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現代によみがえる“死体洗い”の技術。もはや都市伝説ではなくなった

現代によみがえる“死体洗い”の技術。もはや都市伝説ではなくなった

「死体洗いのアルバイト」といえば、都市伝説の定番としてあまりに有名な話だ。病院の地下にあるホルマリンが満たされたプールには、解剖用の死体がいくつも沈められていて、解剖が近づいたらプールから引き上げてホルマリンを洗い流す。

高額な報酬が約束されたこのアルバイトの話は、大江健三郎の『死者の奢り』という小説が元になってできた都市伝説だとか、ベトナム戦争で死んだ兵士をきれいにしてアメリカに送り返すためだとか、いろんな説がある。だが“死体洗い”現代において都市伝説ではなくなりつつある。“では、現代の死体洗い”とは何か? それはエンバーミングといわれる遺体を保存する方法のことだ。

日本では病気や事故などで死んだ場合、多くは死んだ日かその翌日の夜に通夜、そして通夜の翌日には告別式を行い、遺体は火葬にしてしまう。つまり、死後3日ほどで遺体はなくなってしまうのだ。しかも、日本の場合、葬儀社がスケジュールほかすべてを取り仕切るため、混乱もなく通夜・告別式は終了する。よほどのことがない限り遺体を長い間保存する必要性がない、というのが日本の“死体事情”だった。

そんな日本の事情が変わったのが、1995年1月17に発生した「阪神大震災」である。この地震による死者は6000人超。葬儀場が足りず、いくら真冬といえ遺体の腐敗が心配された。この時、ボランティアとして遺体の防腐処置や修復を行ったのが、エンバーミングを専門に行うエンバーマーと呼ばれる外国人技術者だった。記録によると12日間で200 体以上の遺体にエンバーミングを施したという。

エンバーミングは日本では「遺体衛生保全」と訳され、主に葬儀社の一事業として行われているが、まだまだ認知度は高くない。しかし、阪神大震災やJR福知山線脱線事故など、一度に大勢の死者が出た事故や災害の裏では、エンバーマーが活躍をしている。事故や災害で身体や顔面が損傷された遺体を、きれいに修復して遺族の元に返すのが彼らの仕事というわけだ。

実はこのエンバーミングの歴史は相当古く、古代エジプトのミイラ作りにまで逆上るといわれている。つまり“死者の魂はいつか帰ってくる”という古代エジプトの人々の考え方がもとになっているのだ。その後しばらくはエンバーミングはすたれ、再び脚光を浴びるようになったのは1861年、アメリカで勃発した南北戦争の時だ。

国土の広いアメリカでは戦死者を故郷に送り返すにもかなりの日時がかかり、その間に遺体が腐敗する恐れがあった。そして、キリスト教の影響により土葬が一般的な欧米では、遺体を通じて伝染病などが発生しないよう、埋葬する前に遺体に予防的な措置をしておく。いうなれば衛生上の観点からもエンバーミングは必要な措置だった。

これに対して、葬儀はほとんどが仏式で行われる日本では、死者の復活という考えはなく、早くから火葬を行っていたため、遺体の保存や遺体に起因する病気なども心配する必要もなかった。遺体も病原菌もすべてが燃えて灰になってしまうからだ。現在日本には、エンバーミングを施せる施設は20数カ所あり、年間1万人以上の人がエンバーミングを施された上で親しい人に最期のお別れをしている。

ところで実際のエンバーミングはどのように行われるのか。簡単に説明すると、まずは遺体の全身を消毒液で拭き、男性であればヒゲをそり髪を洗う。その後、頸部などを小さく切開し、動脈から防腐剤を体内に注入、同時に静脈から血液を抜き取る。切開部分を縫合し再度、全身を洗浄。衣装を着せ、化粧し顔を整え終了となる。

エンバーマーは、必要とあれば損傷した部分を修復したり、シリコンなどで欠けた部分を復元する。すべての処置が終わったら遺体を柩に納め遺族に引き渡す。こうした一連の処置には熟練した技術が必要なため、未だに外国人技術者に頼らざるをえないのが実情だ。

「知人が交通事故で亡くなった時、ひどく傷んでいたはずの顔がすごくきれいになっていて、顔色も生きている時のようにお化粧をしていました。その知人の娘さんが、エンバーミングの仕事につきたいといって近々学校に通うそうです。父親の顔が見違えるほどきれいに修復されていたのに感動したのがきっかけだといってました」。52歳の会社役員細川さんは、知人の娘さんが一人前のエンバーマーになるまで、陰ながら応援したいと言う。

今後、日本でもエンバーミングの需要が見込まれるのか、日本人のエンバーマーを育てるための教室が開講されている。ただし、日本ではこのエンバーミングに関する法律は存在せず、従ってエンバーマーの資格制度もないため、今後はそのへんの法整備が必要となってくる。

「死体洗いのアルバイト」が世間を騒がせたのは30年以上も前のこと。果してエンバーミングは日本に根づくのだろうか。それとも都市伝説として残ることになるのだろうか。(取材/XIXOX金子保知)


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