社会はどこまで狂うのか・・・自殺した生徒遺族に加害者が慰謝料の請求(上)
2007年04月28日16時35分 / 提供:PJ
昨年から「いじめ」による自殺が止まらない。そんな中、一昨年(2005年)12月に自殺した、長野県立丸子修学館高校(当時は丸子実業高校)の高山裕太君(当時16歳)の遺族が、いじめの加害者とされるバレーボール部員らから3000万円もの損害賠償を求められている。
いじめられた側がいじめた側に慰謝料を求めるのなら、子どもの命を金銭であがなうことはできないながらもまだ話はわかる。しかし、なぜ、自殺した生徒の遺族が加害者から訴えられるのだろうか? この事件について考えてみたいと思う。
高山裕太君が自殺するまでの経緯・・・
05年4月。裕太君は、将来工学関係の仕事を希望し、またバレーボール部での活躍を夢見て長野県立丸子実業高校(現 丸子修学館高校)建設工業科に入学した。この高校のバレーボール部は、全国大会出場の実績を持つ屈指の強豪である。しかし実は、内部では以前からいじめは数多く行われていた。むろん裕太君は、そのようなことは知る由もなく、期待に胸を膨らませて入学した。
当時、裕太君は変声期とともに発症した喉の病気により、かすれ声でうまく話すことができず病院に通院していた。中学の時にはそのことでからかわれることはなかった。
ところが高校に入ってからは、それがきっかけでバレー部員の先輩からのいじめが始まった。声の物まねなどを何回もずっとされて、裕太君はとても苦痛を感じていたという。バレー部員先輩からのハンガーで強く殴られる暴力も受けていた。同バレー部では、以前はもっとひどい体罰なども行われていたという噂もある。伝統のいじめ、の一環だったのだろうか。
夏休みも終わる8月30日、裕太君は学校に向かうといって家を出て、不登校のまま家出した。学校では、家出の報に対し「友達の家に居るんでしょう」と笑い、裕太君の捜索に協力的でなかった。そこで母親が駅に頼み、改札の監視用のビデオによって裕太君の姿を確認して、裕太君が新幹線に乗ったことを突き止め、家出だと確認を取った。母親はその後、捜索のためのチラシを作成して上京、上野警察署などに捜索の依頼をし、それが奏功して家出後7日目に上野署により裕太君は保護された。
このときに、非常に残念なことがあった。それは、警察の動きである。警察は以前に母親のトラブル相談を受け、母親を精神異常者だと信じていた。裕太君家出の捜索願を受けた警察は、そういう家庭に育った裕太君が家出をしたのだから母親の精神異常が原因だろうと勝手に決め付ける。そうして、学校との連絡を取る際に、学校が責任を感じる必要はないというようなニュアンスを強くにおわせたという。
そのため、裕太君が無事に帰宅した後、この家出の理由と再発防止策・登校について、裕太君の保護者と学校は対立関係になった。裕太君の母親が「学校でいじめがあるため、裕太君はそれを回避するための家出をしたのだ」と主張したのに対し、学校は「家出の原因はいじめではなくお母さんが原因だし、学校ではいじめの事実はない」といじめを否定。さらにその後の学校の動きは母親には知らせられなかった。このため、裕太君は、二学期は不登校状態になった。
この後、警察がバレー部生徒から事情を聞く機会があったが、その際には生徒全員がいじめをしたことを認めたという。しかし、そのことは裕太君にも保護者にも秘密にされた。
そして学校は裕太君には「このままでは留年するから出席するように」と、登校を促してきた。いじめられて登校できないという状態にふたをして、単なる不登校として扱っていることを示したのだ。それに裕太君側があいまいに合意したため、以降は登校しないのは約束違反だと責め立てられ、そうして12月5日には夕方5時より6時間ものあいだ登校を強要され精神的に追い詰められて、裕太君は深夜に自殺を決行してしまった。
なぜここまで話がこじれたのか・・・?
《その1:警察》
裕太君の母親は、3年前まで夫から配偶者暴力を受けており、警察に相談したことがあった。3年前当時、警察は相談に訪れた高山さんに措置入院が必要ではないかと疑い、それで病院に連れて行った。しかし、病院が措置入院の必要はないと診断した、にもかかわらず、警察は高山さんに対する考え方を改めなかった。
そういうことがあったから、裕太君家出の捜索願を出したいという母親を、警察は門前払いしていた。そして「母親の主張は聞くに価しない」という主旨の連絡を関係各所に行っていたということだ。
警察も一般の方も知らないであろうことだが、男性に危害を加えられる女性は、相手が配偶者である場合にこそ、死の危険を感じることが多い。これは同性同士のケンカや親子での諍い・赤の他人では決して感じられないことだ。例えは悪いが、男性なら例えば、本気で怒っているプロレスラーと組み合ってケンカすることの恐怖・・・に近いものがあるのだ。
そんななかで高山さんが半狂乱になって助けを求めたとしても、何の不思議もない。むしろ、冷静に相談に来ることが無理な状況だろう。配偶者の暴力がそれほどまでに恐ろしいことを知らなかった、警察官の対応の不適切さと記録の残し方や次の件へのつなげ方に母親への蔑視が感じられて、記者はとても不愉快であった。しかし何より、警察が適切な対応をしていればひとりの若い命が救われたかもしれないことを考えると、市民を守るための警察の責任はどうなったのかと怒りがこみ上げてくる。
《その2:学校》
学校がいじめを隠す体質についてはこれまでも頻繁に指摘されているが、高山君の場合も例外ではなかった。そもそも学校においては、校長が代表者であり、校長の適格性は各種の数字で表される。進学率、国立大学に進学した人数、退学者率、学費の納入率・・・そしてそれらと並んで大事なのが、いじめの件数が少ないことだ。このため、学校はどこも一様に、いじめの件数については過少申告する傾向がある。
そこに警察から「学校が責任を感じる必要はない」というアドバイスをもらったら学校はどうするか・・・? 『それならいじめと見なさなければよい』と考えることは決して不自然ではない。こうして、この事件でも学校はいじめの事実を隠すことになる。
こうして学校が暴走を始めてしまえば、教育委員会もそれに従うことになる。教育委員会の委員は、校長よりは役職の格が低いし、年齢も大抵は10歳ほど若い。加えて自分の委員会の配下でいじめが行われた件数を気にしているのだ。学校社会全体がその質を数字だけで評価されることが、学校の本質につながっていると言っても過言ではない。【つづく】
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いじめられた側がいじめた側に慰謝料を求めるのなら、子どもの命を金銭であがなうことはできないながらもまだ話はわかる。しかし、なぜ、自殺した生徒の遺族が加害者から訴えられるのだろうか? この事件について考えてみたいと思う。
高山裕太君が自殺するまでの経緯・・・
05年4月。裕太君は、将来工学関係の仕事を希望し、またバレーボール部での活躍を夢見て長野県立丸子実業高校(現 丸子修学館高校)建設工業科に入学した。この高校のバレーボール部は、全国大会出場の実績を持つ屈指の強豪である。しかし実は、内部では以前からいじめは数多く行われていた。むろん裕太君は、そのようなことは知る由もなく、期待に胸を膨らませて入学した。
当時、裕太君は変声期とともに発症した喉の病気により、かすれ声でうまく話すことができず病院に通院していた。中学の時にはそのことでからかわれることはなかった。
ところが高校に入ってからは、それがきっかけでバレー部員の先輩からのいじめが始まった。声の物まねなどを何回もずっとされて、裕太君はとても苦痛を感じていたという。バレー部員先輩からのハンガーで強く殴られる暴力も受けていた。同バレー部では、以前はもっとひどい体罰なども行われていたという噂もある。伝統のいじめ、の一環だったのだろうか。
夏休みも終わる8月30日、裕太君は学校に向かうといって家を出て、不登校のまま家出した。学校では、家出の報に対し「友達の家に居るんでしょう」と笑い、裕太君の捜索に協力的でなかった。そこで母親が駅に頼み、改札の監視用のビデオによって裕太君の姿を確認して、裕太君が新幹線に乗ったことを突き止め、家出だと確認を取った。母親はその後、捜索のためのチラシを作成して上京、上野警察署などに捜索の依頼をし、それが奏功して家出後7日目に上野署により裕太君は保護された。
このときに、非常に残念なことがあった。それは、警察の動きである。警察は以前に母親のトラブル相談を受け、母親を精神異常者だと信じていた。裕太君家出の捜索願を受けた警察は、そういう家庭に育った裕太君が家出をしたのだから母親の精神異常が原因だろうと勝手に決め付ける。そうして、学校との連絡を取る際に、学校が責任を感じる必要はないというようなニュアンスを強くにおわせたという。
そのため、裕太君が無事に帰宅した後、この家出の理由と再発防止策・登校について、裕太君の保護者と学校は対立関係になった。裕太君の母親が「学校でいじめがあるため、裕太君はそれを回避するための家出をしたのだ」と主張したのに対し、学校は「家出の原因はいじめではなくお母さんが原因だし、学校ではいじめの事実はない」といじめを否定。さらにその後の学校の動きは母親には知らせられなかった。このため、裕太君は、二学期は不登校状態になった。
この後、警察がバレー部生徒から事情を聞く機会があったが、その際には生徒全員がいじめをしたことを認めたという。しかし、そのことは裕太君にも保護者にも秘密にされた。
そして学校は裕太君には「このままでは留年するから出席するように」と、登校を促してきた。いじめられて登校できないという状態にふたをして、単なる不登校として扱っていることを示したのだ。それに裕太君側があいまいに合意したため、以降は登校しないのは約束違反だと責め立てられ、そうして12月5日には夕方5時より6時間ものあいだ登校を強要され精神的に追い詰められて、裕太君は深夜に自殺を決行してしまった。
なぜここまで話がこじれたのか・・・?
《その1:警察》
裕太君の母親は、3年前まで夫から配偶者暴力を受けており、警察に相談したことがあった。3年前当時、警察は相談に訪れた高山さんに措置入院が必要ではないかと疑い、それで病院に連れて行った。しかし、病院が措置入院の必要はないと診断した、にもかかわらず、警察は高山さんに対する考え方を改めなかった。
そういうことがあったから、裕太君家出の捜索願を出したいという母親を、警察は門前払いしていた。そして「母親の主張は聞くに価しない」という主旨の連絡を関係各所に行っていたということだ。
警察も一般の方も知らないであろうことだが、男性に危害を加えられる女性は、相手が配偶者である場合にこそ、死の危険を感じることが多い。これは同性同士のケンカや親子での諍い・赤の他人では決して感じられないことだ。例えは悪いが、男性なら例えば、本気で怒っているプロレスラーと組み合ってケンカすることの恐怖・・・に近いものがあるのだ。
そんななかで高山さんが半狂乱になって助けを求めたとしても、何の不思議もない。むしろ、冷静に相談に来ることが無理な状況だろう。配偶者の暴力がそれほどまでに恐ろしいことを知らなかった、警察官の対応の不適切さと記録の残し方や次の件へのつなげ方に母親への蔑視が感じられて、記者はとても不愉快であった。しかし何より、警察が適切な対応をしていればひとりの若い命が救われたかもしれないことを考えると、市民を守るための警察の責任はどうなったのかと怒りがこみ上げてくる。
《その2:学校》
学校がいじめを隠す体質についてはこれまでも頻繁に指摘されているが、高山君の場合も例外ではなかった。そもそも学校においては、校長が代表者であり、校長の適格性は各種の数字で表される。進学率、国立大学に進学した人数、退学者率、学費の納入率・・・そしてそれらと並んで大事なのが、いじめの件数が少ないことだ。このため、学校はどこも一様に、いじめの件数については過少申告する傾向がある。
そこに警察から「学校が責任を感じる必要はない」というアドバイスをもらったら学校はどうするか・・・? 『それならいじめと見なさなければよい』と考えることは決して不自然ではない。こうして、この事件でも学校はいじめの事実を隠すことになる。
こうして学校が暴走を始めてしまえば、教育委員会もそれに従うことになる。教育委員会の委員は、校長よりは役職の格が低いし、年齢も大抵は10歳ほど若い。加えて自分の委員会の配下でいじめが行われた件数を気にしているのだ。学校社会全体がその質を数字だけで評価されることが、学校の本質につながっていると言っても過言ではない。【つづく】
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パブリック・ジャーナリスト 広觜志保子
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