メタルクライシス〜枯渇する元素〜(1)技術立国・日本の生命線とは
2007年05月18日10時06分 / 提供:PJ
資源小国・日本の危機
日本に資源が少ないことは、よく知られている。特に1970年代の石油ショックでは、原油・石炭などの化石燃料資源への危機感が一気に高まり、産油国との協調や油田開発による資源の確保が進められてきた。しかし、日本が輸入に頼る資源は、化石燃料だけではない。現代産業の基盤となる様々な金属資源もまた、海外からの輸入に依存しているのが現状である。
地球上に存在する元素の割合を表す指標の一つに、クラーク数がある。これは、地球の全質量の0.7パーセントに相当する地表部分に存在する元素の割合を重量パーセントで表示したものである。クラーク数の大きなもの(つまり、地表に多く存在している元素)を順にあげていくと、
1 酸素 49.5(重量パーセント、以下同じ)
2 ケイ素 25.8
3 アルミニウム 7.56
4 鉄 4.70
5 カルシウム 3.39
6 ナトリウム 2.63
7 カリウム 2.40
8 マグネシウム 1.93
9 水素 0.83
10 チタン 0.46
11 塩素 0.19
12 マンガン 0.09
13 リン 0.08
14 炭素 0.08
15 硫黄 0.06
16 窒素 0.03
17 フッ素 0.03
18 ルビジウム 0.03
19 バリウム 0.023
20 ジルコニウム 0.02
21 クロム 0.02
22 ストロンチウム 0.02
23 バナジウム 0.015
24 ニッケル 0.01
25 銅 0.01
のようになる。つまり、地球の表面近く(海や大気や地表)にある物質を分析すると、その49.5パーセントは酸素、25.4パーセントはケイ素である。クラーク数が大きな元素ほど人類が利用しやすい元素、ということもできる。
では、近くの土1キログラムを分析すると、たとえばクラーク数25番目の銅が0.1グラム(0.01パーセント)含まれるかというと、そうではない。クラーク数はあくまで平均値で、それぞれの元素は世界中のところどころに固まって存在し、ある場所には1キログラム当たり10グラムの銅が含まれていることもあれば、他の地域ではほとんど含まれないこともある。
日本の科学技術の進展は、材料科学の進展によって支えられてきた部分が大きいが、新しい材料ほどクラーク数の小さな、言ってみれば利用しにくい金属元素を使う傾向があるように思える。たとえば、半導体産業の中心となる材料はクラーク数49.5のケイ素(Si)であったが、新たな半導体産業の中心となる材料の一つはヒ化ガリウム(GaAs、ガリヒ素と呼ばれることもある)というガリウムとヒ素の化合物であり、ガリウムのクラーク数は15 ppm(1トン中に15グラム)、ヒ素のクラーク数はわずか1.8 ppmでしかない。
国家戦略資源としての希少金属
このような希少金属のほとんどを日本は海外、特に中国やロシアなどの「希少金属大国」からの輸入に依存している。最近、これらの「希少金属大国」が、希少資源の価値を再評価し始め、国家戦略の一部として資源輸出量や生産量のコントロールを始めようとしている。
中国は2005年8月22日の通達で「輸出奨励から国内需要を優先する方針」への政策転換を明らかにし、タングステン、インジウム、バナジウム、モリブデン、アンチモン等の価格が高騰した。また、高付加価値化政策によって、タングステン鉱石の輸出を禁止し、最終素材(精錬したW金属)や中間素材のみを輸出することによって輸出品の重量当たりの単価を上げ、これによって、日本をはじめとする輸入国の素材メーカーが大きな打撃を受けている。いまや、希少金属は国家戦略物資であるのだ。
日本はどうするのか
産業界では、すでに希少金属の枯渇・高騰に対する相当な危機感がある。いくつかの希少金属(ニッケル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウム)については、1983年から国家備蓄が始められているが、その量はわずか40日分(民間備蓄分と合わせれば60日分)でしかない。将来にわたる希少金属の安定供給は極めて不透明である。これらの希少金属元素に頼らない技術を生み出さなければ、近い将来、日本の科学産業は瓦解してしまうだろう。
これまで希少金属の国家備蓄を主な対策としてきた政府も、平成19年度から、希少金属への依存を軽減する科学技術プロジェクトを開始した。文部科学省と経済産業省が省庁の枠を超えた連携によってプロジェクトを立ち上げたのも、それだけ政府内部に希少金属への危機感があるからなのだろう。
この連載記事では、希少金属問題を解決するための国家プロジェクトについて取り上げ、政府関係者、研究者らへのインタビューを交えつつ、日本の希少金属元素戦略について考えてみたい。【つづく】
■関連情報
PJニュース.net
日本に資源が少ないことは、よく知られている。特に1970年代の石油ショックでは、原油・石炭などの化石燃料資源への危機感が一気に高まり、産油国との協調や油田開発による資源の確保が進められてきた。しかし、日本が輸入に頼る資源は、化石燃料だけではない。現代産業の基盤となる様々な金属資源もまた、海外からの輸入に依存しているのが現状である。
地球上に存在する元素の割合を表す指標の一つに、クラーク数がある。これは、地球の全質量の0.7パーセントに相当する地表部分に存在する元素の割合を重量パーセントで表示したものである。クラーク数の大きなもの(つまり、地表に多く存在している元素)を順にあげていくと、
1 酸素 49.5(重量パーセント、以下同じ)
2 ケイ素 25.8
3 アルミニウム 7.56
4 鉄 4.70
5 カルシウム 3.39
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13 リン 0.08
14 炭素 0.08
15 硫黄 0.06
16 窒素 0.03
17 フッ素 0.03
18 ルビジウム 0.03
19 バリウム 0.023
20 ジルコニウム 0.02
21 クロム 0.02
22 ストロンチウム 0.02
23 バナジウム 0.015
24 ニッケル 0.01
25 銅 0.01
のようになる。つまり、地球の表面近く(海や大気や地表)にある物質を分析すると、その49.5パーセントは酸素、25.4パーセントはケイ素である。クラーク数が大きな元素ほど人類が利用しやすい元素、ということもできる。
では、近くの土1キログラムを分析すると、たとえばクラーク数25番目の銅が0.1グラム(0.01パーセント)含まれるかというと、そうではない。クラーク数はあくまで平均値で、それぞれの元素は世界中のところどころに固まって存在し、ある場所には1キログラム当たり10グラムの銅が含まれていることもあれば、他の地域ではほとんど含まれないこともある。
日本の科学技術の進展は、材料科学の進展によって支えられてきた部分が大きいが、新しい材料ほどクラーク数の小さな、言ってみれば利用しにくい金属元素を使う傾向があるように思える。たとえば、半導体産業の中心となる材料はクラーク数49.5のケイ素(Si)であったが、新たな半導体産業の中心となる材料の一つはヒ化ガリウム(GaAs、ガリヒ素と呼ばれることもある)というガリウムとヒ素の化合物であり、ガリウムのクラーク数は15 ppm(1トン中に15グラム)、ヒ素のクラーク数はわずか1.8 ppmでしかない。
国家戦略資源としての希少金属
このような希少金属のほとんどを日本は海外、特に中国やロシアなどの「希少金属大国」からの輸入に依存している。最近、これらの「希少金属大国」が、希少資源の価値を再評価し始め、国家戦略の一部として資源輸出量や生産量のコントロールを始めようとしている。
中国は2005年8月22日の通達で「輸出奨励から国内需要を優先する方針」への政策転換を明らかにし、タングステン、インジウム、バナジウム、モリブデン、アンチモン等の価格が高騰した。また、高付加価値化政策によって、タングステン鉱石の輸出を禁止し、最終素材(精錬したW金属)や中間素材のみを輸出することによって輸出品の重量当たりの単価を上げ、これによって、日本をはじめとする輸入国の素材メーカーが大きな打撃を受けている。いまや、希少金属は国家戦略物資であるのだ。
日本はどうするのか
産業界では、すでに希少金属の枯渇・高騰に対する相当な危機感がある。いくつかの希少金属(ニッケル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウム)については、1983年から国家備蓄が始められているが、その量はわずか40日分(民間備蓄分と合わせれば60日分)でしかない。将来にわたる希少金属の安定供給は極めて不透明である。これらの希少金属元素に頼らない技術を生み出さなければ、近い将来、日本の科学産業は瓦解してしまうだろう。
これまで希少金属の国家備蓄を主な対策としてきた政府も、平成19年度から、希少金属への依存を軽減する科学技術プロジェクトを開始した。文部科学省と経済産業省が省庁の枠を超えた連携によってプロジェクトを立ち上げたのも、それだけ政府内部に希少金属への危機感があるからなのだろう。
この連載記事では、希少金属問題を解決するための国家プロジェクトについて取り上げ、政府関係者、研究者らへのインタビューを交えつつ、日本の希少金属元素戦略について考えてみたい。【つづく】
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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 小林 亮一
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