近年、冷え込み気味だった電子書籍市場に、久しぶりにホットな話題が登場した。米アマゾンの電子書籍リーダー「Kindle」の発表である。

 ワイヤレス機能を装備した同機は、PCを介する必要がない。アマゾンのカタログページにダイレクトにアクセスして、およそ9万冊の在庫の中から目当ての本をすぐに購入することができる。また、新聞や雑誌の電子版を自動的に受信することも可能だ。

 しかしこの「Kindle」、ワイヤレス機能以外の点では、かつてソニーが開発した「LIBRIe(リブリエ)」や松下の「Words Gear(ワーズギア)」と大差ないように見える。価格も399ドルとほぼ同じだ。先行2機種が苦戦を強いられている中、日米の出版事情が異なるとはいえ、「Kindle」が易々とユーザーに受け入れられるとは考え難いのだが……。

 そんな中、電子書籍市場の思わぬプレイヤーになりそうのが「ニンテンドーDS」である。同機の国内出荷台数は2000万台(07年10月現在)。これを“電子書籍リーダー”として転用すれば、市場の裾野が一気に広がる可能性がある。実際に今秋には、そんな期待を抱かせるソフトが発売された。「DS文学全集」である。

 同ソフトに収録されているのは、著作権切れの日本文学作品100冊。芥川であれば『羅生門』『藪の中』など8作。漱石であれば、『吾輩は猫である』『こころ』『門』などの長編を含めた9作が収められている。作家総数は約50名。それで2,800円(税込)なのだから、1作あたりに換算するとかなり安い。

 気になる読みやすさであるが、バックライト付の「DS Lite」であれば、画面は十分に明るい。活字の大きさを最大にすれば、紙の文庫本よりも読みやすいぐらいだ。ページ送りも矢印キーを押すだけなので、片手で簡単に扱える。満員電車の中でも、サクサクと読書ができる。

 またDSにはワイヤレス通信機能(ニンテンドーWi-Fiコネクション)がある。「DS文学全集」の場合、ネットに接続すれば本の追加も可能だ(最大20冊前後)。つまりDSは、既にして「Kindle」の機能を兼ね備えているのである。たしかに読書専用端末としての性能は「Kindle」のほうが上であろう。しかし実用に耐えるのであれば、既に市場を席巻しているDSのほうに分がある。今はまだ古典が中心だが、ベストセラー作家の新刊をDSで読むという試みが実現する日は近い。
(中島 駆)

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