の拒否が679件だったが、06年は1269件に増えた」(9/21朝日大阪夕刊から1部を抜粋)
医師不足が背景にあると説明されますが、この2年間の急増ぶりは十分な説明になりません。大きい理由は病院が訴訟リスクの高い救急患者を敬遠しているためだと言われています。
医療訴訟が増加した第一の原因は医療に対する不信感の増大でしょう。NPO法人「ささえあい医療人権センター・コムル」によると、年ごとの医療事故に関する関する新聞記事の件数と医療不信の相談件数が強い相関関係にあったされています。
やや図式的になりますが、医療事故の報道が医療不信を招いて、訴訟が増加した結果を受けて、医療側が、救急患者の受け入れに消極的になる、またリスクのある積極的な治療を避ける、医師がリスクの高い診療科を避けるという「自衛策」をとった、と見てよいでしょう。
医療事故の報道自体は必要です。中には訴訟されて当然というケースもあるでしょう。しかし、報道が過大であったり、医療を理解する能力もないまま医療側の責任を過度に問うような報道の結果、信頼関係で結ばれるべき医師と患者が敵対意識をもってしまうことはとても不幸なことです(弁護士は喜びますが)。ごく一部の事故が過大に報道されれば、不信は全体に広がるでしょう。
医療はそもそも不完全なものであり、当然リスクが伴います。マスメディアは事故があるたびに責任者を指弾しますが、そのとき完全無欠があたりまえという立場をとりがちです。その方が激しく責められるし、それが被害者への同情を集め、メディア自身の正義(本当は偽善?)を印象づけるからです。コントラストが強く、サプライズのある記事が見世(みせ)物としては重宝されます。
記事にコントラストを作るための便宜的な厳しい正義は読者・視聴者を徐々に不寛容にし、不信感の強い人間を生み出します。安全であっても、消費期限を延ばす行為はこの1年でひどい悪事とみなされるようになりました。
医療側は正当な理由なく診療を拒否できません。不特定多数の患者の中に少しでも敵対しそうな者がいれば、対策をとらざるを得ません。訴訟を避けるために事前の説明に多くの時間を割かざるを得なくなりましたが、それが医師不足をさらに激化させていると言われています。
過大な報道は医療に大きな負担を強いるだけでなく、受け入れ拒否や、防衛的な治療しかやらないなど、患者にも大きな不利益をもたらします。既に産科と小児科の医師が減少していますが、将来は内科や外科など生命にかかわる医師の減少の可能性もあります。
患者に比して強い立場の医療者を強く指弾する記事は、記者や読者にカタルシスをもたらす反面、大きい代償を払っているという事実にメディアはもっと気づくべきです。
記者やマスコミ幹部が救急患者となって、受け入れ拒否に遭えば、記事の書き方が少しは改まるかもしれません。それを期待することにしますか。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 岡田 克敏
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