2007年上半期(1〜6月)の世界販売台数で、世界最大手の米ゼネラル・モーターズ(GM)を抜いて、初めて上半期の世界トップに立ったトヨタ自動車。7月23日に東京で開いた定例の「年央社長会見」はこの明るい話題と今後の成長戦略で一色となるはずだったが、質疑応答では、新潟県中越沖地震に伴う生産停止に絡み、トヨタ生産方式の課題に集中。「世界一」のお披露目のはずの舞台は「余震」に揺さぶられ、トヨタの思惑は外れた。

上半期の世界一についての質問はゼロ

   トヨタは7月20日、上半期の世界販売台数が471万6,000台だったと発表した。前日にGMが販売データを発表したのを受けて早々と数字を出した。月単位の生産関連データを公表するのは毎月翌月の26日前後であることから、通常の月より1週間近く早いタイミングで公表したことになる。23日の社長会見前に公表してニュースにしておきたい、という判断があったためとみられる。今後もデッドヒートが予想されるGMとの世界一競争の行方が話題の中心になるはずだった。

   誤算は地震だ。自動車部品メーカー「リケン」の柏崎市内の工場が被災して操業停止。その一部操業再開が、トヨタの会見する日の午前中。トヨタの工場の一部操業再開も会見の直前に発表されたことから、報道陣の質問は、地震問題に集中した。一つの部品を特定メーカーに発注していた「一社発注」と、余計な在庫を持たないトヨタの生産システム「かんばん方式」の問題点などを突っ込まれ、渡辺捷昭社長は

「工場のラインが止まることを恐れてはいけない。いかに早く復旧するか、立ち上げるかだ」

と説明したが、笑顔はなかった。

   しかも、トヨタの12の自社工場がすべてストップしたことで、その日までに5万台以上の生産が遅れることになり、その影響は年内まで尾を引く見通し。上半期にGMにつけた世界販売台数の差は4万2,000台で、その分を上回った計算だ。これも、世界各地に拡大するトヨタの生産工場に潜むリスクに過剰なスポットライトを当ててしまった。上半期の世界一についての質問はゼロ、会見後のぶら下がり取材でようやく感想を聞かれた程度だった。

約500人を現地に派遣、人海戦術で操業再開

   とはいえ、自動車各社の工場を止めたリケンのエンジン部品のピストンリングは、国内シェア50%、変速機に装着するシールリングはシェア70%で、自動車12社すべてがこの部品に頼っており、影響を受けたメーカーはトヨタだけでない。その中でトヨタはグループ合わせて約500人を現地に派遣した。柏崎のリケン工場に向かった各社の応援要員のざっと半分はトヨタ関係者だった。

   設備が倒壊したり、機械などの位置がズレた生産ラインを人海戦術で元に戻し、高い精度が求められる工程を支障なく再開できるか短期間で試運転を繰り返した結果、リケン工場は地震発生からたった1週間後の23日に操業再開に漕ぎ着けた。威信をかけて被災企業をバックアップしたトヨタの組織力は、「プロジェクトX」さながらに賞賛を浴びてもおかしくはない。それが素直に拍手喝さいとはいかなかった会見は、いささか、気の毒でもあった。