「高校生が自作装置で核融合」ってホント?
2007年05月23日10時27分 / 提供:PJ
21日付のライブドア・トレビアンニュース高校生が手作り原子炉を作成!核融合成功に近所はドン引き!では、アメリカ合衆国ミシガン州の高校生・Thiago Olsonさんが、手作りの装置で重水素核融合に成功したことが報じられたが、このニュースについて、いくつかコメントしたい。
まず、ニュースタイトルの「原子炉」という表現が紛らわしい。「原子炉」とは通常、「核分裂炉」を指し、ウランなどの重い原子の核に中性子が衝突することによって2つの軽い元素に分かれる「核分裂反応」を起こす装置である。このニュースでは核融合を取り上げているので、「核融合炉」と言うべきだ。核融合炉とは、水素のような軽い原子からヘリウムなどのより重い原子が生成する「核融合反応」を引き起こす装置のことである。ただ、「炉」という言葉は、継続的に核反応を持続させる装置のことを指すのが一般的なため、今回の装置は「核融合反応装置」とするのが正しい。
核融合を起こすためには、2つの原子核を近づければいい。ただ、原子核はプラスの電荷を持つので、ちょうど2つの磁石のN極とN極、S極とS極が反発するのと同じように反発しあい、核融合が起こるほどの距離まで近づけるのは難しい。そのため、原子核を猛スピードでぶつけ合ったり、高い圧力で圧縮したりする必要がある。
Thiago Olsonさんが作ろうとしたのは、Farnsworth型(慣性静電閉じ込め型)核融合装置のようだ。Farnsworth型装置の中心部には、金属性のボール状のカゴがあり、装置の内壁がプラス極、中心部のカゴがマイナス極になるように電圧をかける。電圧が数万ボルトになると、装置内部のガスがグロー放電でプラズマ化してイオンが生成し、電圧で加速されたイオンが衝突することによって核融合反応が進行する可能性がある。現在では、Farnsworth型核融合装置は比較的簡単な中性子発生装置として研究が進められている。(参考サイト:慣性静電閉じ込め核融合を用いた放電型粒子線源)
ニュースでは「2億度のプラズマが発生した」と報じられているが、数億度のプラズマ温度というのは、プラズマ科学では普通の温度だ。温度というのは、大雑把に言うと、「粒子の運動の速さ」のことであり、80℃の水の中では20℃の場合よりも水分子は活発に動いていて、100℃を超えると水分子同士がひきつけあう力よりも水分子の運動が激しくなって水蒸気になる。2万ボルトの電圧をかけた電極の間を、電子が"他のものにぶつからず"加速しながら進めば、電子の温度は2億度になる。テレビのブラウン管は、電子を加速して、それを蛍光体にぶつけて画像を表示するが、電子を加速する電圧は2万ボルト。つまり、電子温度としては約2億度である。
さて、核融合反応は実際に起こったのだろうか。
装置の写真を見ると、真空排気装置に150リットルのロータリーポンプを使っている。ロータリーポンプの到達圧力は、0.1パスカル程度。大気圧(10万パスカル)では、1立方センチあたり2.7×1019個の分子がいるが、0.1パスカルでも2.7×1013個の気体分子がいる。こんなに"邪魔もの"がいると、電子は他の分子にぶつかってしまい、速度はなかなか上がらない。「2億度のプラズマ温度」というのは、おそらく、2万ボルトの電圧をかけたことから推測しているだけで、実際の温度はもっと低いのではないか。このことは、一番下の写真で、プラズマが紫色であることからも推測できる。(ただし、減圧雰囲気下での単なるグロー放電の可能性もある。)本当に2億度のプラズマを発生させようと思ったら、もっと高真空を実現できる拡散ポンプや分子ターボポンプなどの排気装置が必要だろうし、正確なプラズマ温度と素性を明らかにするためには、X線や紫外線領域の発光分析やラングミュア―プローブによる測定も必要だ。
重水素核融合が起こったとする証拠として、核融合の結果生じる中性子束や3He(質量数3のヘリウム)の確認は不可欠である。中性子束やごく微量の3Heを確認するには、それなりの測定装置とテクニックが必要だ。また、一般家庭で数万ボルトの電圧を発生させるのに必要な電力をどう供給したのか、重水素(重水)をどうやって入手したのかという素朴な疑問も残る。
以上からわたしは、現時点での情報を考える限り、重水素核融合が起こった可能性は低い、と考えている。しかし、Thiago Olsonさんが、核融合を起こそうと思い立って、数多くのアイデアを出しながら、装置を作り、おそらくプラズマを発生させたことには心から敬意を表する。少なくともグロー放電まではたどりついているのだ。検証作業によって、今回の実験が核融合だったのかそうではなかったのかが明らかになるとしても、彼の興味と努力は称賛に値するだろう。核実験には常に危険がはらむが、できれば安全についての専門家のアドバイスを受けながら(もっとも、安全を確保するとなると自宅ガレージでは難しいが)、これからも研究を続けてほしいと思う。
それにしても、世の中にはすごい高校生がいるものだ。
<補足-ITER>
瞬間的な核融合はこれまでも各国で報告されている。核融合発電の実現のためには、核融合を「連続」で起こす技術が必要である。この技術開発を目指しているのが、国際熱核融合炉(ITER)で、フランスに建設されることが決まっている。総建設費は5000億円といわれている。【了】
■関連情報
PJニュース.net
まず、ニュースタイトルの「原子炉」という表現が紛らわしい。「原子炉」とは通常、「核分裂炉」を指し、ウランなどの重い原子の核に中性子が衝突することによって2つの軽い元素に分かれる「核分裂反応」を起こす装置である。このニュースでは核融合を取り上げているので、「核融合炉」と言うべきだ。核融合炉とは、水素のような軽い原子からヘリウムなどのより重い原子が生成する「核融合反応」を引き起こす装置のことである。ただ、「炉」という言葉は、継続的に核反応を持続させる装置のことを指すのが一般的なため、今回の装置は「核融合反応装置」とするのが正しい。
核融合を起こすためには、2つの原子核を近づければいい。ただ、原子核はプラスの電荷を持つので、ちょうど2つの磁石のN極とN極、S極とS極が反発するのと同じように反発しあい、核融合が起こるほどの距離まで近づけるのは難しい。そのため、原子核を猛スピードでぶつけ合ったり、高い圧力で圧縮したりする必要がある。
Thiago Olsonさんが作ろうとしたのは、Farnsworth型(慣性静電閉じ込め型)核融合装置のようだ。Farnsworth型装置の中心部には、金属性のボール状のカゴがあり、装置の内壁がプラス極、中心部のカゴがマイナス極になるように電圧をかける。電圧が数万ボルトになると、装置内部のガスがグロー放電でプラズマ化してイオンが生成し、電圧で加速されたイオンが衝突することによって核融合反応が進行する可能性がある。現在では、Farnsworth型核融合装置は比較的簡単な中性子発生装置として研究が進められている。(参考サイト:慣性静電閉じ込め核融合を用いた放電型粒子線源)
ニュースでは「2億度のプラズマが発生した」と報じられているが、数億度のプラズマ温度というのは、プラズマ科学では普通の温度だ。温度というのは、大雑把に言うと、「粒子の運動の速さ」のことであり、80℃の水の中では20℃の場合よりも水分子は活発に動いていて、100℃を超えると水分子同士がひきつけあう力よりも水分子の運動が激しくなって水蒸気になる。2万ボルトの電圧をかけた電極の間を、電子が"他のものにぶつからず"加速しながら進めば、電子の温度は2億度になる。テレビのブラウン管は、電子を加速して、それを蛍光体にぶつけて画像を表示するが、電子を加速する電圧は2万ボルト。つまり、電子温度としては約2億度である。
さて、核融合反応は実際に起こったのだろうか。
装置の写真を見ると、真空排気装置に150リットルのロータリーポンプを使っている。ロータリーポンプの到達圧力は、0.1パスカル程度。大気圧(10万パスカル)では、1立方センチあたり2.7×1019個の分子がいるが、0.1パスカルでも2.7×1013個の気体分子がいる。こんなに"邪魔もの"がいると、電子は他の分子にぶつかってしまい、速度はなかなか上がらない。「2億度のプラズマ温度」というのは、おそらく、2万ボルトの電圧をかけたことから推測しているだけで、実際の温度はもっと低いのではないか。このことは、一番下の写真で、プラズマが紫色であることからも推測できる。(ただし、減圧雰囲気下での単なるグロー放電の可能性もある。)本当に2億度のプラズマを発生させようと思ったら、もっと高真空を実現できる拡散ポンプや分子ターボポンプなどの排気装置が必要だろうし、正確なプラズマ温度と素性を明らかにするためには、X線や紫外線領域の発光分析やラングミュア―プローブによる測定も必要だ。
重水素核融合が起こったとする証拠として、核融合の結果生じる中性子束や3He(質量数3のヘリウム)の確認は不可欠である。中性子束やごく微量の3Heを確認するには、それなりの測定装置とテクニックが必要だ。また、一般家庭で数万ボルトの電圧を発生させるのに必要な電力をどう供給したのか、重水素(重水)をどうやって入手したのかという素朴な疑問も残る。
以上からわたしは、現時点での情報を考える限り、重水素核融合が起こった可能性は低い、と考えている。しかし、Thiago Olsonさんが、核融合を起こそうと思い立って、数多くのアイデアを出しながら、装置を作り、おそらくプラズマを発生させたことには心から敬意を表する。少なくともグロー放電まではたどりついているのだ。検証作業によって、今回の実験が核融合だったのかそうではなかったのかが明らかになるとしても、彼の興味と努力は称賛に値するだろう。核実験には常に危険がはらむが、できれば安全についての専門家のアドバイスを受けながら(もっとも、安全を確保するとなると自宅ガレージでは難しいが)、これからも研究を続けてほしいと思う。
それにしても、世の中にはすごい高校生がいるものだ。
<補足-ITER>
瞬間的な核融合はこれまでも各国で報告されている。核融合発電の実現のためには、核融合を「連続」で起こす技術が必要である。この技術開発を目指しているのが、国際熱核融合炉(ITER)で、フランスに建設されることが決まっている。総建設費は5000億円といわれている。【了】
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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 小林 亮一
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