27日の今季セリエA最終節、欧州CL覇者となったばかりのミランをホームで破って残留を果たしたとき、ほぼ不可能と思われたミッションを完遂したレッジーナ監督マッツァーリはピッチ上で男泣きした。試合後ミランのアンチェロッティ監督も「(実質)51ポイントを得たレッジーナは残留に値する。素晴らしいチームだった」と称賛した。

 一方でわずか3kmの海峡で隔てられているだけのメッシーナは、あえなくB降格した。元日本代表MF小笠原が今季在籍した、シチリア島北東部の玄関口のチームは昨季もB落ちするはずだったが、ユヴェントスが降格したため一転繰り上げ残留となった。もともと2部を戦うつもりだったクラブには1部を戦いぬく資金繰りも体制も整っていなかった。だが、それは十分好転可能だった。しかしクラブ戦略の未熟さからくる戦力補強の失敗、計3度の監督交代、すべてが悪循環へ陥った。地元プレス、サポーターとクラブの間にはいさかいが絶えず、3者が一枚岩になったことは一度もなかった。

 天王山である、レッジーナとの「海峡ダービー」で、メッシーナ側サポーターが応援ボイコットしたのが象徴的だ。最終的に19ゴールを挙げ一人気を吐いたFWリガノが「隣町のチームがペナルティに苦しみながら残留へ必死に頑張ってるのに…俺たちはイタリア中の笑い者だ!」と激を飛ばしたが、呼応する選手は誰一人いなかった。メッシーナが降格したのは必然だったともいえる。

 対岸のレッジョ・カラブリアと同じ港町でありながら、両者の間には決定的な差があった。それは最後まであきらめない精神力だ。書いてしまうと簡単だが、そこには苦い記憶が関係してくる。レッジーナには過去2度残留決定戦を戦った経験がある。00-01シーズンにヴェローナ相手に破れ1度は苦渋の降格を味わい、その2年後の2度目はアタランタをBの奈落へ突き落とすことで至福を得た。数ヶ月も続いた重いプレッシャーをはねのけて勝ちとった、町の人間全員にとっての勝利だった。メッシーナにはその経験が不足していた。

 おそらく、かなり高い可能性でこの奇跡を起こしたレッジーナは消えて無くなる。イタリア若手監督中、もはや知性派ナンバー1の呼び声も高くなったマッツァーリは引く手あまたで、今季移籍市場額を大きくアップさせたFWビアンキやFWアモルーゾ、数々のMFたちは他チームへ売却されるだろう。それがカルチョの現実である。だからこそ、今季のレッジーナは、戦いを見届けたすべての人たちにとって、「レジェンダ(=伝説)」として語り継がれるのだ。

弓削高志