セリエA移籍市場で現在、話題をさらっているのが、ホンジュラス人FWスアゾ(カリアリ)の移籍問題だ。スアゾはいったんインテルと合意に達し、13日にはクラブのドクターチェックまで済ませている。ところが、急転直下「ミランがスアゾ獲得」と現地報道された。当然インテルとミランの間で緊張が高まっているが、一体何が起こっているのか。問題の核心にあるのは、選手移籍に関する契約のあり方だ。

 選手契約の取引については、移籍金金額や新契約年俸などが明記された正式文書に、交渉当事者である2クラブの署名と選手本人の署名、この3つの署名がない限り無効とされている。今回のスアゾ移籍に関して情報を整理すると、どうやら契約文書が「2つ」存在しているらしいのだ。つまり「カリアリ(クラブ)の署名がないインテルの契約書類」と「スアゾ(選手)のサインがないミランの契約書類」の2つだ。

 この場合、正式にクラブ間合意に達しているのはミランが作成・所有している方で、この点で何ら咎めはない。だがインテルの方は、現保有権を持つカリアリのサインを欠いた選手本人のサインのみを先に得ていることで、もしスアゾと正式契約に至っても1年間プレーさせられない出場停止処分、ならびに5万ユーロ(800万円強)の罰金を科される可能性がある。

 ちなみにインテル、ミランがスアゾに提示した契約内容は「4年契約の年俸350万ユーロ(約5億8000万円)」で同じ。だが、スアゾと2010年までの契約を所有していた、直接の交渉相手であるカリアリ側に提示した内容が異なっている。ミランは「移籍金1400万ユーロ(約23億円)の一括払い」を提示したのに対し、インテルは「移籍金1000〜1100万ユーロ(約16億5000万〜18億円)の3年分割払い+FWアクアフレスカ(現トレビゾ)の保有権半分」をオファーしていた。

 スアゾの代理人を務めているのは、欧州一の敏腕で知られるジョバンニ・ブランキーニ氏。同氏は19日には香港にいたが、同地滞在中も曲者として知られるカリアリ会長チェッリーノ氏とコンタクトを取り続けていた。ブランキーニ氏は21日にもイタリアへ帰国し、事態収拾を図るものと見られている。

 伊サッカー協会も情報収集に乗り出したこの移籍問題。毎度丁々発止の駆け引きが見られる移籍市場だが、問題解決へ法廷闘争もやむ無し、とのムードも出てきた。

弓削高志