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「叶 匠壽庵」 成長の原点は「農商工の連携」にあり(下)

2007年12月24日11時21分 / 提供:PJ

pj
「叶 匠壽庵」 成長の原点は「農商工の連携」にあり(下)
故芝田清次氏の自伝、菓匠として世に活かされてという「花雲水」。表装紙は、おなじみの叶 匠壽庵の包装紙である。(撮影:今藤泰資) 写真一覧(5件)
(上)からのつづき。西山室長から拝聴する芝田清邦社長の積極的で幅広い事業意欲は、創業者芝田清次氏の後姿を思い出させる。「素材へのこだわり」や、「脳は農なり」とする心情は父親ゆずりであろうし、「農業は日本の基本。宗教や文化関係の行事との関係が深い。和菓子は農工一体の作業」(朝日新聞)とされる清邦社長の深い思いいれは、前社長の自伝「花雲水」(講談社・1985年初版)で明らかだ。

 京都祇園の薪炭問屋に生まれた清次青年は、戦時中の中国で左眼に貫通銃創を受け、以来義眼の生活を余儀なくされてきた。「失われてこそ得られた心の目」を「幸せ」と達観する青年は、敗戦直後、隻眼(せきがん)ながら警察官試験に合格。その後転職した大津市役所観光課の職員をも39歳で退職する。1956(昭和33)年の決断を、「勘とひらめきであったというほかない菓匠の道を選びとった」と、自伝で述懐している。「頼りといえば郷土の自然に育まれた感性や知恵、知識だけであった」というが、清次氏は京都の出自。また、近江といという古来まれなる商人文化の中で生計を営んできたことが、大きな背景であったのに相違ない。

 自然とのかかわりと、多彩な趣を見せる琵琶湖周辺の季節感。比叡、比良、伊吹、鈴鹿、御在所、信楽などの峰々。瀬田川、日野川、野州川、鴨川、安曇川などの河川…。近辺のたたずまいを愛するとともに、工匠や豪商の「血筋の類縁」を強く意識していたという創業者芝田清次氏。わけても、造型や造営の最優秀な技術集団が、素材としての森林資源を活用し、河川湖沼交通の利便に恵まれた郷土を、確実に自らの資源と成したのである。事細かに記された自伝から読み取れるものは、豊かな「農業資源」であり、「匠」の技術であり、水運を主とした「物流」への理解であり、さらには「近江商人」の伝統なのである。

 精神構造は父親ゆずりとはいえ、桜葉やゴマ、ぶどうの果実で苦味をマスキングする手法を編み出し 独特の技法で地域風土に合った「地域循環型の家づくり店舗づくり」を進める地元の増山工務店の活用などは、清邦氏の発案によるものだ。特に「工」の分野で、内外の注目を集めたのが、「セル生産方式」の導入であった。「セル生産方式」とは、松下電器やキャノンなどの製造業界で近年多く採用されるようになった「コンベアー生産方式」に変わる新生産方式である。作業者間の仕掛品がなくなり、作業者の熟練度をムダなく生産に活かされるとし、「1人生産方式」とか「屋台生産方式」とも呼ばれる。5年前の導入以来、作業効率は上がり、「08年の売り上げ高は、前期比10%増の64億円を見込む」と朝日新聞は伝えている。

 「農」の分野では、広大な本社工場の敷地内に農場を構え、植栽の専門家を雇用し、雑草駆除のため、数頭のヒツジまで飼育する。丹波産の豆を仕入れ、柚子や梅の自家栽培にも力を入れている。「近江商人」の気質は、都内の新丸ビル唯一の菓子匠としてテナント出店し、ここでも遺憾なく発揮された。オフイスビルには珍しくOLらが好んで食べ、日販40ー60万円という実績を上げたのだ。 阪急、高島屋、伊勢丹、松坂屋、そごうなど全国のデパートなどに、合計65のテナントと直営店舗を有するようになった叶 匠壽庵。

 本社工場をくまなく案内してくださった西山室長に、「工場を見せていただけますか」と伺ったら、「いえ、申し訳ありません。ソチラはどなた様でもお断りしておりますので」と丁重に断られた。「季節の移り変わりに 郷の木や草花が その季の姿で 楽しませてくれます」という寿長生の郷。JR石山駅まで、瀬田川沿いに30分。無料送迎バスで帰るわたしに、平身低頭して見送った西山進也さんだったが、場内案内の途上、「韓国では柚子は冬の健康食品として定着している」というわたしの話に聞き耳をたて、「ほー韓国でね」と驚いたような瞬間だけ、商売に目ざとい近江商人の視線になっていた。

 京都市内、哲学の道にある叶 匠壽庵の茶室棟には、初代の残した起請文がある。その中に、「菓匠とは活きづく創作を生み出し、人の世に潤いと豊かさを供し、歓びを招いてのみ功徳と思ふべし。さすれば功徳に価する、厚き心想と才覚の限りが尽くされて甚多(はなはだ)当然なり」(句読点、振りがなー筆者)というくだりがある。帰途の新幹線車中で、わたしは自伝「花雲水」を読みながら、元松戸市長松本清氏のことを思い出していた。

 千葉県我孫子市の湖北地域で生まれた清氏と芝田清次氏は、「芝」と「松」の違いはあっても、「清」の一字は同じだ。ドラッグ「マツキヨ」と「菓子匠・叶 匠壽庵」の違いはあっても、行政の世界に身を一時は置いた東西の経営者。芝田社長の起請文は、「お客さまの心を見つめ、品質と安さの両立を強く思う気持ちで商品開発したい」とする「マツキヨ精神」と相似形を成すように思える。

 清次氏、清氏。両者とも故人となった現在、ともに創業の精神を受け継ぐ良き後継者を得ているのは、単なる偶然ではない。創業者の熱い思いはそうたやすくは伝わらないものだ。昨今、赤福や船場吉兆のような老舗が、相次いで謝罪を繰り返す。たかが菓子匠、されど菓子匠。モノづくりもモノうりも、心のない家業など続くはずがない。政府施策が大きく「農商工連携」に転換するこの時期。芝田清邦氏率いる独創的な菓子匠・叶 匠壽庵の、さらなる飛躍を期待してもよさそうだ。【了】
 
■関連情報
 叶 匠壽庵 http://www.kanou.com/
 中小基盤整備機構 http://www.smrj.go.jp/ (農商工連携 地域資源の活用)

PJニュース.net

※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 今藤 泰資

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