日産自動車などの国内企業にも制度導入が広がってきた

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   会社に出勤せずに自宅で働く「在宅勤務」が急速に普及している。1999年に導入した日本IBMなど、当初は外資系のIT(情報技術)企業が中心だったが、07年4月から松下電器産業が、目的に関係なく希望する社員は家で働ける新制度をスタートさせた。日産自動車も06年7月から育児・介護目的限定ながら在宅勤務制度を始めるなど、国内企業にも導入の動きが広がってきた。少子高齢化に伴う労働力人口の減少を見据え、柔軟な働き方を認めることで優秀な人材を確保し、厳しい国際競争を乗り切るのが狙いだ。

7割の人が「仕事の効率が上がった」

   松下が始めた制度は、国内の全従業員7万6,000人のうち、工場勤務者など在宅勤務が不可能な人以外ほぼ全員が対象。対象者は3万人と国内で最大規模だ。希望者は前もって上司に自宅で行う仕事の内容などを申告。当日は仕事の始めと終わり時に電子メールで報告すればいい。最大、週2〜3日まで自宅勤務できる。パソコンなど、必要な設備は会社が支給する。

   在宅勤務は通勤時間が減って家事と仕事の両立ができるなど、従業員のメリットが強調されてきた。しかし、会社にとっても利点が大きいという。松下が試行者に行ったアンケートでは、7割の人が「仕事の効率が上がった」と答えた。自宅で働くために、前もって仕事の段取りを組み立ててから臨むことや、会社での無駄な雑用、会議に邪魔されず、集中して仕事に取り組めるのが大きい。

   日本テレワーク協会(東京)の推計では、自宅近くのサテライト(衛星)オフィス勤務を含む広い意味での在宅勤務者は、96年度の81万人から05年には506万人に増えた。就業人口の7.8%にあたる。普及の背景には、高速インターネット網などインフラが整ったこともある。ただそれでも、アメリカの24.6%、ドイツの16.6%に比べると立ち遅れている。

部下を置いておきたい上司が最大の抵抗勢力

   同協会では「制度だけ導入しても、企業文化を変えないと絵に描いた餅になる」と指摘する。個人個人の仕事の分担が明確に決まっている欧米と違い、日本企業は個人の仕事の範囲があいまい。「とかく目の届く範囲に部下を置いておきたいと思う上司が最大の抵抗勢力」(同協会)だという。

   実は松下も00年から育児・介護目的に限った在宅勤務制度があったが、ほとんど活用されなかった。一部の人の特権的な制度になってしまい、積極的に取得できる雰囲気でなかったからだ。松下の今回の制度は、中村邦夫会長肝いりの制度。

「多様化する顧客ニーズに応えるためには、いろんな価値観を持った人材を取り込むことが大切。会社にいることが頑張っていること、という従来の勤労文化を壊さないと、優秀な若手は採用できない」(同社)

という狙いだ。大坪文雄社長も幹部を集めた席で、ことあるごとに多様な働き方の意義を強調し、取得を勧めている。「在宅勤務が成功するにはトップの強い意志が不可欠」(同社)のようだ。