厳しい国会運営を迫られそうだ

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   安倍首相の発言が揺れている。厳しい国会状況を聞かれて衆院の解散・総選挙の可能性を否定したと思えば、その翌日には、インド洋での海上自衛隊による給油支援活動の延長に失敗した場合、内閣総辞職する意向を示したのだ。そうかと思えば、さらに翌日の所信表明演説では「退陣すべきとの意見があるのは承知している」にトーンダウン、総辞職の「覚悟」は示されなかった。

衆院の解散・総選挙は「いま、まったく考えていない」

   安倍首相は2007年9月8日には、アジア太平洋経済協力会議(APEC)出席のために滞在しているシドニーで、海上自衛隊による給油活動の継続を「対外公約」と表現、重要性を強調した。厳しい国会運営が予想されることについては、衆院の解散・総選挙は「いま、まったく考えていない」とした上で、野党が提出を検討している首相の問責決議案については、仮に可決されたとしても、それによって解散する可能性を否定した。

   翌9月9日には、もっと踏み込んだ発言が飛び出した。同日の記者会見では、安倍首相はテロ特措法延長への理解を改めて求め、記者から「(自衛隊の給油)活動継続ができなければ内閣総辞職する覚悟はあるのか」と問われ、

「私の責任において、あらゆるすべての力を振り絞って職責を果たしていかなければならない」

と応じた。さらに、

「そこで私は職責にしがみつくということはございません」

と述べ、自ら退路を断って見せたのだ。

   この発言に対しては、

「最初から最後のカードを切ってしまった」(自民党・加藤紘一元幹事長)
「民主党への宣戦布告」(民主党・輿石東参院議員会長)
「何が何でもごり押しするという脅し」(共産党・市田忠義書記局長)

などと、野党のみならず、与党からも批判・困惑の声が挙がった。そうかと思えば、10日に開会した臨時国会の所信表明演説では一転、トーンダウン

「厳しい民意が示されたのだから、退陣すべきとのご意見もあるのは十分承知しております」
「改革を止めてはならないとの一心で続投を決意した。引き続き改革に取り組むことで国民に対する責任を果たしたい」

などと、若干の反省をにじませながらも、テロ特措法については9月9日のような「内閣総辞職」を示唆するような発言は見られず、従来の主張を繰り返した。登場回数は8回から1回に激減したとはいえ、最後の「キメ」の言葉は、やはり「美しい国」だった。

首相は精神的に不安定な感じ?

   こうした発言の「ブレ」の原因は何なのだろうか。さまざまな見方、憶測が乱れ飛んでいる

   「スポーツ報知」が津島派関係者の声として9月10日伝えたところによると、「総辞職発言」を受けて、首相と距離を置く自民党議員は

「会見の映像を見ていると、(首相は)精神的に不安定な感じだ。辞めるつもりなんじゃないか」

と発言したといい、精神的な弱さが「総辞職説」を唱えさせたのではないか、と示唆している。

   確かに、シドニー訪問前にも同様の兆候が報じられている。「日刊ゲンダイ」が9月7日報じたところによると、ある会合に出席した「マスコミ幹部」が、以下のような感想を漏らした、というのだ。

「体の具合でも悪いのかと思いました。過去の懇談とは大違い。これまでは、自身の理念をとうとうと語るなど、自信と熱意にあふれていた。ところが、今回は何をやりたいのか、聞いてもさっぱり要領を得ない。発音もボソボソで、目もうつろ。大丈夫かなと思った」

   9月6日に安倍首相は報道各社の論説委員、民放各社の解説委員、内閣記者会報道各社キャップと相次いで懇談の場を設けている。その席での話だという。いわゆる「オフレコ懇談」の内容がリークされた形で、どこまで本当かは不明だが、安倍首相の憔悴ぶりが、ここ数日の揺れ動く発言に現れているのかも知れない。