トヨタ車に「水平対向エンジン」搭載か

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   トヨタ自動車富士重工業と新型スポーツカーを共同開発して、国内市場に投入することを検討していることが明らかになった。富士重工の独自技術である「水平対向エンジン」を搭載し、若者層にも購入しやすい価格帯の200万円以下に抑えて、数年以内の発売を目指すという。価格やコストよりも走りにこだわってきた富士重工の技術を、商品企画力に優れたトヨタが上手に取り込んで格安のスポーツカーとして世に出せるか。両社のコンビネーションに注目したい。

   少子高齢化や「若者層のクルマ離れ」で日本のスポーツカーの市場は停滞している。「燃費が悪い」「スピードを飛ばす場所がない」「保険料金を含めた維持費が高い」などの理由で、ユーザーがミニバンやコンパクトカーに流出してしまったのだ。

トヨタは小型のスポーツカーから事実上撤退していた

   高級スポーツモデルはあるが、若者や女性ドライバーにも乗ってもらえるエントリーモデルはマツダの「ロードスター」くらいしかない。

   トヨタもスポーツカー「MR-S」の生産を2007年7月で打ち切り、小型のスポーツカー分野から事実上撤退した形となっている。だが、世界ナンバーワンへの道を突き進むトヨタにとって、このカテゴリーの欠落は面白くない。どう展開するかが課題だ。

   そこで、富士重工との共同開発となるのだが、08年3月期の研究開発費が530億円の富士重工に、同9,400億円の巨額予算を持つトヨタがスポーツカー開発を委ねる構図には違和感もある。

   だが、新型ディーゼルエンジンはいすゞ自動車に、スポーツカーは富士重工にと、自社の「持たざる部分」を傘下の企業に、というのがグループ拡大を進めたトヨタの最近の方針のようだ。

   富士重工はポルシェとともに高馬力の水平対向エンジンを持つスポーツイメージの強いメーカーだ。「レガシイ」の成功でツーリングワゴンという領域を切り開いたが、「レガシイ」や「インプレッサ」は全高が低いと敬遠される傾向もあり、最近は各社のミニバン、SUV、コンパクトカーとの競合にやや埋没している感がある。

   かつて資本提携した米ゼネラル・モーターズ(GM)との間でも技術の共有が進まず、「技術はあるが、商品力が弱い」という評価が定着していた。

「技術屋のプライド」抑えられるか

   05年10月に8.7%を出資し、富士重工の筆頭株主になったトヨタは、

「今の段階でどのユニットとは考えていないが、水平対向や4WDなどの富士重工の高い技術力を活かしたい」(木下光男副社長)

と、当初から富士重工の持つ技術のトヨタ車への活用を示唆している。

   富士重工側にとっても、新たな刺激になる可能性がある。

   6月に発売した新型インプレッサも、「車内空間の拡大」や「収納スペースの確保」などを前提に設計を行うなど、トヨタとの提携で発想の転換も感じられた。

   今回浮上したライト層にターゲットを絞った低価格スポーツカーは、1,000?〜1,500?クラスのコンパクトカーのエンジンやシャーシを流用して「格安車の開発」を進めていくものとみられる。これは、以前の富士重工だったら取り組むこともなかったテーマだろう。

   「トヨタのバッジで売るクルマ」をつくることを、「技術屋」としてのプライドが受け入れられるかどうかがポイントだ。それを乗り越えて、富士重工の本領を発揮してクルマ好きをうならせるスポーツカーに挑戦できれば、案外、面白い結果になるのかもしれない。