62年前の悪夢…国家による犬猫の大虐殺
2007年08月13日19時50分 / 提供:PJ
1944年12月、大日本帝国政府は「犬猫供出命令」を発令した。撲殺や毒殺された犬猫は数万〜数十万匹と言われている。
07年1月21日7時、NHK総合のニュースの中で、『猫供出の思いを本に』というタイトルの番組が放送された。昭和20年、12歳のときの供出の体験を本にされたという滝島雅子さんという方が出演して、当時のことを話された。概略を紹介する。
当時、彼女の家はクロという猫を飼っていた。彼女はいつもクロと一緒に寝ていたそうだ。供出されることになり、親に言われて、仕方なくクロを袋に入れ、指定された場所に持っていった。棒を持った男が2人立っていて、まわりの雪は赤く染まっていた。彼女は渡さずに帰ろうとしたが非国民と言われ、やむを得ず渡した。クロはその場で撲殺された。
なんとも胸が痛くなる話である。これを単に戦争のせいだとして片付けてはならないと思う。背景にあるほかの多くの要素も見なくてはならない。
戦争をした国は多いが、先進国でこんな野蛮なことをした国は恐らくないだろう。犬猫の殺害は、国民に与える苦痛の大きさに比べ、その有用性があまりにも小さい。この事件の要素として戦争が最も大きいことはもちろんだが、国民性や社会の構造が一定の役割を果たしていたのではないだろうか。
藤原正彦氏は著書「国家の品格」の中で武士道や惻隠(そくいん)の情などさまざまな例を引いて過去の日本国民をさかんに美化している。だが、一面だけを見ていては全体を見損なう。彼は日本人の美しさを強調するあまり、マイナス要素をきれいに落としている。故意なのか、それとも単に無知によるものかはわからない。
犬や猫の供出は、毛皮を集めて軍事用の帽子や飛行服など防寒具を作ると名目で行われたそうだ。06年の東京新聞には「町内会が警察や役所と協力する「犬の献納運動」は、四四年十二月に軍需省化学局長、厚生省衛生局長の連名で徹底を促す通達が出され、強制力が増した」という記述がある。供出は実質的には強制だと見てよいだろう。
非国民といえば誰も逆らえなかった当時の状況が背景にあったのだろう。だがこの事件を通じて注目したいのは、供出を決定した連中など、過剰な反応をする一群の人間の存在である。もちろんそれは事件の一部の説明でしかないが、ほかの社会現象を観察する場合にも興味のある視点になり得ると思うからである。
当時、ほかに例を見ない特攻作戦を発案・実行した者たち、玉砕という美名の下に行われた数々の自殺攻撃、終戦の玉音放送を録音したレコードを奪って降伏を妨害し本土決戦を主張した連中、現代ではダイオキシン騒ぎにキャンプファイヤーまで禁止した自治体の役人など、熱くなって過激に走る人間は、いくらでもいる。始末が悪いことに、良いと信じてやっているので制御がききにくい。彼らには合理的な説明が通じないのだ。
かつての戦争を始めたのも、敗色が明らかな状況で戦争を中止できなかったのもこのようなタイプの人間の存在の影響を無視できないと思う。過激人間と日本人の特色である付和雷同型人間の組み合わせが最悪の暴走を招いたとの見方ができる。国を挙げての煽動(せんどう)が、予期された以上の結果を生み、誰も制御できなくなったのではないだろうか。
国民総動員のための宣伝工作にはメディアの積極的な協力が不可欠であった。メディアは責任逃れのため戦時中の言論弾圧を誇張しているが、実際にはメディアにも過激分子がおり、満州事変以後は軍部が望む以上に積極的に協力したと考えられている。いま朝日新聞に連載中の「新聞と戦争」はそのあたりの事情について今までになく踏み込んだ記事であり、評価したい。しかし、こうした記事が出るまで60余年もかかったことはなんとも情けない。
一般に勇敢で単純・積極的な意見は協調されやすく、冷静で複雑・地味な意見は無視されがちである。メディア内での過激なキャラクターの存在は影響が大きく、いっそう危険である。メディアが一斉に熱くなるときは警戒する必要があるのだ。
戦争がすべての災いをもたらしたという単純な考えは充分ではない。われわれの国民性や社会構造が戦争に加担し、より過酷な、より悲惨なものにしたという視点も必要なのではないだろうか。国民性や社会構造の多くはいまだに続いているのである。【了】
■関連情報
猫の目日記
記者のHP 噛みつき評論
PJニュース.net
07年1月21日7時、NHK総合のニュースの中で、『猫供出の思いを本に』というタイトルの番組が放送された。昭和20年、12歳のときの供出の体験を本にされたという滝島雅子さんという方が出演して、当時のことを話された。概略を紹介する。
当時、彼女の家はクロという猫を飼っていた。彼女はいつもクロと一緒に寝ていたそうだ。供出されることになり、親に言われて、仕方なくクロを袋に入れ、指定された場所に持っていった。棒を持った男が2人立っていて、まわりの雪は赤く染まっていた。彼女は渡さずに帰ろうとしたが非国民と言われ、やむを得ず渡した。クロはその場で撲殺された。
なんとも胸が痛くなる話である。これを単に戦争のせいだとして片付けてはならないと思う。背景にあるほかの多くの要素も見なくてはならない。
戦争をした国は多いが、先進国でこんな野蛮なことをした国は恐らくないだろう。犬猫の殺害は、国民に与える苦痛の大きさに比べ、その有用性があまりにも小さい。この事件の要素として戦争が最も大きいことはもちろんだが、国民性や社会の構造が一定の役割を果たしていたのではないだろうか。
藤原正彦氏は著書「国家の品格」の中で武士道や惻隠(そくいん)の情などさまざまな例を引いて過去の日本国民をさかんに美化している。だが、一面だけを見ていては全体を見損なう。彼は日本人の美しさを強調するあまり、マイナス要素をきれいに落としている。故意なのか、それとも単に無知によるものかはわからない。
犬や猫の供出は、毛皮を集めて軍事用の帽子や飛行服など防寒具を作ると名目で行われたそうだ。06年の東京新聞には「町内会が警察や役所と協力する「犬の献納運動」は、四四年十二月に軍需省化学局長、厚生省衛生局長の連名で徹底を促す通達が出され、強制力が増した」という記述がある。供出は実質的には強制だと見てよいだろう。
非国民といえば誰も逆らえなかった当時の状況が背景にあったのだろう。だがこの事件を通じて注目したいのは、供出を決定した連中など、過剰な反応をする一群の人間の存在である。もちろんそれは事件の一部の説明でしかないが、ほかの社会現象を観察する場合にも興味のある視点になり得ると思うからである。
当時、ほかに例を見ない特攻作戦を発案・実行した者たち、玉砕という美名の下に行われた数々の自殺攻撃、終戦の玉音放送を録音したレコードを奪って降伏を妨害し本土決戦を主張した連中、現代ではダイオキシン騒ぎにキャンプファイヤーまで禁止した自治体の役人など、熱くなって過激に走る人間は、いくらでもいる。始末が悪いことに、良いと信じてやっているので制御がききにくい。彼らには合理的な説明が通じないのだ。
かつての戦争を始めたのも、敗色が明らかな状況で戦争を中止できなかったのもこのようなタイプの人間の存在の影響を無視できないと思う。過激人間と日本人の特色である付和雷同型人間の組み合わせが最悪の暴走を招いたとの見方ができる。国を挙げての煽動(せんどう)が、予期された以上の結果を生み、誰も制御できなくなったのではないだろうか。
国民総動員のための宣伝工作にはメディアの積極的な協力が不可欠であった。メディアは責任逃れのため戦時中の言論弾圧を誇張しているが、実際にはメディアにも過激分子がおり、満州事変以後は軍部が望む以上に積極的に協力したと考えられている。いま朝日新聞に連載中の「新聞と戦争」はそのあたりの事情について今までになく踏み込んだ記事であり、評価したい。しかし、こうした記事が出るまで60余年もかかったことはなんとも情けない。
一般に勇敢で単純・積極的な意見は協調されやすく、冷静で複雑・地味な意見は無視されがちである。メディア内での過激なキャラクターの存在は影響が大きく、いっそう危険である。メディアが一斉に熱くなるときは警戒する必要があるのだ。
戦争がすべての災いをもたらしたという単純な考えは充分ではない。われわれの国民性や社会構造が戦争に加担し、より過酷な、より悲惨なものにしたという視点も必要なのではないだろうか。国民性や社会構造の多くはいまだに続いているのである。【了】
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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 岡田 克敏
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