今週のお役立ち情報
新作映画レビュー/社会派というより宗教プロパガンダ映画
2007年11月19日11時20分 / 提供:超映画批評
マイティ・ハート/愛と絆 55点
『マイティ・ハート/愛と絆』は、ある理由により妙に腰の落ち着かない映画となった。
フランスのラジオ局記者のマリアンヌ(アンジェリーナ・ジョリー)は、ウォール・ストリート・ジャーナル特派員の夫と二人、パキスタンにやってきた。だが、この国での最後の取材にでかけた夫ダニエルが、夜になっても戻ってこない。彼は、そのまま神隠しにあったように消えてしまった。やがて夫婦の事務所兼自宅には、現地捜査官やアメリカ領事館のスタッフ、夫のインド人の部下など、さまざまな人種、文化的背景を持つ人々が集結。ダニエルの救出というひとつの目的に向かって、全力をつくす体制が整いつつあった。
この作品は実話をもとにしている。ダニエル・パール誘拐事件は、その後の驚きの展開や奥さんの意外な発言などから、今では全米中に知れ渡っている。そこでブラッド・ピットが映画化権を買い取り、私生活でのパートナー、アンジェリーナ主演で映画化した。
ただこれ、社会派映画というよりはもっとスピリチュアルな、他者を赦す心の崇高さや、立場を超えたつながりのようなものを賛美した作品になっている。よって当時のパキスタン情勢など、そうした社会的な側面からのアプローチによる作品解説はあまり必要ないかな、という気がする。
それよりも、愛する家族を理不尽な形で突然さらわれながらも、あきらめず、内にこもらず立ち向かったある女性(しかも妊娠6ヶ月という状況で)の態度から、テロリズムにどう対峙すれば良いかのヒントを得ようとする方が見方としては適切だろう。なにしろそのやり方は、アメリカを始めとする国際社会が取っているタテマエの態度とは、大きく異なっている。
手持ちカメラによる臨場感をよく生かして、テロリストたちの恐さを生々しく伝えてくるし、ドラマも抑制が効き映画としてはよくできている。マイケル・ウィンターボトム監督はこの間まで、アメリカにいじめられるパキスタン人という、この映画とは反対に近い内容の映画を作っていたのだから、色々な意味で器用人である。
ただ、そんなこともあってかこの映画からは、作り手側の確固たる信念というものがあまり感じられない。ヒロインを演じるアンジェリーナ・ジョリーはモデルとなったマリアンヌ・パール本人と友人同士ということもあり、とにかく彼女に気に入られたいという様子。キューバ系とオランダ系のハーフであるマリアンヌ役を、全然違う自分のオンナに与えてしまうプロデューサーのブラッド・ピットのやり方も、なにか仕事以上の関係を思わせる。
このカップルは本当にこの事件に入れ込んでいるんだろうと思うが、その思い入れは被害者たちに向きすぎて、信念でなく妄信のような薄気味悪さを感じさせる。
やがて、劇中でアンジェリーナがお題目を唱える場面をみて「ああ、なるほど」と合点がいった。私が本作から感じた違和感は、カルトや新興宗教を妄信する人たちから感じるそれに近いものがあるのであった。おそらく実際のマリアンヌは熱心な創価学会の信者で、だからこそ事件後にあのような行動を取れたのだろう。その行動自体はたしかに立派に見える。
イスラムに誘拐されてひどい目にあわされたユダヤ人夫の妻は創価学会員。多くの日本人はこうした本作の宗教的背景を知ると、いかに「いい話」とはいえ、素直に受け入れがたいのではないだろうか。
監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ダン・ファターマン、アーチー・パンジャビ、イルファン・カーン、ウィル・パットン など
公式サイト:http://www.mh-movie.jp/top.html
11月23日(金・祝)TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー!
■関連記事
・『マイティ・ハート/愛と絆』監督マイケル・ウィンターボトム「アンジェリーナと組めて最高だった。」/インタビュー
『マイティ・ハート/愛と絆』は、ある理由により妙に腰の落ち着かない映画となった。
フランスのラジオ局記者のマリアンヌ(アンジェリーナ・ジョリー)は、ウォール・ストリート・ジャーナル特派員の夫と二人、パキスタンにやってきた。だが、この国での最後の取材にでかけた夫ダニエルが、夜になっても戻ってこない。彼は、そのまま神隠しにあったように消えてしまった。やがて夫婦の事務所兼自宅には、現地捜査官やアメリカ領事館のスタッフ、夫のインド人の部下など、さまざまな人種、文化的背景を持つ人々が集結。ダニエルの救出というひとつの目的に向かって、全力をつくす体制が整いつつあった。
この作品は実話をもとにしている。ダニエル・パール誘拐事件は、その後の驚きの展開や奥さんの意外な発言などから、今では全米中に知れ渡っている。そこでブラッド・ピットが映画化権を買い取り、私生活でのパートナー、アンジェリーナ主演で映画化した。
ただこれ、社会派映画というよりはもっとスピリチュアルな、他者を赦す心の崇高さや、立場を超えたつながりのようなものを賛美した作品になっている。よって当時のパキスタン情勢など、そうした社会的な側面からのアプローチによる作品解説はあまり必要ないかな、という気がする。
それよりも、愛する家族を理不尽な形で突然さらわれながらも、あきらめず、内にこもらず立ち向かったある女性(しかも妊娠6ヶ月という状況で)の態度から、テロリズムにどう対峙すれば良いかのヒントを得ようとする方が見方としては適切だろう。なにしろそのやり方は、アメリカを始めとする国際社会が取っているタテマエの態度とは、大きく異なっている。
手持ちカメラによる臨場感をよく生かして、テロリストたちの恐さを生々しく伝えてくるし、ドラマも抑制が効き映画としてはよくできている。マイケル・ウィンターボトム監督はこの間まで、アメリカにいじめられるパキスタン人という、この映画とは反対に近い内容の映画を作っていたのだから、色々な意味で器用人である。
ただ、そんなこともあってかこの映画からは、作り手側の確固たる信念というものがあまり感じられない。ヒロインを演じるアンジェリーナ・ジョリーはモデルとなったマリアンヌ・パール本人と友人同士ということもあり、とにかく彼女に気に入られたいという様子。キューバ系とオランダ系のハーフであるマリアンヌ役を、全然違う自分のオンナに与えてしまうプロデューサーのブラッド・ピットのやり方も、なにか仕事以上の関係を思わせる。
このカップルは本当にこの事件に入れ込んでいるんだろうと思うが、その思い入れは被害者たちに向きすぎて、信念でなく妄信のような薄気味悪さを感じさせる。
やがて、劇中でアンジェリーナがお題目を唱える場面をみて「ああ、なるほど」と合点がいった。私が本作から感じた違和感は、カルトや新興宗教を妄信する人たちから感じるそれに近いものがあるのであった。おそらく実際のマリアンヌは熱心な創価学会の信者で、だからこそ事件後にあのような行動を取れたのだろう。その行動自体はたしかに立派に見える。
イスラムに誘拐されてひどい目にあわされたユダヤ人夫の妻は創価学会員。多くの日本人はこうした本作の宗教的背景を知ると、いかに「いい話」とはいえ、素直に受け入れがたいのではないだろうか。
監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ダン・ファターマン、アーチー・パンジャビ、イルファン・カーン、ウィル・パットン など
公式サイト:http://www.mh-movie.jp/top.html
11月23日(金・祝)TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー!
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