遠藤農相の辞任を伝える新聞夕刊各紙

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   安倍晋三内閣の農水相がまたまた交代した。2007年9月3日に辞任した遠藤武彦・前農水相(68)が組合長を務めていた「置賜農業共済組合」(山形県米沢市)が補助金を不正受給し、不正発覚後も3年以上放置していることに批判が集ったためだ。不正受給されたカネは、9月3日に国庫へ返還されたが、遠藤氏の大臣就任がなければ「うやむや」のままだったのだろうか。責任の所在を巡っては歯切れの悪い「なすりあい」が始まった。

「組合の立場を強くするため、実績を増やしたかった」

   遠藤氏は9月3日、安倍首相へ辞表を提出し受理された。退任会見で不正受給した115万円のうち、返還対象となる50万円を3日に国側へ返還したこと明かし、「国民に政治に対する不信を感じさせたことをお詫びする」と謝罪した。就任した8月27日を含め、たった8日間の大臣の椅子だった。「対応を県に相談していたが、回答がなかった」「なぜすぐにやってくれなかったか」と「恨み節」も出た。

   遠藤氏を巡っては、国から補助金を受ける独立行政法人から5万円の献金を受けていたことが発覚した。遠藤氏は8月31日、違法ではないが「疑わしきは整理する」として5万円の返還を指示した、と会見で語った。そして9月1日、朝日新聞朝刊が「特ダネ」の形で「置賜(おきたま)農業共済組合」の不正受給と発覚後3年間の未返還を報じた。遠藤氏の組合長就任は1982年、不正受給当時も発覚当時も組合長だった。07年9月3日、遠藤氏の8月31日付けの組合長退任が正式に決まった。

   山形県などによると、置賜農業共済組合の不正受給を巡る経緯は次のようなものだ。「舞台」は、ブドウ被害が出た場合に備えて被害を補償する共済制度だ。1999年春、同組合の担当課長ら2人が農家からの加入申し込み数を実際より105戸分水増しして申請した。そして99年度中に、水増し分「農家負担額」と同額に当たる115万円の国庫負担額が、本来の国庫負担額に上乗せされて国から支払われた形となった。99年度は被害申請がなかったためこの115万円について見ると「積み立て」分に回った。「積み立て」は115万円中、国が65万円、山形県農業共済組合連合会が50万円だった。この50万円が今回返還対象となった。

   不正申請した理由については、04年に不正受給が発覚した後に不正申請した2人がした説明によると、ほかの共済組合との合併に備え「自分たちの組合の立場を強くするため、申し込み実績を増やしたかった」ためで、水増し分の115万円は自腹を切ったという。

「検査院や農水省から最終結論の連絡や指導がなかった」

   発覚したのは04年6月だ。山形県経営安定対策課によると、会計検査院が山形県に対し、置賜農業共済組合の不正受給について調査をしている、として資料や検査報告を求めてきた。そして04年度中には、不正請求した2人の聞き取り調査内容などを報告した。関係者2人は、同組合から「厳重注意」を受けた。ところが、次に話題に上るのは、07年5月。会計検査院が、不正受給額の返済など「事後処理を依頼してきた」と説明する。不正請求に関して返還がされていないことを検査院が指摘したのだ。

   「空白」の3年間について同課は、「検査院や農水省から最終結論の連絡や指導がなかった」「事実確認の途中かと認識していた」と「言い訳」する一方、「当時の県担当者から引継ぎが十分でなかったという面もあった」と弁解することしきりだ。同課は、07年5月の検査院からの連絡以降は、再調査による不正申請額の確定などを進め、「返還に向けた詰めの作業中だった」。そこに遠藤氏の大臣就任、「不正受給額の未返還」の報道が続いたというのだ。「あと少しで返還が終わる予定だったのですが」と、未返還発覚のタイミングの悪さを呪った。

   「空白の3年については」、同組合も「上部からの指示がなかった」という見方を示している。また、実際に「県側」へ支払われた50万円については、山形県農業共済組合連合会が管理しているという点を指摘し、「(置賜)組合に直接お金が来ていた訳ではないので」。

   同連合会は「連合会が全く関係ないとはいいませんが、基本的には組合を県が指導することになっています」と巻き込まれたことに不満そうだ。

   一方の会計検査院の渉外広報室は、同組合の不正受給については、文書で公表する形ではまとめていないことを明らかにした。しかし、一般論として「不正があったことを指摘するのが検査院の仕事だが、すべてを文書の形で公表する訳ではない」と説明した。悪質性や金額など様々な「性質」を考慮し、「文書発表ではないが、不正を指摘する」ことは珍しくない。04年の段階で、不正の事実を指摘していたという認識だ。指摘が生かされているかチェックする作業もしており、実際同組合のケースでも、検査院の07年の「未返還」の指摘が山形県や同組合側の「しりをたたく」形にはなったようだ。

   また農林水産省保険課によると、04年の段階で山形県から検査院の指摘があったことは報告を受けていた。しかし「直接的には、県が指導監督する事案」で、県庁側も検査院とやりとりを続けていると聞いていたため、「どうこういう、ということは省としてはしなかった」。もっとも今後は、一般論として「関係当局と連絡を密にして対処していきたい」と「反省」として生かす考えはあるようだ。

   民主党の鳩山由紀夫幹事長は9月3日、記者団に「農水省の構造的な問題」として補助金の実態などを追及する考えを示した。