[CNET Japan] 現在の楽器インターフェースは最適解か?――岩井俊雄氏、TENORI-ONを披露
2007年12月03日21時56分 / 提供:CNET Japan
鍵盤や弦、リードやマウスピースなど、旧来の楽器は入力が発音の仕組みと密接に関わってきた。しかしこうした旧来のインターフェースは、現代の電子楽器にふさわしいものなのだろうか? メディアアーティストの岩井俊雄氏がヤマハと共同で制作した「TENORI-ON」は、この問題に大きく迫ったデバイスだ。
12月2日、明治大学駿河台校舎にあるアカデミーホールで、「シンポジウム“TENORI-ON+初音ミク+BiND+元気ロケッツ×武田双雲”」というイベントが開催された。これは明治大学の大学院理工学研究科に新領域創造専攻が新たに設けられることに伴うもの。この第1部で行われたのが、岩井俊雄氏による電子楽器TENORI-ONのライブパフォーマンスだった。
TENORI-ONは、LED付きスイッチが16×16のグリッドに集合したような形状をしていて、このスイッチを押すことで音が出る。複数のスイッチを押すと次第に複雑な音になっていき、やがてミニマルミュージック的な曲として成立していく。演奏デモ動画はYouTubeにもアップロードされている。メディアアート、あるいはガジェット的にも見えるが、今年9月にはイギリスでは実際に楽器として先行販売が実施され、好評を博しているという。
ライブ後、岩井氏からは6年間に渡ったTENORI-ON制作までの道のりが語られた。話は岩井氏が初期の音楽制作に使っていたヤマハのMSXコンピュータの話から始まる。「テレビ画面上の五線譜に音を並べて入力していた。僕は高校時代にギターなどに挫折したクチで、こうしたコンピュータがあれば、自分でも曲が作れるんじゃないかと夢を抱いた」(岩井氏)。しかし、いざやってみると楽譜の壁にぶつかったという。「とても複雑すぎて、自分で入力できるとは思えない」。その頃に出会ったのが手回し式のオルゴールだった。
オルゴールでは紙テープの穴の通りに曲が演奏される。「紙テープの穴は、楽譜よりずっとわかりやすく見えた」(岩井氏)。さらに、これを逆に入れると違うメロディが流れるところに大いに興味を引かれたという。また、紙テープに穴が並んでいる様が抽象絵画のように見えてきたところから、視覚表現と音楽は融合できるのではないかという着想を得たと語る。
これを元に、任天堂との協力でマウスでグラフィカルに音楽をいじれるソフトウェア「サウンドファンタジー」(未発売)を開発したり、坂本龍一とのコラボレーション作品をアルス・エレクトロニカに出展するなどの活動を行っていく。こうした中で出てきた、16×16のマス目で音楽を表現するという考えをヤマハのスタッフと協業して実現したのがTENORI-ONだ。
実際に楽器として仕上げるには多大な苦労があったというが、「できたものを世界のアーティストに試してもらったところ、非常に良い感触があった」(岩井氏)。実際にイギリスで発売された後にはビョークが5台も購入し、ライブにも使われたという。
TENORI-ON開発の際には、従来の楽器と電子楽器の違いについて深く考察したという。「従来の楽器はギターでもピアノでも、音を鳴らすための必然とした形状のデザインとして完成されている。ヤマハから発売された初のシンセサイザー『DX-7』も、インターフェースはピアノ同様の鍵盤。シンセサイザーは確かに新しい発想だったが、入力に対しては新しい提案をしていなかった」(岩井氏)。さらに、電子楽器はアコースティックな楽器の形にとらわれてしまったため、個性を発揮できていないのではないかと指摘。
「現在もっとも使われている楽器はPC。サンプリングなどでどんな音でも出せるが、これには楽器の形としての必然性は存在しない。アンチアコースティックとしては面白いムーブメントだが、全部これになってしまうのは面白くない」(岩井氏)。こうした考えを進め、演奏スタイルの個性にこだわったものがTENORI-ONにつながったという。最後に、「ヤマハのホームページに、ピアノやギターといった項目と一緒にTENORI-ONが並んでいる。何十年後かには、TENORI-ONも楽器のスタイルの一部として定着するかもしれない」と展望を述べた。
このように全く新しい楽器を作るという風潮は、他のメーカーでも徐々に立ち上がってきている。代表例をあげると、コルグから発売されているタッチパッド入力型のシンセサイザー「KAOSSILATOR」だ。元々は同じタッチパッド入力を採用した多機能エフェクター「KAOSS PAD」シリーズの後継製品だが、単体で発音できたりアルペジエイター(特定の音の発声に対して分散和音を付加する仕組み)を搭載したりなど、電子楽器として完結するものとなっている。
YouTubeで「KAOSSILATOR」のデモンストレーション動画がアップロードされたころから注目され、現在では主な楽器店でも売り切れ状態が続いている。
「TENORI-ON」と「KAOSSILATOR」、どちらも従来の楽器とは全く違うインターフェースを持ち、直感的に音楽表現ができる。今後はピアノやギターの心得がなくとも、コンピュータの助けがあればフィーリングだけで作曲ができる、そんな未来が訪れるのかもしれない。
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