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深澤美和的弁証法  とめどない悪夢を躱す先に =中京女子大学硬式野球部(5)

深澤美和的弁証法  とめどない悪夢を躱す先に =中京女子大学硬式野球部(5)
試合中、両瞳の強烈鋭気は決して消えない  (撮影:佐々木隆、10月14日) 写真一覧(4件)
【PJ 2007年11月10日】− (4)からのつづき。帽子の裏に「闘争心」「全力プレー」と自ら書いた。つまり普段は無意識であろうが、彼女の視界には常にその2つのフレーズが入っていることになる。そして、それを遵守(じゅんしゅ)し続けている。


 中京女子大学硬式野球部、事実上の初代主将である深澤美和に初めて会ったのが昨年4月8日(土)、愛知県犬山市・名古屋経済大学Gにおいてのデビュー戦。はっきり言って予想通りの超大敗(0対30、8回打ち切り)だったわけだが、筆者の目に留まった、周りとは明らかに「違う」1人の女子選手……それが、背番号10、深澤美和。

 彼女はその試合、2失策を喫しているとはいえ、ショートでの守備範囲の広さ、綺麗(きれい)なグラブ裁き、スローイングの速さと正確さ、そして打つ方はノーヒット(1打数1三振、2四死球)ながらバットスイングが速くまたきちんと腰が入っており、何より攻守いずれでもグラウンド中に響き渡らせる大声……驚がく。失礼ながら、周りがあまりにも不甲斐(ふがい)ない中で「美化」されてしまっている要素も否定できないとはいえ、まさか、女子でここまでのプレーを見せてくれるとは思いも寄らなかったのである(名外大主将・西村風に言うと、「完全に中女大をナメていた」せいもあるかもしれない)。

 あれからもう1年半。筆者はあらためて、あの時の「感想」を深澤本人に直接告げてみた。あの時の衝撃が忘れられない、決しておべっかを使っているわけではない、本心本意そう思ったし、今も変わっていない、自分の実力がチームの中で際だっている事に関してどう思うか、と付け加えて。すると彼女は、複雑な表情を浮かべてこう言った。

 「…それじゃ意味ないんですよ、いくら『女子の中で』上手(うま)くても。あくまで男子と比べて(上手いかどうか)、ですから。自分で野球が上手いとは全く思っていません、本当にヘタだと思ってます。男子と対等にならないと…」


 確かに、彼女を「上手い」というやからは筆者を含めて数多い。一度でも彼女のプレーを目にすれば、誰しもがその感想を抱くはず。だが、それはあくまで「あの選手が女子だと知っているから」という前提のもの。以前も書いたが、彼女が仮に男子なら、正直、中学レベルにすら届いていない。そして恐らく彼女自身が一番、その事実を痛烈に実感しているはず。

 それでも皆、彼女の輝きに「魅了」される。中女大と戦った4大学の男子選手たちは、ほぼ全員必ず二言目には「深澤さんは別格」「中女大では(深澤が実力的に)抜けすぎている」「中女大ナインは深澤さんを手本にすべき」「深澤さんは…」と口にする。

 これらは決して筆者が「言わせた」わけではない。中女大を語るとき、彼らは自発的に、というよりごくごく自然に、当たり前のように彼女の名前を出す。はた目ではわからない、実際に剣を交えた者しか体感できない深澤の真の「実力」は、傍観者が思っていた以上、はるかに偉大であったのだ。

 深澤は自身の球歴について、以下のように語っている。

 「野球を始めたのは小学校4年生です。1コ下の弟が野球を始めるっていうんで、自分も一緒に軟式少年野球チームに入ったんです」

 「中学からはソフトボールです。高校は(ソフトボール強豪の)加藤学園に入って、そこでもショートやセカンドをやりました。自分(深澤)が1年の時には全国大会にも行ったんですよ」

 「3年の時は自分がキャプテンで打順は5番だったんですけど、この時は1回戦負けでした……。で、大学を決めるに当たって、硬式野球部ができるって話を聞いた中女を受けることにしたんです。入学・入部してすぐ、練習が始まりました。そして1年後(06年春)、デビューしたんです」

 「ここまで私たちがやってこられたのは、監督やコーチ、トレーナー、両親や大学職員のみなさん、そのほか応援してくれる人の支えがあってこそです。本当にありがとうございます」

 余談だが、加藤学園高校ソフトボール部のHPはなぜか2003年で更新が止まっており、当時同校2年生であった深澤のプロフィールもいまだに掲載されている。それによると彼女の好きな食べ物は「もも・肉・レタス」、嫌いな食べ物は「バナナ・ミカン・きゅうり・トマト・スイカ・セロリ・かぶ」。意外にも?偏食家のようだが、あくまで4年前の話であり、現在は克服されている可能性もある。

 筆者は先ほど、深澤を「事実上の」初代主将と表したが、これには理由がある。デビュー目前の時期、「名目上の」初代主将ら数名の部員が突如退部・退学したからだ。またその直前には監督交代という、はた目には不可解な「騒動」がぼっ発している。

 これに関して深澤は「…別に、話すようなことはありませんから」としている。とはいえ、崩壊しかかったチームを「引き継いだ」彼女の負担は心理的にも肉体的にも決して小さくなかったはずだ。大学関係者、および保護者らが、事の詳細こそ語らないが、「深澤だからみんながついてきたんだよ。もしあの子がいなければ、その時にみんなバラバラになって、野球部そのものがなくなっていたと思う」などと、その「騒動」による深澤の「負担」を暗に認める発言を繰り返している。

 また、デビュー戦直後にも何人かの選手が退部し、人数不足により公式戦を4試合棄権するという事態も発生した。その後も離脱者が相次ぎ、現在、当初から残っていた部員は深澤含めわずか10名のみ。全国的な注目・話題性こそ集まれど、「結果」も「人員」も伴わない、そんな日々が今に至るまで続いている。

 「ネットとかで自分たち(中女大)がいまだに騒がれてるみたいですけど、特にどうとも思いませんね。言いたい人はどうぞ、って」


 周りに「流されない」のは性格なのか、あるいは意識してそうしているのか。例えばネットの一件、昨年春、愛知大学野球連盟公式HPに中女大へのバッシングが相次ぎ、掲示板が一時閉鎖される事態があった(※関連記事)。同年秋に、マネジャー含む部員の何人かにその件について聞いたところ、一様に返ってきた答えが、「え、そんなことがあったんですか?」。

 渦中の本人たちが騒動を知らなかったのである。連盟HPを含め、インターネットなどいちいち見ないということか。ネット上、彼女らに好意的なHP・ブログも一部あるにはあるが、色んな意味で読まない方がいいと、彼女ら自身で判断したのかもしれない。(※この件に関しては、今思えば余計なことを教えてしまったかもしれないと、筆者自身反省している)

 特に深澤、恐らくはかなり意識して「外部の雑音」を避けている。例えば、筆者が書いた深澤自身の特集記事、少なくとも10月14日(日)時点では読んでいないとのこと。その時に一応(?)、プリントアウトした記事を直接渡しはしたが、恐らくは読んでいないだろうし、仮に読んだとしても、その後いちいちPCで「確認」してはいないと思う。当然、この記事も本人の目に入るとは思っていない。

 「趣味や特技は特にないです。好きなプロ野球選手とかもいませんしね。大学卒業後の進路? 一応自分の中では決めています」

 「今までで一番印象に残った試合? 今年の春の最終戦ですかね。確か15対3でしたけど、失点も(中女大としては)少ないですし、チーム一丸となって点取った試合ですから」


 深澤がそう語るのは、07年5月21日(月)、愛知県トラック協会三好総合第2Gで行われた名外大戦。残念ながら筆者は生で見ていないのだが、公式記録によると、この試合で深澤はチーム初の猛打賞を達成しており、2打点を挙げている。また、スタメンで三振がないのも、安打したのも彼女ただ1人(※相手投手、吉澤重城)。

 ある意味では、チームおよびリーグ内における彼女の「地位」を象徴するかの様な結果である。これが彼女の「実力」だ、とも。この件には特に名外大の選手が彼女を「特別視」するようになった要素もあるだろう。

 だが、特別視とは言ってもあくまで「中女大の中では」、つまり女子に限ればの話。深澤本人が言うように、それでは何の意味もない。「評価」されているとはいえ、それはあくまで上の立場からなされるもの。彼女を「実力的に」恐れている男子など、誰一人存在しない。「負ける」危険性などつゆほども考えていないだろう。

 この2年、中女大を取材してきて何より残念に思う事は、彼女ら自身の口から「男子に勝つ可能性・意気込み」について具体的に語られることがなかったことだ。こちらから聞くのも失礼に当たるかもしれないと、あえて遠慮していたのだが、例えば「来季は絶対勝ちます」「○○投手を打ち崩す自信はあります」「守備面を克服しさえすれば、いつかは必ず勝てます」「絶対、勝つしかない」などというフレーズを正直、待っていたのだが……。

 監督や学長、保護者や大学関係者からはあっても、深澤を含め選手からは一度もない。まさかあきらめているとは思わないが、現状では口にするのも、「可能性」を考えるのもどこかためらわれる、そういう深層心理が働いているのか。

 中女大の戦績を見てみればわかることだ。今季8試合は全敗、それどころか、まず守備面で総失点180、自責点126、失策67、被安打161、失点率23.48、防御率16.43……いずれも名外大や人環大のそれぞれ3〜5倍。攻撃面では4得点、2打点、打率.082、これまた名外大らの何十分の一であり、三振の107だけが約3倍と際だっているのみ。このチーム相手に負ける方がむしろ難しいかもしれない。

 相当な「ハンデ」をつけても結果には影響ないだろう。例えば、野球漫画などでよく見られる「外野手なし」「守備時のバッテリー以外、常に両手足首に1kg程度の重りをつける」「2ストライクで三振/6ボールで一塁出塁」「攻撃は2アウトまで」「普段とは逆の打席(右打者なら左打席)で打つ」「無死で走者がいる場合は必ずバント」、既にある程度実行されているが「スローボールのみ」「盗塁なし」などを男子に課す。逆に中女大に「金属バット使用」「5ストライクで三振/3ボールで一塁出塁、あるいは二塁まで」「攻撃は5アウトまで」「内外野を15人で守る」「バッテリー以外で男子の経験者の助っ人を1、2人起用」などの特権を与える。

 これらのうち5、6個を敢行しても、少なくとも今季までの戦い振りから判断すれば、名外大や人環大が負けることはまずあり得ない。13個全て成されたところでやっと互角、あるいはまだ男子の方が若干有利かもしれない。 (※鈴木信也原作、集英社刊「Mr.FULLSWING」などを参照)

 正規の野球規則のまま、中女大が勝つ確率を強いて挙げれば、どれだけ高く見積もってもせいぜい1%に過ぎない。しかもこれは、相手大学が何らかの事情、失礼ながら例えば人数不足や当日遅刻などにより棄権した場合、つまり不戦勝も含めての数値だ。常識的に考えれば、はっきり言って自力での勝利など絶望に近い。人間版ハルウララと形容しても、さほど異論は出ないであろう。

 …それでも、ふと考えてしまう。いや、ひょっとすると、あるいは、もしかして、深澤ならば。彼女をここまで信じて必死に付いてきた、伊藤なら、山口なら、川出なら、淺井なら、そして、後輩たちなら。

 この冬、それこそ血を吐くような叫喚地獄の練習を積み重ね、一気にそれぞれの才を開花させ、強力な新入生を多数獲得し、そして春からは公式戦で実践経験を積み続け、ほんの1試合、マグレでも何でも、自分たちの実力以上の成果を出し切り、男子チームの奥底に潜む油断・慢心にあわよくばつけ込めれば……。

 長い長い悪夢の夜明け……2008年10月×日、○○球場、中女大「最後の」守り。男子が空振ったエース伊藤の渾身(こんしん)ストレートが、捕手山口のミットに吸い込まれ、次の刹那(せつな)にコールされるゲームセット。整列後、全員が顔面蒼白(そうはく)でグラウンドに崩れ落ちる男子たちを横目に、マウンド付近でチームメイトに胴上げされる深澤が、超大粒の涙を流しながらも最高な満面笑顔を見せつつ、何度も何度も爽快(そうかい)な青空を舞う……そんな一瞬を、密(ひそ)かに静かに夢見ている。【了】

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パブリック・ジャーナリスト 佐々木 隆【 愛知県 】
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深澤美和(ふかざわ みわ) 1986年10月2日 静岡県生ま
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