これでも新聞記者? 記者の資質を疑う朝日記事
2007年11月02日11時44分 / 提供:PJ
最近の朝日新聞に載った二つの記事を紹介する。いずれも記者としての適性を疑うに十分な内容であるが、さらにそれを校正し掲載した新聞社の能力にも疑問を投げかけるものである。
ひとつは10月30日に載った、養老孟司氏が神奈川県立秦野高校1年3組の総合学習の時間に教壇に立った話である。養老氏の「言葉によって認識するのが人間の脳なのだ」「イヌの脳は、呼びかけてくる声を全部違った『音』として認識し」、これが絶対音感と呼ばれる能力だ、という授業内容を紹介している。養老氏の話はとても信じられないものであり、この部分を特に取り上げた記者の評価能力を疑う。
絶対音感とは単独の音を聴いて、その音程(周波数)を知る能力のことである。一般の人は基準の音のあとで別の音を聴くとその音程がわかる。絶対音感を持つ人は、例えば単独に440Hzの音を聴くとA(イ)音だと認識することができる。幼い頃から訓練すれば絶対音感は身につくことが多い。しかし絶対に正確なものではなく、より正確だということである。イヌにも備わっているという研究を読んだことがあるが、どの程度の正確さかはわからないし、広く認められたものとは言えない。
養老説に従えばイヌは声の音程(周波数)と意味とを結び付けていることになり、音程が違えばイヌは違う意味として理解することになる。これは明らかにおかしい。イヌは数個〜数十個の言葉を理解するが、音程が変わっても、また声の主が違っても言葉が同じなら同じ意味だと理解する。
続いて紹介される「人間も赤ん坊の時は絶対音感を持っていた。でも成長するにつれて、基本的には消えていく」という話も疑わしい。果たして根拠があるのだろうか。
養老氏の知識や理解、とくに言葉の定義は拙論でも書いたように以前から問題が多く、教えるという行為は自粛してほしいと思う。
イヌの認識と絶対音感を誤解させる授業は40人に対するもので、悪影響は限定されたものだが、朝日新聞はその誤りを20万倍に拡大して800万の読者に垂れ流した。(細かいことだが生物の分野でイヌと書けばヒトと書くのが一般的で、イヌと人間を並べるやり方には違和感がある。文章を商売とするものならば知ってほしい)
他のひとつは10月26日掲載の、スピーカーの振動板に竹を採用した製品が発売されたという記事だ。この記事には「テクノ最前線 環境編」「音質アップ、針葉樹伐採歯止めに」との見出しもあり、針葉樹に代わる竹の採用が環境に役立つという姿勢で書かれている。
針葉樹はパルプ原料として、すなわち紙の原料として莫大な量が消費されている。毎日捨てられる朝夕の新聞は古紙が半分強入っているとはいえ200g以上ある。スピーカーのコーン紙は何グラムあるだろう、そして誰もが毎日買うものではない。
2000年の新聞紙の年間消費量343万トンである。スピーカーに使われるパルプはまことに微々たるもので新聞紙の1000分の1にも達しないだろう。それに竹が石油などに代わるものならばまだ多少の意味があるが、針葉樹は再生可能資源であり、竹と変わらない。生育の速さだけの違いである。
竹のスピーカーが環境に役立つというこの記事は確かに完全な間違いではない。しかし私が採点するなら迷わず落第点を差し上げる。針葉樹を守るなら他にいくらでも有効な方法があるからだ。計算したわけではないが、新聞の全面広告を1日だけやめれば1年分のスピーカー用のパルプくらい十分賄えるのではないか。この記者の数量概念のなさは、もしかすると「ゆとり教育」の成果なのだろうか(余談だが、最近「ゆとり」という言葉は何も知らないという意味で使われているそうだ)。
かつて航空燃料の不足を補うため全国から松の切り株を集め、蒸留して松根油をつくった話を思い出す。200本の切り株で飛行機を1時間(1本では18秒間)飛ばせるということで進められたらしいが、膨大な量の松と労力を費やしながら結局実用にならなかった。竹のスピーカーと同様、実効性より精神主義の色合いが濃い。どちらも合理的な思考が欠けている。
取り上げた2つの記事自体は目くじらを立てるほどのものではない。しかしレベルの低さの象徴としての意味があり、800万部の影響力を考えるとやはり見過ごせないと思う。そしてなにより新聞の知性の低下が心配なのだ。新聞は影響力のあるオピニオンリーダーであり、それだけに要求される水準は高い。
実害がなくても食品表示のわずかな違反が大問題になるが、記事の虚偽表示は実害があっても、違法でなく、騒ぎにもならない。【了】
■関連情報
噛みつき評論(記者のHP)
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ひとつは10月30日に載った、養老孟司氏が神奈川県立秦野高校1年3組の総合学習の時間に教壇に立った話である。養老氏の「言葉によって認識するのが人間の脳なのだ」「イヌの脳は、呼びかけてくる声を全部違った『音』として認識し」、これが絶対音感と呼ばれる能力だ、という授業内容を紹介している。養老氏の話はとても信じられないものであり、この部分を特に取り上げた記者の評価能力を疑う。
絶対音感とは単独の音を聴いて、その音程(周波数)を知る能力のことである。一般の人は基準の音のあとで別の音を聴くとその音程がわかる。絶対音感を持つ人は、例えば単独に440Hzの音を聴くとA(イ)音だと認識することができる。幼い頃から訓練すれば絶対音感は身につくことが多い。しかし絶対に正確なものではなく、より正確だということである。イヌにも備わっているという研究を読んだことがあるが、どの程度の正確さかはわからないし、広く認められたものとは言えない。
養老説に従えばイヌは声の音程(周波数)と意味とを結び付けていることになり、音程が違えばイヌは違う意味として理解することになる。これは明らかにおかしい。イヌは数個〜数十個の言葉を理解するが、音程が変わっても、また声の主が違っても言葉が同じなら同じ意味だと理解する。
続いて紹介される「人間も赤ん坊の時は絶対音感を持っていた。でも成長するにつれて、基本的には消えていく」という話も疑わしい。果たして根拠があるのだろうか。
養老氏の知識や理解、とくに言葉の定義は拙論でも書いたように以前から問題が多く、教えるという行為は自粛してほしいと思う。
イヌの認識と絶対音感を誤解させる授業は40人に対するもので、悪影響は限定されたものだが、朝日新聞はその誤りを20万倍に拡大して800万の読者に垂れ流した。(細かいことだが生物の分野でイヌと書けばヒトと書くのが一般的で、イヌと人間を並べるやり方には違和感がある。文章を商売とするものならば知ってほしい)
他のひとつは10月26日掲載の、スピーカーの振動板に竹を採用した製品が発売されたという記事だ。この記事には「テクノ最前線 環境編」「音質アップ、針葉樹伐採歯止めに」との見出しもあり、針葉樹に代わる竹の採用が環境に役立つという姿勢で書かれている。
針葉樹はパルプ原料として、すなわち紙の原料として莫大な量が消費されている。毎日捨てられる朝夕の新聞は古紙が半分強入っているとはいえ200g以上ある。スピーカーのコーン紙は何グラムあるだろう、そして誰もが毎日買うものではない。
2000年の新聞紙の年間消費量343万トンである。スピーカーに使われるパルプはまことに微々たるもので新聞紙の1000分の1にも達しないだろう。それに竹が石油などに代わるものならばまだ多少の意味があるが、針葉樹は再生可能資源であり、竹と変わらない。生育の速さだけの違いである。
竹のスピーカーが環境に役立つというこの記事は確かに完全な間違いではない。しかし私が採点するなら迷わず落第点を差し上げる。針葉樹を守るなら他にいくらでも有効な方法があるからだ。計算したわけではないが、新聞の全面広告を1日だけやめれば1年分のスピーカー用のパルプくらい十分賄えるのではないか。この記者の数量概念のなさは、もしかすると「ゆとり教育」の成果なのだろうか(余談だが、最近「ゆとり」という言葉は何も知らないという意味で使われているそうだ)。
かつて航空燃料の不足を補うため全国から松の切り株を集め、蒸留して松根油をつくった話を思い出す。200本の切り株で飛行機を1時間(1本では18秒間)飛ばせるということで進められたらしいが、膨大な量の松と労力を費やしながら結局実用にならなかった。竹のスピーカーと同様、実効性より精神主義の色合いが濃い。どちらも合理的な思考が欠けている。
取り上げた2つの記事自体は目くじらを立てるほどのものではない。しかしレベルの低さの象徴としての意味があり、800万部の影響力を考えるとやはり見過ごせないと思う。そしてなにより新聞の知性の低下が心配なのだ。新聞は影響力のあるオピニオンリーダーであり、それだけに要求される水準は高い。
実害がなくても食品表示のわずかな違反が大問題になるが、記事の虚偽表示は実害があっても、違法でなく、騒ぎにもならない。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 岡田 克敏
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