幼児の無断写真。母親の抗議は現代病なのか?=朝日新聞の投書より(下)
2007年09月23日09時32分 / 提供:PJ
(上)からのつづき。朝日新聞の21日の『声』の、「見知らぬ男が勝手に娘写す」という投書は、横浜市在住の33歳の母親だが、内容の信憑性に疑問がある。
秋祭りの場で、母親が3人の娘から目を離したのが1分間だったという。この時間は疑わしい。写真を撮られた3歳児が60秒間で、どれだけ遠くに行って帰ってこられるのか? 写真を撮られた娘が下を向く時間を20秒だった、と仮定して差し引くと、片道20秒の距離だ。親の視野から、そう外れない距離だったはず。
警察はおおかた、母親はもっと長時間にわたり、親戚との立ち話で夢中になっていたと見なしたのだろう。(警察官からは)『最後に「お母さん、お子さんのそばから離れないでくださいよ」と諭された』(原文通り)。この母親は、警察から暗に親としての保護義務の欠如を問われたのだ。すると、今度は朝日新聞に投書してきたのだ。
最近は、30代の親の言動で、目や耳を疑う話が多い。
・保育園の運動会で(保育士が撮った)わが子の写真が園内祭で無断掲示された。理事長に抗議し、すべての写真展を止めさせた
・小学校に通うわが子が泣かされたから、担当教師を飛び越え、学校長や教育委員会に訴える。数ヶ月にわたって執拗に抗議した
今回の朝日新聞の投書の主は、秋祭りで、わが娘の写真を撮られたからといい、相手を性犯罪者の容疑、わが子は犯罪被害者の立場で警察に通報しているのだ。これらの当事者は自分の考えがアブノーマルで、異常行動だと気づいていない点がこわい。
こうした社会現象のひずみはどこから生まれてきたのだろうか。
子育てのさなかの30代は、かつて団塊世代の親の上昇志向から、大切な10代を進学塾、学習塾などに送り込まれて育ってきた、という背景がある。自分の成績しかみえず、友だちとのつながり、地域とのつながりが薄かった。親はただ成績への期待が強く、しつけが満足にできず、わが子のわがままに目をつぶる傾向にあった。他方で、外で遊ばない子どもたちは、住人などから注意される機会が少なくなった。この環境では、自分の行動が中心に座る。『唯我(ゆいが)』。ただ我のみ、という自己中心主義で、他人をいたわる心が欠けている。相手のミスは徹底して責めまくる。他方で、自分は正しい判断を持つ人間だと信じ込む。
成人して、子どもを持つ親となった今も、他人から受けたミスが許されず、攻撃的な人間のままだ。日本人の美のひとつ『お互い様』という言葉は、この世代ではもはや死語だ。「店長出せ」「社長出せ」「市長出せ」「校長出せ」──。あちこちから聞こえてくる。知ったかぶりで、個人情報保護法、プライバシー、肖像権などを持ち出す。法的な解釈も満足にできないのに、法律の表層だけを振り回す。
東京・葛飾区内の神社の境内で、9月15日(投書と同日の秋祭り)、PJはヤグラ太鼓の少年少女や、踊る老若男女を撮影していた。屋台の周りに集まる子どもにカメラを向けると、ほとんどの親は、「ほら、ほら写真を撮ってくれるのよ」と振り向かせてくれていた。本殿の前で、小学校高学年の浴衣姿の姉妹にカメラを向けたところ、「撮らないでください」と母親から冷淡な口調で拒絶された。素直に引き下がった。
今回の投書を、PJはその取材現場に置き換えてみた。写真を撮った親から、抗議された挙げ句の果てに、警察に通報される。地元警察署のパトカーがやってくる。祭りの境内は、複数の制服警官の出現で騒然となる。母親はきっと娘の肖像権を持ち出すだろう。PJが諸々と反論する。「署で話を聞こう」となる。PJは「取材の自由」で拒否するだろう。しかし、一般人やアマチュアカメラマンならば、連行に応じるだろう。
投書の主は、『性犯罪者の対象者かどうか確認しろ、それが警察官の最低限の務めではないか』と主張している。一般人が少女を撮った。それで連行される姿を想像すると、戦前の治安維持法の下では、市民の通報で特高警察が土足で踏み込んできたという、弾圧の世相が浮かぶ。
朝日新聞の「見知らぬ男が勝手に娘写す」という、タイトルの投書の主は、そんな暗い世の中を求めているのだろうか。むしろ、「唯我時代」の現代病の一端だと捉えたい。【了】
■関連情報
記者HP:穂高健一ワールド
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秋祭りの場で、母親が3人の娘から目を離したのが1分間だったという。この時間は疑わしい。写真を撮られた3歳児が60秒間で、どれだけ遠くに行って帰ってこられるのか? 写真を撮られた娘が下を向く時間を20秒だった、と仮定して差し引くと、片道20秒の距離だ。親の視野から、そう外れない距離だったはず。
警察はおおかた、母親はもっと長時間にわたり、親戚との立ち話で夢中になっていたと見なしたのだろう。(警察官からは)『最後に「お母さん、お子さんのそばから離れないでくださいよ」と諭された』(原文通り)。この母親は、警察から暗に親としての保護義務の欠如を問われたのだ。すると、今度は朝日新聞に投書してきたのだ。
最近は、30代の親の言動で、目や耳を疑う話が多い。
・保育園の運動会で(保育士が撮った)わが子の写真が園内祭で無断掲示された。理事長に抗議し、すべての写真展を止めさせた
・小学校に通うわが子が泣かされたから、担当教師を飛び越え、学校長や教育委員会に訴える。数ヶ月にわたって執拗に抗議した
今回の朝日新聞の投書の主は、秋祭りで、わが娘の写真を撮られたからといい、相手を性犯罪者の容疑、わが子は犯罪被害者の立場で警察に通報しているのだ。これらの当事者は自分の考えがアブノーマルで、異常行動だと気づいていない点がこわい。
こうした社会現象のひずみはどこから生まれてきたのだろうか。
子育てのさなかの30代は、かつて団塊世代の親の上昇志向から、大切な10代を進学塾、学習塾などに送り込まれて育ってきた、という背景がある。自分の成績しかみえず、友だちとのつながり、地域とのつながりが薄かった。親はただ成績への期待が強く、しつけが満足にできず、わが子のわがままに目をつぶる傾向にあった。他方で、外で遊ばない子どもたちは、住人などから注意される機会が少なくなった。この環境では、自分の行動が中心に座る。『唯我(ゆいが)』。ただ我のみ、という自己中心主義で、他人をいたわる心が欠けている。相手のミスは徹底して責めまくる。他方で、自分は正しい判断を持つ人間だと信じ込む。
成人して、子どもを持つ親となった今も、他人から受けたミスが許されず、攻撃的な人間のままだ。日本人の美のひとつ『お互い様』という言葉は、この世代ではもはや死語だ。「店長出せ」「社長出せ」「市長出せ」「校長出せ」──。あちこちから聞こえてくる。知ったかぶりで、個人情報保護法、プライバシー、肖像権などを持ち出す。法的な解釈も満足にできないのに、法律の表層だけを振り回す。
東京・葛飾区内の神社の境内で、9月15日(投書と同日の秋祭り)、PJはヤグラ太鼓の少年少女や、踊る老若男女を撮影していた。屋台の周りに集まる子どもにカメラを向けると、ほとんどの親は、「ほら、ほら写真を撮ってくれるのよ」と振り向かせてくれていた。本殿の前で、小学校高学年の浴衣姿の姉妹にカメラを向けたところ、「撮らないでください」と母親から冷淡な口調で拒絶された。素直に引き下がった。
今回の投書を、PJはその取材現場に置き換えてみた。写真を撮った親から、抗議された挙げ句の果てに、警察に通報される。地元警察署のパトカーがやってくる。祭りの境内は、複数の制服警官の出現で騒然となる。母親はきっと娘の肖像権を持ち出すだろう。PJが諸々と反論する。「署で話を聞こう」となる。PJは「取材の自由」で拒否するだろう。しかし、一般人やアマチュアカメラマンならば、連行に応じるだろう。
投書の主は、『性犯罪者の対象者かどうか確認しろ、それが警察官の最低限の務めではないか』と主張している。一般人が少女を撮った。それで連行される姿を想像すると、戦前の治安維持法の下では、市民の通報で特高警察が土足で踏み込んできたという、弾圧の世相が浮かぶ。
朝日新聞の「見知らぬ男が勝手に娘写す」という、タイトルの投書の主は、そんな暗い世の中を求めているのだろうか。むしろ、「唯我時代」の現代病の一端だと捉えたい。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一
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