交代した中村をねぎらうオシム監督

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 アジア杯グループB最終戦、日本は開始6分にアクシデントのようなゴールで先制点を献上した。その2分後である。ベンチから大熊コーチがテクニカルエリアに出て、大声で指示を出す。リードされた日本は、いつもの細かくパスを刻むポゼッションサッカーから、ミドルパスをサイドのスペースに出して相手ゴールに迫るスタイルが目立つようになる。そして11分、ミドルパスを受けた中村俊が個人技で突破して巻の同点ゴールを演出した。

 その後の日本はいつものスタイルに戻り、前半に1点、後半に2点を追加してベトナムに完勝。グループBの首位通過を決めた。

 試合後の会見で、前線へと早めにつないだことを聞かれたオシム監督は、まず「それはボールの問題ではなく、ミスの問題だ」と記者団を煙に巻く。そして立ち上がりの両チームの状況を解説しつつ、最後に「ベトナムの戦術を選手たちは理解して、平常心で戦うことが出来た。選手は自分たちで戦うことが出来た」と質問の回答を締めくくった。

 実は前日練習で、これまでの2戦では立ち上がり慎重だったベトナムが、日本戦では逆に開始早々攻めて出てくることも想定し、オシム監督は警戒するよう指示していたことを、選手自身が明らかにしていた。3回に1回はロングパスを出して空中戦に持ち込み、体力の消耗を狙うことも。にもかかわらず、オシム監督は試合後の会見で一言もそのことに触れなかった。

 これが元監督のトルシエ氏なら、得意げに自身のゲームプランを滔々と披露したことだろう。トルシエ監督はいつも自分がチームの中心であり、選手に主従関係を強要する個性の持ち主だった。そんなトルシエ監督のパーソナリティと対極にあるのがオシム監督かもしれない。時にはミスした選手を酷評することもあるが、それはミスをミスと認識させるためで、トルシエ監督やジーコ監督のようにチームから排除するようなことはしない。

 そんなオシム監督が、会見の終盤に「日本は進歩の余地がたくさんある。もちろん今も進歩しているが、それらは後になって分かることも含まれているかもしれない」と、珍しく日本を誉めながらも、意味深長なコメントを残した。

 3年前のアジア杯は、苦しみながらもチームが一団となってタイトルを死守した。ジーコ・ジャパンの絶頂期だったと思っている。そして今大会、「進歩の余地がる」と言うことは、オシム流に解釈すると「それだけ未熟」と言うことにもなる。いったいどこまでオシム・チルドレンは進歩するのか。「後になって分かること」とは、10年W杯本大会を意味しているのかもしれないが、もしかしたら今大会が終わっても「分かること」があるのかもしれない。そのお楽しみは、決勝トーナメント以降にとっておこう。

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六川亨

57年9月25日生まれの49歳。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長、月刊カルチョ2002、月刊プレミアシップ・マガジン、月刊サッカーズの編集長などを歴任。その傍ら、フリーのサッカージャーナリストとしてW杯本大会や予選を始めEUROなどを精力的に取材。今年10月には「フロムワン・サッカーメディアセミナー」を開講し、セミナー長を務める予定。