こんなユニークな教え方の講師がほしい! うちの大学にも(下)
2007年06月29日13時08分 / 提供:PJ
(中)からのつづき。電通マンは広告媒体を通し、大衆という不特定多数の心をつかむ。『人の心をつかむのは、ことばと音楽』という根本の理念がある。斉藤さんは常にエッジのある言葉を考える。学生300人相手の90分授業。その中の5分間の休憩では、音楽のみならず、詩の朗読もあるという。ことばと音楽で、斉藤さんは学生の心を射止めているのだ。
斉藤さんはあるとき長野県の安曇野で、前々から欲しかった1万5000円の風鈴『明珍(みょうちん)』を買い求めた。長さが違うパイプが連なり、風鈴の短冊が揺れるたびに澄んだ、いい音階の音色がひびく。斉藤さんは寝床の枕元に『明珍』をおいて聴いている。
それを教室に持ち込む。学生たちにはそれを聴かせながら、「素材は刃とおなじ鋼です。鋼は武器にもなる。人の気持ちを穏やかにする、音色の風鈴にもなる」といえば、学生たちは真剣に耳を傾けてくれるという。
ある新聞連載で、『善久(ぜんきゅう)のちょっと気になる発想法』というコラムを書く。そこには「コミュニケーションの達人は誰?」「アイデアの貯金をしよう」「音楽は発想の玉手箱」「ラディカルに発想すると面白い」「感動体験は創造の源」というユニークな題名が並ぶ。話題が豊富な『善久の発想法』が教室でも飛びだす。
学校の教育では、『質問一つで答えが一つ』だ。しかし実社会では一つの課題に対して、答えが5つも、6つもある。「人生は答えが一つではありえない」。1+1=2ではない。男+女=子どもが生まれたら3になる。エッジのある言葉とたとえ話で、生徒の心をひきつけているようだ。
300人の大授業では、それでも単調になりやすい。そこで、斉藤さんには『ゲスト・シリーズ』と称する策があるのだ。それは学生に大きな刺激を与えている。
学生たちに最も人気のある職業の一つにアナウンサーがある。斉藤さんは知り合いの有名女性アナウンサーを教室に招き、実情を語ってもらう。大学から費用が出ないので、友情出演である。コピーライターには広告制作の実例を話してもらう。友人の下田尚保さんには『のこぎり演奏』を三曲ほど奏でてもらった。私的な人脈をも授業に動員する。学生たちは大喜びだ。
これで斉藤さんの授業に魅力を感じない学生はまずいないだろう。斉藤さんの授業には、毎年、定員を越す学生の申し込みがあるという。
大学生のつよい関心事は就職活動だ。斉藤さんは電通人事局にいた経験から、学生が就職活動に役立つような情報を授業の流れのなかに組み込む。学生の押さえどころをしっかり熟知しているようだ。
時として、学生たちにはお土産を与える。「詩」「俳句」「短歌」をプリントして、授業の終了まえに配るのだ。それら準備は大変だろうと思う。
斉藤さんは週2回しか教えない。残る5日間はこれらの準備期間に当てているという。斉藤さんには教授と違って図書購入費など支給されない。「過去の人生で、いまほど、図書館を使うことはありませんでした」と話す。
元電通マンの斉藤さんには、時の流れを先読みする感性が身についている。「2、3年先の大学授業では、電子教科書が教室に持ち込まれるでしょう。パソコンか、携帯電話か、いずれかのディスプレーを見ながら授業を進めていく。それは時代の必然です」と見通す。
ペーパーの教科書がやがてウェブに変わる。予測する斉藤さんはこの夏に、それを視野した教科書の電子出版を出す予定だ。先を読み、そして実行していく人だ。
「若い学生とは、この年寄り(自分)と付き合わないと損をするぞ、という気持ちで接しています。見返りに、若い世代から刺激を受けています。学生と接していると、いろいろ吸収できるし、楽しいですよ」と語った。
学歴に関係なく誰しもが長く記憶にとどまる、忘れられない先生はかならずいるものだ。大学では数百人の学生を相手にした講師でも、印象深く残っているひともいる。
東京女子大、獨協大学、武蔵大学の学生たちに限っていえば、数多くが長きにわたって、『斉藤善久』という講師の名を記憶にとどめるだろう。【了】
■関連情報
さいとうぜんきゅう著『ひらめきのマジック』株式会社ボイジャー
記者HP:穂高健一ワールド
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斉藤さんはあるとき長野県の安曇野で、前々から欲しかった1万5000円の風鈴『明珍(みょうちん)』を買い求めた。長さが違うパイプが連なり、風鈴の短冊が揺れるたびに澄んだ、いい音階の音色がひびく。斉藤さんは寝床の枕元に『明珍』をおいて聴いている。
それを教室に持ち込む。学生たちにはそれを聴かせながら、「素材は刃とおなじ鋼です。鋼は武器にもなる。人の気持ちを穏やかにする、音色の風鈴にもなる」といえば、学生たちは真剣に耳を傾けてくれるという。
ある新聞連載で、『善久(ぜんきゅう)のちょっと気になる発想法』というコラムを書く。そこには「コミュニケーションの達人は誰?」「アイデアの貯金をしよう」「音楽は発想の玉手箱」「ラディカルに発想すると面白い」「感動体験は創造の源」というユニークな題名が並ぶ。話題が豊富な『善久の発想法』が教室でも飛びだす。
学校の教育では、『質問一つで答えが一つ』だ。しかし実社会では一つの課題に対して、答えが5つも、6つもある。「人生は答えが一つではありえない」。1+1=2ではない。男+女=子どもが生まれたら3になる。エッジのある言葉とたとえ話で、生徒の心をひきつけているようだ。
300人の大授業では、それでも単調になりやすい。そこで、斉藤さんには『ゲスト・シリーズ』と称する策があるのだ。それは学生に大きな刺激を与えている。
学生たちに最も人気のある職業の一つにアナウンサーがある。斉藤さんは知り合いの有名女性アナウンサーを教室に招き、実情を語ってもらう。大学から費用が出ないので、友情出演である。コピーライターには広告制作の実例を話してもらう。友人の下田尚保さんには『のこぎり演奏』を三曲ほど奏でてもらった。私的な人脈をも授業に動員する。学生たちは大喜びだ。
これで斉藤さんの授業に魅力を感じない学生はまずいないだろう。斉藤さんの授業には、毎年、定員を越す学生の申し込みがあるという。
大学生のつよい関心事は就職活動だ。斉藤さんは電通人事局にいた経験から、学生が就職活動に役立つような情報を授業の流れのなかに組み込む。学生の押さえどころをしっかり熟知しているようだ。
時として、学生たちにはお土産を与える。「詩」「俳句」「短歌」をプリントして、授業の終了まえに配るのだ。それら準備は大変だろうと思う。
斉藤さんは週2回しか教えない。残る5日間はこれらの準備期間に当てているという。斉藤さんには教授と違って図書購入費など支給されない。「過去の人生で、いまほど、図書館を使うことはありませんでした」と話す。
元電通マンの斉藤さんには、時の流れを先読みする感性が身についている。「2、3年先の大学授業では、電子教科書が教室に持ち込まれるでしょう。パソコンか、携帯電話か、いずれかのディスプレーを見ながら授業を進めていく。それは時代の必然です」と見通す。
ペーパーの教科書がやがてウェブに変わる。予測する斉藤さんはこの夏に、それを視野した教科書の電子出版を出す予定だ。先を読み、そして実行していく人だ。
「若い学生とは、この年寄り(自分)と付き合わないと損をするぞ、という気持ちで接しています。見返りに、若い世代から刺激を受けています。学生と接していると、いろいろ吸収できるし、楽しいですよ」と語った。
学歴に関係なく誰しもが長く記憶にとどまる、忘れられない先生はかならずいるものだ。大学では数百人の学生を相手にした講師でも、印象深く残っているひともいる。
東京女子大、獨協大学、武蔵大学の学生たちに限っていえば、数多くが長きにわたって、『斉藤善久』という講師の名を記憶にとどめるだろう。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一
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